第107話 タップダンス
(佐藤淳介視点)
そろそろ夜になりそうで怖いんですが。なんて思っていた折に、段々と龍が下降を始めた。もう既に揺られているのにも慣れてきて、手が徐々に痺れて来た以外は何も気にならなくなって来ている。
夕焼けの中で辺りを見渡してみるも、周囲で人里の姿は見えない。龍が向かっているのはどうやら山間部の渓谷のようで、窪みになっている部分に龍が落ち着けるだけの大きな空間が開いていた。龍の住処となっているが故か、周囲に
着地で一緒に潰されても堪らないので、龍が地面に近づいてきた辺りで飛び降りた。高さは高層ビルの屋上から見たぐらいと大体同じくらい。といっても、前時代的な上背のあるものでなく、
木々の間に飛び込んで、木の葉に擦られながらも何とか着地する。無事に脚から着地出来たお陰か、特に体に大きな負担はなかった。
枝で引っ掻いた腕を摩りながら、一旦立ち上がる。周囲を見渡すも、辺りは一面広い森の中で、視界はあまり良くなかった。
加えて異様なのは、魔物を初めとして動物が殆ど見られないこと。植物は生えているものの、それ以外の生物の気配がまるでしない。龍とて何かを食べる必要があると思うのだが、違うのだろうか。
さぁ、どうしますかね。
取り敢えず龍の所に辿り着かなければならないわけだが、それよりも前に何か食べ物が欲しい所。…………良く考えれば私腰に極小バッグみたいなの付けていましたねそう言えば。
と思って手を伸ばしたものの。市街地戦闘、加えて龍と共に逃避行なぞした後にそんなものが無事である訳がなくてですね。物凄い潰れたサンドイッチが出て来た。日和さんが用意してくれたものですね。
潰したことを遠くにいる日和に謝りつつ、ラップを剥がしてサンドイッチを口に運ぶ。入ってる具材が乾燥肉でなく市販の加工肉であるのが久しぶりで、触感から風味から全てが新鮮だった。味付けに関しても、普段は塩と胡椒程度しか使っていないのに対して、今日のものはマヨネーズ。これも新鮮でおいしいですね。
食べ終わり、ボトルから水を飲んで口を潤す。
さて、龍のもとに向かわねばならない訳だが。ここまで深い森だとどこに進めばいいか分からないもんだね。取り敢えず現在地を把握せねば。
背の高そうな木を見つけだして、
数本登って、やっと遠くが見えた。
適当に着地した場所としては、悪くはなかったらしい。五百メートル近く先に先ほど見たような地形をしたような場所が広がっている。
…………若干、上空から見るのと地上から見るのでは状況が違うせいで自信はないけど。ま、何とかなるでしょうということで。
ということで目的地に向かうわけだが、その間に知りたいことが幾つかある訳でして。
一つ目は、この魔力についてですね。この謎物質過ぎる魔力についてだが、魔力が頭に無ければ思考が読めないらしいことは分かっている。といっても、一月かそこらで検証した程度の信憑性の低い立証だが。
取り敢えずそれが正しいということを前提として話を進めるが、問題はこの魔力の扱い方についてだった。
頭になければ良いのか、それとも直接触れない方が良いのか。そもそも自分の体に触れていない魔力ですら操れるのに、触れている触れていないの判定が重要なのかどうか。
ここまで来るとどうせ考えたところで知り得ないってことは分かっているのだが。まぁ何にせよ、一旦頭の中を整理しておくのは大切でしょうし。
…………結局思考放棄になる訳だが、操ることすらしないっていうのは殆ど無理な話だったりする。結局自分の頭から魔力を遠ざけるために何かしなければいけないわけだし。
因みに、どうして少し前まで自分の思考を態々停止させていたのかという話だが、それは自分の魔力へのアクセスが問題だったりする。
そもそも、通常の人間は魔力の操作は出来ない。魔力の存在を感じることすら不可能に等しい。何となく若干違和感と言うか、魔力の濃度が高い場所に行くと嫌悪感で気が付いたりはするが。それも結局魔力の精神的な作用がなんたら、とかいう話なんでしょうがね。橘さん達に言わせれば。
つまりは、普通に生活をしてて魔力に触れようなどとは誰も考えないということです。はい。
したがって、自分で出来ることと言えば、体に残っている魔力を強引に全部使い切るか、捜査自体を諦めるということが必要になってくる。
ということで自分が試したのは、取り敢えず体力を全て使い切って、魔力すら残っていないような状況にすること。どこまで効果があったかは分からないが、食事も極力減らして、何となく効果の実感はした。辛いから直ぐに実験は止めたけどね。何をどう判断基準にすれば良いのかも分からないし。
いやそんな思考傍受とかどうすれば分かるんです? 適当に実験も結論付けもしてるからマジで薄氷の上でタップダンス状態なんですが…………。完全に見当違い過ぎてめたくそに恥ずかしいことしてるっていう可能性もある訳ですし。
謎の羞恥心に襲われて実験を辞めたのもある。多大に。
まぁ、嫌な予感的なのは凄いするけどね。だからこそ、何もしないでいるよりは何か行動をしていた方が良いと思って入る。大は小を兼ねるということで。
そもそも論ではあるが、今の方法で
どうすれば発生しなくなるのかが分からない魔物に、その対策として必要となる魔物の数。毒を持って毒を制すとは言うが、今回の場合では単に何かを倒すために敵を味方の陣地に引き入れているのに他ならない。
結論としては魔物という存在を許容することになるのだから。
結局は、大本の対策を考えなければならないわけで。
明らかに現実のものでない龍と闘っていれば何かしらは分かるでしょうということですかね。
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