第4話
あーかぁさん
お腹空いてるんだけど動けないから、そこ置いといて。
それ好きなやつだ。
食べさせてとか言いたい。
口開けて雛みたいに。
たまには甘えたってなぁ。
「誰が母ちゃんだ」
え?うっわ恥ずかしっ。どっから何処まで声出てたの?
「好物供わってた。
早く食っちゃえよ。
俺らにとって目に毒だ。
最初だけなんだよなー後は日に日に忘れられて。
月命日が年になり…
はぁまぁお前に言う事じゃないよな。
早くしろ。んっ。」
出し汁が椀の中で少し跳ねる。
「すげぇ適当に言うけど、
彼方此方おかしな具合で
腹空いてるけど食べられんみたいな。」
「じゃあ俺らで下げていい?
今の食事班へったくそで。
家庭の味に丁度飢えてる」
「待て待て待てい。
今すぐ腹に入れる。」
椀渡されて箸渡されて。
…
椀のぞき込んで目だけ丁度見える。
「なぁ…
俺…
死んだの?
普通に差し入れなんだろ?
俺、頑張ってるから母さんが…
差し入れで…
だから会わずに…逢えずに…」
「思ってろ勝手に」
「早く帰ってやらないと母さんが心配しちまう。
父さんも水に呑まれたんだ。
俺が帰ってやらないと母さん一人で…
独りで…
死んでない!死んでないって知らせなきゃいけない!」
「お前んちの墓に供わってた何度も言わせんな」
線香の味がする、ちょっと乾燥気味の揚げ出しに泣けてくる。
随分前に死んだと思ってた奴らと動いてる。
確かに体は上がって来なかった。
状況的に判断されて、厳かに葬儀がなされて、お別れをしてきた。
「俺…死んだ」
「大丈夫。こっちのが先死んでる」
「全く大丈夫じゃない。
何で兄は俺選んだの?
見届け人。」
兄が黙って見てくるんで俺が続けるしかなかった。
「父さん亡くして水は駄目って知ってたのに。
何で俺誘ったんだよ。
酷過ぎないか…」
それでも尚何も言わないので、
酷過ぎないかと、また呟いた。
俺の見届け人は母さんだ。
いや待てよ。
「母さん…知ってたのか?
俺が死ぬことを。」
全て演技か…演技なのか…?
「今回は知らされてないと思う。
そこは重要ではない。決定事項は変わらない。」
「それはっ誰が決めるんだよ!覆してやる!」
「ちょっとは黙れよ。さっきから知ったような口利いて。
逆算してもギリギリって聞いてる。
説得する暇なんて無かったんだよ残念だけど。
腹ごなしかよ急に勢い付いて厄介な。」
「あぁそうだあの時、足引いて溺れさせた奴は何処のどいつだよ!
腹が立ってきた!
おい!言えよ!」
「仲間は売らない覚えとけ。こうして里は存続していってる。
誰かが暗躍しないと里が守れない。」
「別に!暗躍しなくても守るべき時に守るべく動いたらいいじゃないか!」
「静かに」
そう静かに兄が発した。
静かに出来ねぇ。
穏やかになれねぇ。
「これがっどれだけおかしいことなのかっ分かった上での所業かよっ」
「だからっ静かにしろってっ!」
畳を殴りつけた兄の方が派手にうるせぇ。
行灯が揺れる。
「風呂は?」
「はっ?」
今、風呂っつった?
「1年だ。何でもして貰えんのは。
早く、こっちに適合しろ。」
はぁ…
「礼は?」
「誰に?」
「…
抱えて悪路を進んでくれた人に礼言っとけよ。」
「あぁ有難う。」
「俺じゃない。」
「あぁうん。分かった。」
あの場に2人。
こいつじゃないなら、あの人だ。
気が付いて直ぐなのに礼とか言える訳ないじゃないか馬鹿め。
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