探知
◇◇◇◇
戦争に来て、十二日目。
私の妹、輝夜を助けるために立ち上がってくれた三人。
私も含めた四人なら絶対になんとなる! と言う自信が湧いてきます。それが私たちのいつも通り。
異世界まで飛んだ私たちに不可能なことなんてありません。
もう少しで聖教国アークグルトとの戦争が終わります。ゴーディアスさんが言うには、あと五つの大きな拠点を壊せば、この戦争が終わるらしいです。
一日に大きな拠点を二つ壊していますから、上手く行けばあと三日で戦争が終わる計算です。今日は待機命令が出てますけど、早くこんな戦争終わらせたいです。
相手方の陣地に踏み込めば踏み込むほどに、敵さんが多くなってきました。
大小はあれど、この戦争で私たちはアークグルトの拠点を五十個近く壊しています。
敵さんも強敵という強敵はおらず、ここまで苦労なく来れました。
人を殺す訓練はしてましたが、初めての戦争で私は沢山の人を殺しました。人を殺す度に心が重くなります。
それでも『輝夜を助けるため』だと思ったら、少しだけ心が軽くなります。
私はダメなお姉さんです。こんな時まで輝夜に頼るんですから。
……人殺しなんて早くやめたいです。
敵さんに私と同じ世界から来た子もいましたが、洗脳が強すぎて会話にもならなかったです。召喚した者に対するアークグルトの姿勢が見えました。
怖いです、輝夜も同じように洗脳されていると考えるのは。
戦争中は野宿です、テントを張って寝ます。何かあればワルチャードの兵隊さんが起こしに来てくれます。
私たち四人には専用のテントが一人一人に支給されています。冷房も完備しているのには驚きました。
三日前に理沙のテントにお邪魔して二人で寝ていたら、冷房が効きすぎていて凍るかと思いました。私は我慢が出来なくなって、自分のテントに帰ったぐらいです。
理沙は暑がりなのは知ってますけど、温度を上げないと風邪を引きます。理沙は理沙で、丁度いいと言いますし、心配です。
「……む、ねぇ
「は、はい!」
急に肩を揺らされて私は驚いて返事をします。
「何回も呼んだんだよ」
「な、なんでしょう」
隣りにいた理沙が目を細めて可愛らしく怒っています。
「ご飯だって」
理沙の後ろに視線をやると、兵隊さんがご飯をお盆に乗せて持って来ていました。
「ッ! あっ、気づかなくてごめんなさい。ありがとうございます」
椅子に座っていた私はすぐに立ち上がって兵隊さんからご飯を貰います。
兵隊さんは私にご飯を渡すと、軽く頭を下げて、どこかへ行ってしまいました。
「美味しそうだね」
「そう、ですかね」
理沙の言うことには同意できなかったです。
椅子に座り直し、お盆を膝の上に置きます。
水入りのコップ、パンと味の無いシチュー。しかもシチューは牛乳臭いです。
あと生焼けのステーキ肉が付いています。最近の朝昼晩のご飯はいつもこれです。今日は少し遅い朝ご飯。
毎回思いますけど、料理にはまったく火が通ってないです。料理の焼き加減なんて作る人のこだわりがあったとしても、これはあんまりです。
戦時中に満足いく量の料理が食べれるなんてありがたいことなんですが、こんな所で食べるお肉が新鮮な訳ないです。絶対ちゃんと火を通さないとお腹を壊します。
回復魔法なんて物がありますし、この世界の人は食中毒とか気にしないんでしょうか? それともお肉を新鮮に保つ魔法があるのでしょうか? まぁこれも食文化の違いですね。
私は椅子の横に置いていたバッグからナイフと握りこぶしだいの岩塩を取り出します。ナイフで岩塩を薄く削ってステーキ肉とシチューにかけます。
理沙を見ると、フォークをステーキ肉に刺して、豪快にかぶりついていました。
私が順応できていないだけなのか、皆んな異世界に来て、ワイルドさが増したような気がします。
「ん? どうしたの?」
理沙は私の視線に気づいて、ステーキ肉から口を離しました。
「し、塩いりますか?」
「いや、いい。私はこれで十分」
「そうですか」
蒼介君と小林君は今、周辺の見回りに行っているからいないですが、理沙と同じ薄味派で、生焼けでも美味しいと言って食べています。
異世界に来て知った、私と三人の味覚の違いついては衝撃的でした。
私も薄味でも食べれないことは無いのですが、せっかくの料理なので少しでも美味しく食べたいです。
薄味なのはなんとか食べれますけど、それでも生焼けは無理なので私はちゃんと火を通して食べます。
ナイフと岩塩をバッグに戻しから、両手の上に『ファイアーボール』を一つづつ出します。
二個の炎をシチューとステーキ肉にかざして温めていきます。
「もう歩夢は心配しすぎ」
「理沙は心配しなさすぎです、お腹が痛くなっても知りませんからね。しかも私はしっかり焼いたお肉の方が好きなんです」
魔法は自分で火を出せるから便利です。
「……む! ……あ!」
遠くから大声を出しながら走って来ている人がいます。遠目から蒼介君ということは分かるのですが、何を言っているのか聞き取れません。
「蒼介、大声で歩夢の名前を言いながら走って来てるね」
理沙には蒼介君の声が聞こえるらしいです。火の魔法を消して、蒼介君の言っていることに耳を傾けます。
「歩夢! 歩夢!」
すると私にも「歩夢」と言っているのが聞こえてきました。
蒼介君と私とは結構な距離があったにも関わらず、蒼介君はすぐに私の目の前まで来ました。
「何かあったんですか?」
「あゆ、やちゃ、が、ゴホッゴホッ!」
「大丈夫です!?」
ハァハァと息が切れている状態で蒼介君は口を動かしますが何を言っているのか分からないです。
咳き込んでいるのに笑顔を崩さない所を見るに、悪いことを伝えに来た訳じゃないようです。それだけ良いことがあったのでしょう。
私はご飯が乗っているお盆を持って立ち上がり、お盆を椅子の上に置きます。そして咳き込んでいる蒼介君の背中をさすります。
「ゴホッゴホッ! ごほっ! あぁ、も、もういいよ。ありがとう、はぁはぁ、はぁ」
蒼介君の言葉が繋がったのを見て、背中をさするのをやめます。
「で、蒼介はなんで来たの? まだ見回りの時間でしょ」
理沙が蒼介君になんで来たのかを聞きます。
「陸斗の魔眼の能力は覚えてるかい?」
「それはもちろん『探索の魔眼』でしょ。敵がいたら分かる能力」
「そ! それも、探しているモノが見つかる能力。その魔眼に反応があったんだ、なんだと思う?」
蒼介君は勿体ぶる言い方で、私の興味を引きます。
「知らないわよ」
理沙は興味が無いのか、蒼介君の話には付き合わないみたいです。
「それもそうか、じゃ言うよ。驚きすぎないように深呼吸して」
私は蒼介君の言うように、深呼吸を一つ。
蒼介君と目が合うと、蒼介君は言葉を続けました。
「輝夜ちゃんを見つけた」
私は蒼介君の言葉に唖然とします。
小林君の探知範囲に輝夜が入ったということは、近くにいるということです。
そう思えば、じわっと目の奥が痛くなって、途端に涙が溢れました。涙を我慢しようとしても止まりません。
まだ輝夜と会ってもいないのに、無事かも分からないのに、再会できる喜びの方が勝ってしまうんですから。
両手で目を覆い、地面にはしたなく座ります。
「輝夜、輝夜ぁぁぁ!」
心の内では我慢できなくなり、声として輝夜の名前を出しました。
輝夜にやっと会えます。
遠くから「早いよ蒼介〜」と、小林君の情けない声が聞こえてきました。
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