第6話

「しんっ」

俺はー洗い物を終えてー

「おめーだっ」

母さん今頃何してるかな。

「おいっ」

もしかして同じ事してるかもしれないな。

「気を張っとけっ」

ご飯のど通ってるのかな。

い”っ!!!

頭頂部がびりびりする。

頬杖をついた手が頬をすっぽ抜けて,

顎が突然と急降下.

「馬鹿になるからっ」

振り返りざま,更に打ち込まれる手っ突いは

かわす.

かわせる.

かわす事が出来る.

「なっ」

…おっ…おぉ…

「付いて来い」

こっちの事なんて全くお構いなしな。

なんか、この人

俺のこと犬扱いなんだよなぁ。

「何でですか俺今」

「返事」

「わ…へいっ」

ぐぬぬ。

石出て来そうで、ひん呑みそうで。

昔はもっとこう…

優しかったような気が…

もう忘れ去ってしまってて

造られた美化された状態なのかもしれない。

今見えてる状態を主軸に据えて、

落ち着いて見て見れば、

これがこの人。

違和感がある。

何に?

何に…

そうだ

一人分の足音しか聴こえない。

自分一人が歩いてるかの様。

床踏み抜きそうなガタイなのに、

どうなってんの?

重心は…

足の運びは…

うむ。

あっそうだった

礼を言わないと

「有難うございました」

「何に対してだ。」

背中見ながら、前見ながら。

お互い様な感じが。

なににっ?

たいしてっ!?

「えっ…あのっそのっ」

「本意でなければ告げない方がいい」

「何っ…

そっそれはっ何処を見てそう言われてるんでしょうかっ?」

ピクリともしない背中見ながら、ピリついてくる。

俺の本意とか俺しか分からないのに。

有難うって潤滑剤じゃねーっ?

口の中の石中ててやったら気が収まりそう。

かっかしてて焼け石になりそう。

持ってる茶碗を頭に投げつけて,

握ってる箸を首に差し込んだら,

風が吹くあちらに向けて,

裸足で走り出す.

別に死人が死人を殺した所で,

何ら咎は無い.

有難うすらも受け取れない

こいつは

何者でも無い.

母さんが,きっと待ってる.

俺の心の中で封印すれば,

母さんが知る由もない.

何度も死んだ事を知る必要もない.

より自然な動きで.

流れるように.

俺は出来る.

急にピタッと止まった。

「突き当たりが長の部屋、行かないように。

ここは用の有る際だけ来ても良い。」

多分来ねー。

「はい。分かりました.」

分かりました?

そんなの納得する必要ある?

今から消す奴に対して.

早く動けよ.

じりじりと気持ちだけが動くと,

「先に行け.」

逆に促される.

「俺,ここは初めてで」

「部屋に入るだけだ.

難しくない.」

そりゃ難しくは無いけど…

しまった.

うだうだ考えてるうちに背後は見せてくれなくなった

事だけが分かる.

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