第85話 努力と未来
規模の大きい闘争の裏には、常に利益が付いて回る。それは
それは、鈴木基次郎の勤める企業EF&Fectioに於いてもそうであった。
元々、基次郎は企業勢の有望株として業界では知名度のある存在だった。特に一昨年にこの企業のトップ
どの企業も若手の育成に躍起になっているとはいえ、
つまり、基次郎はその若手が活躍できない雰囲気を最初に打ち破った人間であったということ。そのために、彼自身の実力以上にその名は広まっていて、それ故に今回のリゲイナーズの応募にも大手を振って参加した。
そんな基次郎であるからこそ、EF&Fectioの中でも認められた存在であり、会社の中でも営業の主軸として捉えられてしまっている節がある。…………恨みがましい口調になっているのは、何も役割に縛られて時間も行動も制限されるからだけではなかった。社長や幹部を始めとした御歴々に囲まれて肩身を狭くしている彼は、この世の全ての神に胸中で悪態を吐きながら、表面上は若く張りのある男を装う。
人並みには名声を求めるような思いがあるとは
「…………――――については皆も承知の上だとは思うが、勿論、我々としても基次郎君を中心にしてサポートに尽力していく意思はある。稼ぎ時だと声高に叫ぶつもりはないが、利回りを良くすることによって得られる物もあろうからな。とは言え、どの程度まで注力するかというのは未だ目下の問題として残っている。励み給えよと言って放り出せるわけでもないのだから、是非この場で共に丁度良い具合を見つけだそうではないかと思ってな」
鶴の一声が響き続けているような、喉深くから響く使い古された漆塗りのような社長の声が、会議室内に広がる。何故かその隣に座らせられている基次郎としては、名前を呼ばれるたびに微妙な顔をして彼へと視線だけを向ける程度のことしかできない。
大企業の社長らしく人当たりの良い存在として名を広めてはいるが、実際の性格が直情的なものだけでないことを基次郎は察していた。商人海千山千とは良く言うが、彼ほどに表情の読めない人間を基次郎は知らなかった。
彼は、世渡りが上手い。人の表情を良く見ているのも、その器用さの発露のようなものだった。
こうして責任超過な現状に至っているのは、その器用さが彼自身に牙を剥いた結果なのだろうが。何事をやらされても上手い具合に熟してしまうために、とうとうここまで来てしまった。
ぼんやりと、自分の知らない単語が飛び交う会議を眺める。現場の人に理論を求めてはいけないとは、誰もが知っていることだろう。指示を出すものと出される者は、責任としての違いだけではなく、有する能力に大きな違いがある。それ故に引き起こされるギャップが存在するにしても、常日頃から現場の声だけに付き従っていれば良いというものでもない。
………まぁ要するに、この場を逃げ出したいというだけなのだが。
動き出しているのは、何も
それはつまり、基次郎に掛けられた重圧が更に大きくなるということも意味しているのだが。
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