第78話 半年後
半年が経った。既に春も盛りで、段々と若葉が姿を見せるようになって来た。
色々と話さなければならないことはあるが、まず最初に、貯金の話だ。正直今の生活で買い物をする機会は食料程度なので、特に大きな支出がある訳ではない。それに加えて銀行で確認したら想像より大きな数字が金額の欄に書かれていたのでね…………。なんかちょっと怖くなってその場で閉じて見なかったことにしたよね。
ともかく、父親と姉が困っているという話も聞かないので、積極的に稼業に走らなくても良くなりましたよということでありまして。
そして武器の話だが、実は半年前に研究所で貰って来たものを未だに使い続けている。あの人は想像以上に耐久性のあるものを作っていたらしい。一応手入れ的なことはしているものの、何せ素人が適当にやってるだけのことですので…………。こんなに長期間保てるとは正直想像もしていなかった。
耐久性に関しても、どう作ったのかはマジで謎だが、本気で殴っても少し軋むだけで壊れるようなことはない。最早扱い方が剣ではなく鈍器になりつつあるが、ここまで強度があるものも珍しいから、仕方ないでしょうということで。
後は未だに会話は出来ないのかについてなのですが。大曾根さん、もとい日和相手だったら問題なく話せるようになった。未だに知らん人と話すのは本気で無理なのだが、家族となら少しは話せるようになったし、自らの成長を感じて止まない。
まあ、この半年間森の中から殆ど外に出てないから、家族と話すことも殆ど無いんですけど。
で、一番大きなニュースなのだが。
「ひゃあぁぁ…………」
最近、柚餅子と羊羹の子供が生まれた。まだ生後一月も経っておらず、小さな体で周囲を歩き回っては何かしらに足を引っ掻けて転がりまわっている。どうやら羊羹よりも柚餅子の方が心配性らしく、その後ろをあたふたと付いて回っているのは大抵は柚餅子だった。
そして日和だが、子犬に完全にやられているらしく、ここ最近ではずっと奇声を上げては地面に蹲っている。
「ねぇ、淳介。見てあれ。犬、犬だよ犬」
「いやそりゃ犬でしょうよ。犬から生まれてんだし」
こてこてとこちらに子犬が歩いて来る。近くに座っていた日和がまた崩れ落ちた。
いつも自分が名前を付けていたので今回ばかりは日和に付けてもらおうかと思っていたのだが、頼んでから今の今まで彼女は未だに悩み続けている。流石にそろそろ一週間が過ぎるので、名無しの子犬を卒業させてあげて欲しいのだが。
丸い毛玉を拾い上げる。抵抗もせずに身を委ねた子犬は、持ち上げられた状態で小さく首を傾げた。
体躯の大きな魔物二匹から生まれたからか、子犬であるというのに、そのサイズは既に大型犬ほどだった。それでいて見た目の様子が完全に子犬そのものだから感覚がバグる。自分が知っている子犬は、とはいえテレビの中で見たことがある程度だが、どちらかと言えば両腕の中に軽く収まる程度のものだったはずだ。
下ろしてやると、また不格好に走り出して、遠くで見守っていた羊羹の下へと向かって行った。少し前まで我が家の中では一番のやんちゃ枠だった彼女だが、既に我が物顔で母親をしている。
そう言えば、実は我が家の様子も色々と変わってきていた。
どうせ金はあるのだからとキャンプ用品的なものを大量に買い込んできて、洞窟の中であるにしては割と快適な空間に変貌したのだ。特に、今まで日が暮れて洞穴の中に光が入って来なくなったら直ぐに寝る生活をしていたのだが、太陽光発電の小さな黒いパネルが付いたランプを買ってきたので割と夜まで起きて居られるようになった。冬は日が落ちるのが早いから特にありがたい。ただ設置が割と面倒だったんですけどね。付属のケーブルでは長さが足りずに、色々と継ぎ足してやっとこの部屋の部分にまで光が届くようになった。
寝床に関しても、今までは寝袋のみだったのだが、敷布団を買ってきて敷くようになってからは普通に布団で寝ている。ただ少しネックなのは、適度に選択して干さなくてはならないことですかね。別に一般住宅で使う分には良いのだろうが、我々の住んでいる場所には安っぽい物干し竿しかないので、少し重いものを掛けようとすると倒れそうで怖かったり。
最近では、
というのも、どうやら外に放った魔物さん達が割と頑張ってくれているようでしてね。自分の拠点から市街地とは逆の方向に向かうと、
流石に遠く離れた場所は確認できていないが、少なくとも柚餅子たちと気軽に出かけられる距離の範囲内では、
仕事頑張りすぎて最早俺のこと忘れてんじゃないかなと思って近づいてみたけど、凄い勢いでじゃれ付かれた。新参者さんたちも遠巻きに眺めてるし、どれだけ躾が行き届いているんですかねぇ。
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