第67話 政界の重鎮かよ

 結局、血気盛んな若い衆は、どれだけ投げ飛ばした所で落ち着く様子はなく、周囲が死屍累々な状況になるまで乱戦は終わらなかった。

 いくらか傷は負ったものの、特に大きな怪我はない。掛かった時間にしても、高が三時間程度。いつの間にか恒例行事と化してきているこの乱戦だったが、数回目ともなれば流石に慣れて来るらしかった。


 迷宮を出ると、はしゃぎ過ぎて疲れたのか、柚餅子の直ぐ傍で小さくなって眠っている大曾根さんがいた。柚餅子が首を軽く持ち上げて周囲を見渡している上、胡麻、柚餅子がその周囲を守っていて、その更に外側を大量の魔物が徘徊している。

 連れて来た当初から言っていることではあるが、一般ピーポーである大曾根さんは、割と気軽に怪我を負えたりしてしまうので、色々と気を付けてはいる。ただそれを見た魔物さん達三匹が同じように行動し始めてですね…………。今では政界の重鎮かよって位のレベルで守護陣が固まっているという…………。


 ともかく、大曾根さんを守ってくれていたらしい三匹、そして周囲の魔物達を労う意味も込めて、鼻先を一通り撫でて回る。既に日は暮れかかっていたが、入り口の魔物達が素直にじゃれてくれるのが名残惜しくて、つい帰りたくなくなる。

 流石に今帰らなければ時間が厳しいとは、分かっている。分かっているんですけどね…………。最後の抵抗で近くにいる魔物を撫で回してから、断腸の思いでその体を離れた。


 眠っている大曾根さんを柚餅子の背中の上に乗せ、右手で彼女を支えながら自分も上に乗り込む。静かに立ち上がった柚餅子は、ゆっくりと走り出して、段々とその速度を上げた。少し後ろでは胡麻が走っていて、餃子は周囲を見渡しながら横を並走する。

 凹凸の激しい森を走っているとは思えない程、柚餅子の背中は揺れが少なかった。かなりの速度で走っている筈だというのに、体への負担が少ないせいで、景色だけが後ろに流れて行くように感じる。







 翌日、午前中は休息に充て、午後になって大曾根さんを連れて出かけた訳だが。


「…………なるほど。流石にこれは予想外でしたね」


 場所は、前回自分が体の感覚を無くしたように感じた際、潰して回った迷宮ダンジョンの内の一つ。あの時は結局三週間近くを掛けて大量に迷宮ダンジョンを潰して回った訳だが。


 目の前に広がるもの。それは、大量の魔物が溢れ返る光景だった。コアを失い、活動を止めたはずの迷宮ダンジョンの周囲に、大量にあぶれた魔物達が彷徨している。その体躯はどれも小さく、それが逆に魔物の数の多さを強調していた。

 見渡せば、視界の端一杯にまで、黒い点のような魔物が夥しい数散らばっている。


 周囲の迷宮ダンジョンを巡ってみても、結果は同じだった。それも、迷宮ダンジョンの付近だけではなく、森全体として魔物の数が増えている。ここに辿り着くまでの道のりでは魔物が増えたような気はしなかったが、何か異変でも起きているのだろうか。

 と、少し考え込んだらしい大曾根さんの話を聞けば、確証はないが、恐らく迷宮ダンジョンコアを破壊した際に溢れたものが引き起こしたことだろうということらしい。


「私の専門ではありませんし、魔力というのは未だに謎の多い物質なので完全に理解できる訳ではありませんが、迷宮ダンジョンのコアに残っていた高濃度の魔力、しかも魔物へと姿を変える性質を持ったものが、拡散してこうなったと考えれば納得は出来ます。もしこの説が正しければ色々と辻褄は合いますし。通常であれば他の迷宮ダンジョンに吸収されるはずの魔力が、周囲に迷宮ダンジョンがなくなったために魔物として顕現した。または、一つの迷宮ダンジョンでは起こらないような現象が、その絶対量が増えることによって発生したか。何にせよ、迷宮ダンジョンを大量に潰したのが原因であるようには思えますね」


 門外漢の耳には、確かに辻褄の合った説明のように聞こえる。ただ、それが事実であったとしたら、今後は気を付けた方が良いような気がする。距離的観点でも、規模的観点でも、別に自分たちに実害が出るようなものではないが、迷宮ダンジョンの外にいる魔物というのは概して気が立っている。たがの外れた野生動物程怖いものはないだろう。


 一応武器を持っているとはいえ、戦闘をするつもりではなかったので、彷徨える魔物達とは距離を取りながら周囲を進んで行く。森の奥らしく木々に包まれ日の光が殆ど届かないような場所ではあるが、所々迷宮ダンジョンの穴の上から覗く日の下では、やはり大量の魔物が蔓延っていた。


 と、半ば呆然としながら迷宮ダンジョンを見渡していると、一瞬視界が陰った。視界を上に向ければ、白く光る何かが目に飛び込んでくる。

 反射的に、森の中へと身を引いた。


 ……………やはり異常は起こっているらしい。恐らく自分の行動が原因ではあるのだろうが。


 一瞬だけ視界に入った、白く光る空を飛ぶ生物。それは、今現在人類が最も恐れている存在と言っても過言ではない。

 迷宮ダンジョンが発生してから、一週間もしない内に突如として現れた、人間の理解を優に超えたソレ。空という彼らの神域を侵す者は、何人たりとも許されるものではない。有り得る限りの人智を積み込んだはずの飛行機は、彼らによって為す術もなく叩き落とされて行く。


 天空の調停者、龍の一柱。


 世界中で、十柱以上の龍が確認されているらしい。ただしそれも、人類が空という自由を手放してからはめっきり聞かなくなっていた。自分の年代の者からすると、最早都市伝説のように感じてすらいたのだ。

 まさか、この目で見ることになるとは。


 帰ろう。今日はあまり外にいない方が良いような気がする。






──────



龍の設定凄い後から付け足した感あると思うんですけどコレ実は五話ぐらいの時点で構想にいたんです。書く隙間がなかっただけで。

後、龍の数え方が「柱」なのは、ちょっと見逃してください。龍ってほら、神聖なる生き物だから…………。


更に進捗報告なのですが、実はラストまでの構想がやっと固まりました。どれだけ長くなるかをはっきりとは言えないのですが、まぁ、あと二十話三十話位で完結かなと。

一応現在読んでいる皆様方にご報告というつもりなので、完結した時点でこの報告は多分消すと思います。覚えて居れば。


更に更に。この作品、適当に書き始めた割には思ったより色々な人に読んでいただけてまして。想像以上に反響を貰って頂くのは恐縮と言いますか、ありがたいと言いますか…………。ともかく、今まで自分が頂いたことない量の反応を頂いていますのでちょっとあたふたしていますが、取り敢えず伝えたいのは、ご愛読ありがとうございますという感謝の念でございまして。いつも本当にありがとうございます。色々と励みになっています。


長文失礼しました。どうか完結するまで見守っていただければ幸いです。ではでは~。

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