第5話 姉の日常

 午前最後の授業が国語であり、小テストの解答を終えて、暇になったので窓際を見ていた。すると、ある二人組の生徒が校門に向かっているのが見えた。片方はよく知っている。もう片方は.......涼の周りをいつも飛んでいる黄金娘だった。


「また同じ光景か........早く帰るのは偉いけど.......それはダメだよ」


 3階から弟の表情は見えないが、絶対に嬉しそにしていないと言い切れるので、今は取り敢えずスルー。



「よし、後ろから送ってくれ」


 先生の呼び掛けで授業が終わりそうな事を確認して、私はすぐにスマホを握った。


「.........揃ってるな。ではこれで終わる」



 先生の声と同時にスマホ見る。私は弟が何か連絡してくれていると思い、スマホに全集中したが、着信は..........無かった。


「ふぅーーー、ん?」


 さっき見た光景は疑問から疑心になり、今は.......弟への信頼度が緩やかに下がっていた。


「伊月?どうしたの。そんな顔して」

「え?」

「周りの男子が戸惑っているよ」


 最後の言葉はどうでも良いが、窓に映っている自分を見ると、そこにはブサイクな私が居た。


「ごめん、少し考え事してた」

「そうなんだ。ご飯行く?」

「行こっか」


 私には弟に誇れるくらいに友達は多くないが、私には優香がいる。

 多田優香は高校入学時に意気投合して今に至る。それ以上は無いが、これ以下も当然無い。


「見て可愛いよね。私の弟」

「そうだね。いいと思うよ」

「そうだよね。でも.....この笑顔を私以外の女に向けたら私何するか分からないかも」


 優香はブラコンであり、弟の話をすれば、ずっと弟の写真を見せてくるので、少し引く事が多々ある。私も弟の事が家族として好きだが、これ以上ではない........多分。


「伊月の弟君って一年生だよね」

「何で知ってるの?」

「入学式で伊月がずっとある男子を見てたから弟君かなって」

「そっか......弟だよ」

「でも....彼女いたよね」


 優香の言葉で初めて気持ち悪くなった。涼に彼女?........いるわけないでしょ。もし私が知らないうちに存在していたら、



「金髪の女だったよ」

「あーーーー、違うよ」

「そうなの」

「違うよ」

「もしか」

「違うよ」


 友人の伊月はブラコンであり、弟の話をすれば、ずっと話してくるので少し引く事が多々あった。家族との距離感はしっかりしないと問題になるので......このダメ姉を反面教師にしよう。


「.....それはそうと、今日は?」

「7」

「多いね。入学効果かな」

「全部綺麗に断りました」

「そっか.....まぁーー、食べますか?」

「そうだね」



 私達は食堂に入り、日替わりランチを選んで席に座った。伊月が食堂に入った時から特に男子がスマホを手に取った。多分自分を確認していたんだろう。


「伊月みたいな綺麗なお姉ちゃんなら弟君もゾッコンだね」

「......そうね」


 勿論優香には家での事情は知らない。知っているのは父さんだけで、張本人には全く知らない。


「それを言うなら優香もそうなんじゃない?」

「え.....そうかな」


 私も男装が無ければ当然、優香と同じ気持ちになっていた。優香は私が見ても美少女であり、私と正反対の茶髪ロングで、大人の色気がぷんぷんする。


「さぁ.....戻りますか」

「そうね」


 優香の掛け声で私は席を立ち、食堂を出た。午後からの授業は正直、やる気が一切出ないが、私の正念場は家に帰ってから始まるので今は、希望を持って頑張る事しかできなかった。


「頑張りますか」

「そうだね」



 私はスマホの写真フォルダに入っている涼の寝顔を見て、やる気が少し出た。午後の授業でやる事は決まっていた......質問決め。









 

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