地図
◇◇◇◇
夜が明ける。
俺が魔法で出した岩の壁の下、焦げ臭い匂いが充満していて、盗賊たちが倒れている。
その倒れている盗賊たちは全身に火傷を負い、微かに息をしていた。
輝夜の魔法では殺し切れなかったらしい。
「カヒュ……カヒュ……」
盗賊たちは呼吸する度に掠れた笛のような音を鳴らし、目はどこか遠くを見ていた。
近くに居た盗賊の腕を踏んでみたが、俺を視界に捉えることもなく、声を出すこともしない。
踏む力を強くしてみても、眉一つ動かさず、俺の足を払い除けることもしなかった。
全然反応がない。
微かに息をしているだけ。
まさに死に際といったところだろうか。
コイツらの誰か一人を回復させて、道案内をさせればこの場所から安全に逃げられるかもしれない。
一度痛い目を見た奴は、そう簡単に嘘はつかないだろう。
死に際の人間を回復させるには、中級以上の回復魔法を使用しないといけない。もし試すとしても一回が限度で、その一回でも俺の魔力を大量に使う。
デメリットとしては嘘を教えられることと、回復魔法を使ったあとに自殺されることぐらいか。
簡単に思いつくデメリットでも今は許容することができない。
安全策は諦めて、さっさと埋めるか。
俺は魔法で土を掘り、盗賊を足蹴にして掘った穴に入れていく。それを繰り返す。
そして全員を穴に入れたら魔法で土を被せる。
息がある盗賊たちは生きたまま土に埋めた。
一人一人殺していくのも体力を使うからな。
これで俺は襲ってきた盗賊たちを一人残らず土に埋めたことになる。
盗賊たちを埋めるだけなら魔法で簡単に片付くが、俺は埋める前に盗賊のアイテム袋や服のポケットを調べていた。
そのせいで時間がかかってしまったが、そのかいもあって、小さな手書きの地図を十五枚も手に入れた。
地図の確認の前にまず身体に付いた血を落とさないといけない。
朝の張り詰めた空気が溶けて、周りの風景が色を取り戻す時間帯。冷たい空気が勢いよく俺の身体を吹き抜けていく。
手が汚れるのは覚悟していたが、自分の身体を見ると、腕、腹、足。結構な範囲であちこちに血が付いていた。
埋めるぐらいならそんなに血は付かないだろうと思っていたが、甘かった。
盗賊を殺した後に輝夜と全身を水洗いしたのだが、また全身を水洗いした方が良さそうだ。
身体に付着した血は念入りに落とさないといけない。
妖精は血を好む。血は魔法の触媒にも使われるぐらい魔力と結び付きが強い。魔力が無い時は血で魔力としての代用ができるほどだ。
身体に血が付いていると、妖精が群がってきて、自分の魔力が暴走したり、命が短くなると言われる『
だから敵地にいても血が付いたら洗い流す。それを怠ったら、怠った奴から死んでいく。戦場で魔力が暴走して死んだ奴らをこの目でごまんと見てきた。
俺は馬車の御者席に地図を置き、馬車から離れる。そして初級の水魔法を準備する。
服を脱がず、服を着たまま全身を洗う。
『水の精霊よ。我の声を聞き、応じたまえ、ウォーター』
俺の頭上に大きな水の玉が現れる。俺が目をつぶると、水が一気に上から下へと滝のように流れた。下に行った水は再度頭上に集まるようにコントロールし、再度流す。
それを五回繰り返した。
目を開けて水玉を見ると、水玉は血を吸って赤くなっていた。
赤くなった大きな水玉を頭上から横にズラし、水玉を魔力に変える。すると血だけが空中から地面に落ちた。
清潔になった身体で俺は馬車の御者席に座る。
そして御者席に置いていた十五枚の手書きの地図を確認していく。
五枚の地図は見覚えがあってアークグルトの門周辺の地図。四枚の地図は何処の地図か分からない。
運がいいことに残りの六枚の地図はこの場所を示した地図みたいだ。その六枚の地図の中には『男一人、女子供一人、馬車』と書いてある地図が二枚もあった。六枚ともに地図の中央には丸の印が付けられている。
この丸印が馬車を襲った場所だと推測すると、俺が今いるこの場所は丸印の位置だ。
そして六枚の地図の中の一枚に『ルーサ』と書かれてあるのを発見した。
当たりだ。
たしかグレマンス領にはルーサという町があったような気がする。
まずは『ルーサの町』を目指すか。
この地図が罠の可能性は十分にありえるが、その可能性は低いだろう。『ルーサ』と書かれている地図が罠だとするなら、この一枚しかないというのも納得がいかない。
それよりもこの地図の持ち主が『ルーサ』という名前の方が可能性としては高い。ルーサは英雄の名前だしな。
地図には馬車の進行方向も書かれてあった。
ルーサは地図の右上。ここが地図の中心だとすると、このまま道なりに進んで、三本に分かれる道の一番左の道を進めばルーサの町に着くことになる。
手書きの地図だからか、ここからルーサの町までどのぐらい離れているのかは見当もつかない。
日が昇っている内には着きたいな。
俺はテリトリーで散らばせていた魔力を自分に集める。
すると周りを囲んでいた岩の壁がガラガラと音を出しながら壊れた。
風の魔法で今から通る道の瓦礫を払い除ける。
馬の手網を持ち、二頭の馬に回復魔法と身体強化魔法をかける。
「お前ら、俺に力を貸してくれ」
俺が言い終わると馬がブルルと唸る。『しょうがないな』と言っているようだ。
ご都合な翻訳。
「頼むな」
馬との話も終え、手網を引いて馬車は走り出した。
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