第110話 堂々巡り

(佐藤淳介視点)



 二週間近くが経った。


 結局、龍の許には毎日のように通い詰めていた。そろそろ両親に挨拶に行けるのではと思う程には、親睦も深まって来たと思う。


 …………度重なる命の危機に対する疲労感のせいで、思考を明るい方向に向けようにもあまり上手く行かない。冗談に切れがないと評するのも、普段の自分の思考に自信を持っているようで嫌になるが、今ばかりは通常時よりも劣っていると表現する他なかった。

 食事を得るためにこの山を離れるにも時間は掛かり、今の今まで限界に近い状態で活動を続けざるを得ないでいる。

 体調が優れない中、判断力が低下した中では上手く行くものも行かなくなると思い、休息は取るようにしているのだが。やはりそれでも精神的な疲労というのは消えないようで、どうしても頭の中に薄く靄が張ったような状態が続いていた。


 とまぁ、そんな自分の情けない状態は置いておいて。まずは魔力の話だが。


 まず前提として、魔力というのは基本的にエネルギーの一態であるとされている。それはつまり、魔力が魔物の動力源になっていると捉えなければ、彼らが食事もせずに活動を続けられていることに対する説明が付かなかったためだ。

 しかしここで、一つ看過しがたい事態が出て来る。それは、魔物の発生それ自体だ。というのも、魔力という存在を純然たるエネルギーとして捉えてしまえば、彼らの発生とは物質、魔力間の変換が行われているとする他なくなってしまう。しかし、の有名なユダヤの学者の公式はみなの知る所だろうが、物質を創造するために必要とされるエネルギーの量は、常識を遥かに逸する膨大なものとなる。


 だからといって、「出自」すら定かではない魔力を常識の枠に押し込めるような事が出来る筈もなく、結局は魔力の理屈を追い求める者自体が少なくなってしまい、通説が正しいものとして世の中の興味は他へと移って行った。


 とはいえ、問題は解決していない。ただ、俺がその水準レベルの話を考えたところで何かが分かるはずもなく。結局話は感覚的なものになる。


 ということで龍と闘っている際に感じたことを挙げ連ねていく訳だが、まず一つとして、龍の付近では明らかに魔力濃度が高い。

 以前から感じていた通り龍は明らかにこの世の生物ではないのだが、その証左のように、龍の周囲の魔力は想像を絶するほどに高濃度だった。そのお陰でこちらが活動しやすくなっているのは、彼にとっては計算外なのだろうか。そもそも魔物以外の生物が魔力を動力源として動いているなどという話を聞かないことを思えば、想定外であるようには感じるが。


 そして次に、龍が吐き出す炎についてだが。

 どう考えても、真面な動物が口から炎を吐き出して無事でいられるわけがない。また通常、あそこまでの高温を、特に大きな代償なく生み出せるとも思えない。過去には高温のガスを噴出する虫やら何やらがいたらしいが、それにしても龍程の長時間高い温度を維持できていた訳ではないだろう。

 加えて、実際に接近して見ればわかることだが、龍の炎は明らかに魔力で構成されている。


 流石にあの炎全てが魔力そのものであり、熱自体もゆめまぼろしでしかなかったと言い張るつもりはないが、限りなくそれに近い状態であるとは思っている。

 というのも、まず色が可笑しい。炎が温度や燃料の材質によって色を変えることは重々承知しているが、あそこまで鮮やかな赤色になることは通常ないだろう。それこそ炎色反応か何かでなければ。

 …………他にはあまり言語化できるような理由がないが、まぁ結局は、そう感じたからそう言っているだけでしかない。感覚的にと言われても困るでしょうが、そこに関しては我慢してもらって。


 ただ、やはりそこで問題になってくるのは、結局魔力は何かという問題。

 そもそも炎が何かと問われれば、光と熱だとしか言いようがないわけだが、それらはいずれもエネルギーの一種でしかない。となれば、魔力が他の形態に移ったわけだが、それもそれで何かが違うような気がする。


 上手く言葉に出来ないのが非常にもどかしいが、ただまぁ、できないことは気にしても仕方がない。


 ともかく言いたかったのは、龍が吐き出している炎は、ただの炎のようには思えないということ。これだけ考えたところで、最終的には最初に感じた感覚に帰着するという、論理的思考としてあるまじき経路をたどりつつある。

 魔力が他のエネルギー形態に変化するのかどうかという問題やら、魔力と物質の関係性に関しても、結局は何も解決していないわけだった。


 何かしらが分かると思ってこうして挑戦アタックを繰り返している訳だが、此処まで来ると流石に心が折れそうになってくる。この龍を倒したとしても、魔物が大量にいるだろう森を抜けて、コンパスも何もない状態で都会の方へと向かわなければならないことを考えると、更に。

 取り敢えず目先の問題は棚に上げて、仮眠を取るために瞳を閉じた。

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