第106話 ド☆М

 百話行く前に終わる予定だったのに、何か全然終わんねえんだけど。



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(第三者視点)



 話は二か月前に遡る。龍に掴まったまま上空を飛ぶ佐藤淳介は、困惑しつつも冷静に状況を判断していた。

 苦悶故なのか、それともこれで通常運行なのか、龍は激しく全身を動かしながら、翼で空を捉え力強く前進して行く。それに揺られている状況では真面に状況など判断できるものではないが、幸いにも龍自体は淳介の存在なぞは気にも留めていないようで緊急事態の割には優雅な空の旅を送れていた。

 取り敢えず心の中で悪態を吐いてから、淳介は姿勢を整える。その龍が一体どこを目指しているかは分からなかったが、直ぐ近くではないだろうということは想像がついていた。体の疲労感も相まって、できれば体を休ませることが出来れば良いなどと、諦念を抱きながらも思う。


 淳介は、身体の反動を利用して細剣レイピアを更に深く突き刺し、つかを握り直して若干負担を減らそうと模索する。しかしそれもあまり上手くは行かず、上腕には段々と疲労感が溜まっていっていた。



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(佐藤淳介視点)



 いや、ね。どうしてこんなことになってしまったんでしょうね。


 流石に街に被害が広がりすぎてたから流石にと思って対応してたけど、まさか自分だけ連れて行かれるとは思ってもなかった。何せ凄い集団で戦ってたわけでっせ。もうちょっとあるじゃん。柚餅子さんとか一緒に連れてってくれてもいいじゃん。

 流石に無理だとは知ってますけど。文句ぐらい言わせてくださいなということで。


 にしても、やっとですよ。ここまで自由に色々と考えられるようになったのは。まぁ、実際自由にして良いっていう確信がある訳じゃないけど。ちょっと不安は残ってるけど。


 事情を説明するとですね。まぁ、端的に言えばプライバシーの侵害的な奴です。あ、伝わらない…………。

 そんな冗談かどうかすら伝わらない冗談はともかく。


 事の発端は良く分からない視線を感じた所から。誰かしらから見られているような気がし始めたのが、多分一月ぐらい前。だからこのリゲイナーズさん達の迷宮ダンジョンの侵攻が公になったあたりの頃。

 最初は勘違いだと思って気にしないでいたんだが。なんか、誹謗中傷を食らい始めたあたりから、なんかコレやばいんじゃないの、って思い始めまして。意味わからんレベルで知らん人から憎悪の感情向けられてたからね。流石にちょっと尋常じゃないでしょ。

 そもそも迷宮ダンジョンとか魔物とか、普通に考えて意味わからんですし。流石に何かしらの成因がないとおかしいでしょう。無からそんなファンタジーで骨董無形な事態が発生されても困るわけで。


 と思いまして。セルフ思想統制をしておりました。明らかに考えてることバレてるやろっていう場面も何度かあったからね。色々と物事の展開がスムーズ過ぎたし。

 思考統制何それドМなのというオハナシですけどね。わたくしはマゾヒストではないのでね。そこの所はご了承を。

 ……………いや、違いますからね? 信じて?


 とまれ、鋼の意思でそこら辺の違和感について考えないようにすること一ヶ月。そろそろ煩悩消しに慣れ過ぎて仏になれそうなんですが。ついに、魔力とか言う謎物質を頭の中から排除できるようになったということで。

 これがなければ実際に「監視官」の目を逃れられるのかと言ったら、それは分からんけど。ここまで尽力した上で未だに思考が露見していそうであったら、また話が変わってくる。何せ色々と気付いていることが外にバレる訳で。そりゃあ対応もされますでしょうにという話ですから。まぁ、臨機応変に対応ということでお茶を濁させてくださいませ。濁せてるか知らんけど。


 まぁ、俺の考え過ぎって説は未だに残ってるけどね。迷宮ダンジョンは自然の神秘とかって言われちゃったら反論のしようがないし。


 ということでね。現在お空の旅の真っ最中な訳ですけれどもが。


 いや、これどうしたら良いんです…………?


 取り敢えずこの龍を倒した方が良いらしい気はしている。この龍のお陰で魔力の感触も分かって来たから、ここから更に戦い続けて居ればなんか新しい発見とかもある気がするし。後は純粋に、こんな動き続ける天災みたいなの生かしちゃおけんでしょうという話ですし。

 流石にこの巨体と一人で戦うってのは怖すぎて号泣しそうだけどね。人目も憚らず地面に倒れ込んで全力で駄々捏ねたいけどね。


 ていうか、良く考えたら純粋な魔物は大体普通の動物のミックスなのに、龍だけ純粋な、しかも完全にフィクションの生物っていうのも、ちょっと良く意味が分からない。何をどう思って作ったのかは分からないけど、取り合わせが流石に和洋折衷過ぎるでしょうに。…………和と洋かは知らんけど。


 取り敢えず、このまま龍が俺のことを気にしてないみたいだったら、寝首を掻くか、何かしらの嵌め技を作るか。

 もしかしたら、着陸した瞬間にそのまま地面と龍の間にクッションされて圧死とかいう事態も有り得る訳で。無意識に殺されってのも最悪だが、自覚がある上で体格を使って戦われたら殆ど勝ち目がないですし。もし正面衝突ってなったら、全力で逃げつつHit & awayって感じですかね。非常にやりたくないけど。


 にしても暇なんだが。この長時間ただ掴まってるだけともなると完全に飽きる。

 折角覚えた魔力の操作とか色々と試してみたいことはあるものの、何かしらの異常があって、気を喪うとかのレベルの緊急事態には陥らなくても、急に全身から力が抜けるとかはあってもおおかしくないでしょうし。流石にこんな上空ですることじゃないよね。

 龍が魔力の動きが分かるってので気づかれるってなったら困るし。


 ま、現状維持ですかね。やべぇ、ここまで長々と色々考えて何も進んでねぇ。

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