第2話 駆け引き
私の朝は家族より少し早く起きる事が当たり前だった。弟は隣の部屋、父さんは一階の寝室で寝ているので、できるだけ横に物音を出さない様にするのが重要。
「ナベシャツって家だけ付けてるけど辛いな」
一ノ瀬伊月の胸は一般の高校一年生より豊満であり、ある目的の為に自宅では隠す事にしている。
「もう7時か」
涼と父さんは8時くらいに起きてくるので、それまでに朝食の準備を行う。元々は父さんが朝食を作っていたが、父さんは.....少し美味しくなかったので、私が朝ご飯係に就任した。
「今日は......鮭と味噌汁でいいかな」
私は献立を考えながら階段を降りて台所に着いた。冷蔵庫から鮭、味噌、豆腐を取り出して白米は昨日の残りがあったので、味噌汁の準備を始めた。
小さい鍋に水を入れて沸騰させ、ワカメ、豆腐、最後に味噌を入れて完成だ。
鮭は皮から焼き始めて蓋をしてそのまま放置。
「涼....起きて」
ゴソゴソゴソゴソ
「起きたかな。次は.....」
リビングを出てすぐ近くに部屋があり、そこに父さんが寝ている。元は私と涼が同じ部屋で寝ていたが、涼が中学生になるタイミングで父さんにお願いして部屋を分けてもらった。その理由は.......怖いから。
「父さん起きて」
「.....う...うん、伊月おはよう」
「うん。おはよう」
私はドア越しに挨拶してリビングに戻った。すると、
「兄貴.....おはやお」
「おはようだよ。涼」
「うん.........おはよう」
「おはよう」
目を手で擦っている涼をしっかり止めて、顔を洗う様に促して私は、朝食の準備を始めた。
「来たね。さぁ食べよ」
「「はーい」」
「「「いただきます」」」
平日でも3人で食事するのが私は好きだった。涼は眠そうに食べていて.....可愛いし、父さんは私達を見ながら嬉しそうに食べていた。この家族が......私の宝物だ。
「涼は今日どうするんだ」
「僕は友人達と遊ぶ予定だよ」
「そうか、父さんは今日遅くなりそうだから伊月1人でも大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
父さんは土曜日でも会社に行く事が偶にあったので、今日は私だけ留守番になりそうだった。
「涼は友人とどこに行くんだ?」
「カラオケかな、中学卒業お疲れ様会をするよ」
「青春だな。涼も少しずつ成長してるんだな」
父さんは私達の成長に涙を流していたが、私も違う意味で泣きそうになった。でも涼は、
「カラオケ行くだけだよ。クラスメイト全員ともこれで会うのは最後だから」
「そうか......好きな子でも居るのか?」
「いないよ」
涼の冷静な言葉に少し嬉しくなった。嘘かもしれないけど、私は......信じている。
「お、もうこんな時間か。涼は楽しんでこいよ、伊月はお留守番よろしく。それじゃあ行ってきます」
「「行ってらっしゃい」」
父さんが出て行ったのを確認して可愛く朝ご飯を食べている弟に、
「涼....今日楽しみか?」
「うーーん、あまり気乗りしないかな」
分かっていた。涼は大勢の人がいる場所は好んでいないし、友人もあまり多い方ではないと、日常会話で把握していた。
「本当に行くのか?」
「正直迷ってるかな。兄貴、どうしたら良いかな?」
「行かない方が良いと思うよ」
「どうして?」
「お金無いだろ」
「あ」
「父さんも行ったし、涼は最近漫画買って無いだろ」
「.....そうでした」
涼は少し抜けている部分もあるが、そこが物凄く可愛い。
「今日は一緒に留守番するか?」
「そうだね。参加は強制でも無いし」
「そうなんだ、でも.....気になる子とか来ないのか?」
「さっきも言ったけど、好きな人は居ないよ」
「そっか」
確認は二度すれば安心だ。今日は2人で留守番する事になったが、嬉しすぎて涼のクラスメイトには悪いけど......渡さないよ。
「今日は映画でも観るか?」
「うん」
涼の笑顔は私を高揚させる薬だった。
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