第75話 都会編 三

 結局移動中も爆睡しまして。目を覚ましたら凄い知らない場所にいてビビったよね。普通に研究所の駐車場だったけど。


 ということで辿り着いた研究所。大曾根さんは色々と用事がある訳だが、割と俺はすることがなかったり。

 そんなわけで研究所の皆さんと遊んでるんですが、この人たちは仕事はしなくて良いんでしょうかねぇ。あ、不思議生命体が目の前にいるからそれを見過ごすわけには行かないって? なるほどね。一体どこのどいつでしょうね、ここの研究員でさえ興味を引かれるような摩訶不思議な動物は。


「で、どんな感じです? これに関しては成形が難しすぎて凄い不格好になってますけど、硬度は多分一番っすよ」


 最初は気怠げだったが、武器の話を持ち掛けたところ急に元気になったこの人。今は、倉庫から大量に秘蔵されていた武器の類を持ち出して来て、その一つ一つをこちらに渡してきては、使用感を確かめて来る。


 現在手にしているのは、魔物の体の一部に色々と加工をして武器の形に仕立て上げたもの。魔物自体を武器として使うという発想にまでは追い付いたものの、骨以外の外骨格やら何やらが付いている魔物を探し出してきて武器として使えるようにしたり、更にそこに手を加えて強度を上げたり、というところにまでは届かなかった。やはり流石は研究を生業している者だと言うべきなのか、それとも純粋にここにいる人たちの発想が狂っているだけなのか…………。

 後者のような気がしないでもないけど、気にしてはならない。


 そんなこんなで渡された武器だが、使用感はかなり素晴らしい。今まで鉄の棒やら大腿骨やらという、武器界に喧嘩を売っているような蛮族スタイルで戦っていたからね…………。そりゃそうだよね…………。

 しかも、形が不格好と言えども、それはこの人基準の話でありまして。大腿骨隣に並べればどんな武器でも真っ直ぐに見えるってものよ。この武器はちゃんと持ち手ついてるし。ここまで整えられてればぐうの音も出ないよね。


「んじゃ、使ってみましょうか。誰かしらに使って貰えないと改善のしようもないんで」


 そのまま彼は、研究所の敷地の奥にある森の中へと意気揚々と飛び込んで行く。自らの命すらを顧みないで研究をするような人間がいるとはたまに聞くけれどもが、流石にここまで躊躇いがないと自らの目を疑いますねぇ。

 しかも凄い量の武器抱えてましたからね。その細身の体のどこにそんな力が閉じ込められてるんだか。


 進んで行けば、三十分もしない内に魔物と遭遇する。「はいこれっすお願いします!」と凄い勢いで押し付けられた武器を手に、魔物に向かった。

 この人は、曰く、武器の性能検証がしたいらしいので、取り敢えずはあまりやりたい放題はしないようにしましょうかね。普段好き勝手してるわけでもないんですけどね、別に。いやだから、そんな訳ありませんって。


 最初は木刀のような見た目の、黒い剣。一応剣の形を模してはいるが、切断を目的とした武器ではないらしく。「ヨーロッパ系の何たら――――…………」とおっしゃってましたが、ちょっと私海外経験ないので分かりませんね。過去に存在したらしい外国の歴史を学ぶ教科せかいしも今はなくなってるし。果たして剣の事を授業で取り上げるかどうかは別として。


 振り上げて、魔物によって、振り下ろす。

 と言っても、今まで使っていた武器は基本的に片手で使っていたのでね。いきなり両手で扱えと言われても困るというのが正直なところでして。一応それで使うけれどもが。


 あまり逃げようとしない魔物に対して、三度ほど向きを変えつつ剣を叩き付ける。

 と、先ほどまで若干は抵抗を見せていた魔物は、そのまま動きを止めてその場に崩れ落ちた。


「…………どうっすかね? まぁまぁっすか?」


 頷いて見せれば、少し嬉しそうな様子でまた次の武器を渡して来た。


 やはり強度のある武器というのは、使っていて安心感が違う。掛ける力に気を遣いながら戦うというのはどうしても居心地が悪いもので、最近では結局面倒になって素手で戦うことになることもしばしば。自信の力の限界まで試してみたわけではないが、握った感触では、簡単に折れ曲がるようには思えなかった。

 今持っている武器も然り。今まで使っていた武器たちの不安定感とは比べ物にもならない。


 その後も色々と武器を渡されては、遭遇した魔物と闘いということを数度繰り返したわけだが。


「最後にこれっすね。ちょっと自信作なんで是非」


 説明を聞けば、硬度よりも柔軟性に比重を置いて作ったものだそう。ただただ固いよりも、しなやかさがある方が壊れにくい、と。そして何より秀逸なのがそのバランスで、長さと重さのつり合いが完璧に取れている。片手で持っても両手で持っても振り回しやすい重量感に、比較的狭い場所でも自由に動かせそうな刃長。

 持ち手の部分の太さも、細すぎず太すぎずで力を入れやすい。少し力を入れて握ってみても、軋んだり曲がったりする様子を見せなかった。


「すっごい嬉しそうじゃないっすか」


 …………まじで? わたくしそんな嬉しそうな顔してます?


 まぁ、凄いテンションは上がってますけれどもが………。いや、今まで凄い貧相な武器しか握って来なかった訳でっせ? こうも完成度が高い物渡されると嬉しいどころじゃないというか何と言うか………。やっぱり男たるもの武器にロマンを抱かずしてどうするっていう所もありますし………。


 結局のところwin-winではありますしね。俺はロマンが感じられて嬉しい、彼は自分の作った武器が喜ばれて嬉しいっていう。知らんけど。


 

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