第57話 胡麻、餃子
早朝ランニングでございます。といっても現在時刻は既に朝九時。
今朝八時頃に大曾根さんを叩き起こそうとするも、何か呻き声を上げて一向に目を覚ます気配がなかったので、森の中で暮らすために必要な物資を買ってくるように置手紙をしておき、出発するまでで三十分。
今日は特に魔物との会敵はしない予定なので、割と本気で走っている。この調子で行けば一時間を少し過ぎた程度で拠点には辿り着きそうな気がしていた。昼食は持って来ているので、少し早めの昼飯を食べて、そのまま蜻蛉返りしようかと。
にしても、こうして自分の足で走るのは久しぶりだった。何せ家に戻る時は毎回柚餅子に送ってもらい、そしてその翌日には柚餅子に乗って拠点へと帰ることが殆どだ。しかしそれ故か、思ったよりも速く走れず何となく悔しい。
いやね、柚餅子さんの方が走るのが速いのは重々承知しているんですけれどもが。ただね、やっぱり悔しいじゃないですか。
そんなことを考えている最中、気が付けばスピードアップしてしまう歩調。おかしいですねぇ。別に誰かさんと張り合っている訳でもないんですけどねぇ。
軽く弾む息を感じながら、流れ行く景色に身を任せた。
柚餅子を捕まえ、自宅裏の
面倒になってきたので大曾根さんを引っ張り出し、取り合えず彼女の持ち物らしきものを全て持って家を出る。と言ってもこの人は物凄い軽装で、ほぼ何も持たずにここに来たので、リュック一つを抱えて行けば十分だったりするのだが。
右手で荷物を持ち、左肩の上に大曾根さんを乗せた状態で家の裏手へと向かう。柚餅子は、待たせて置いた場所で魔物の死体を齧っていた。
直ぐ食べるように促すと、柚餅子はその場で魔物の体を一口で呑み込む。口の周りに着いた血を拭ってやって、その背中に大曾根さんを乗せた。
ちょっと呻き声が聞こえた気もするけど、まぁ、頑丈な人だしきっと大丈夫でしょう。
自分も背中に乗り、柚餅子を走らせる。大曾根さんは流石に眠りから覚めたようで、目を
少し前に魔物の背中に乗るための鞍を作ったのだが、案外上手く出来ていたようで、大曾根さんが不安定な雰囲気はない。俺は鞍があると逆に居心地が悪くて使っていなかったので、延々と
走り続けること三十分程。目的地の拠点に辿り着いた。
大曾根さんが柚餅子から降りるのに手を貸して、そのまま柚餅子と共に拠点の洞窟の中へと進んで行く。後ろから着いて来た大曾根さんは相当に注意散漫なようで、時折後ろを確認しないといつの間にかいなくなっているから恐ろしい。せめて真っ直ぐ着いて来てくださいな。
部屋に案内し、取り敢えず一旦は放置。さっき来た時に色々と片付けてはおいたが、気になる所もあるだろう。私は干し肉やらの食料類の場所を確保しなくてはならないのでね。
柚餅子はその場で小さく蹲った。といってもこの体躯では全くもって小さくならないのだが。
そうして片付けと部屋の模様替えをしていれば、理解が追い付いて来たらしい大曾根さんが部屋から出て来た。ということで部屋の案内────でもしようかと思ったけど面倒になってきた。必要な物は基本的に目に見える場所に置いてあるし、特に問題はないでしょうし。
まぁ、風呂だとかその他諸々は川まで行かないといけないので、それについては後で連れて行くとして。そこまで遠くない場所にあるので、柚餅子か何かを連れて行けば良さそう。
と、そんなことを考えていた数秒の間。
いつの間にか目を輝かせた大曾根さんが柚餅子の方へと吸い込まれていった。小さく丸まっている彼の下に飛び込み、そのまま抱き着いて瞳を閉じる。
この人、実は魔物を研究したいとかじゃなくて純粋に動物が好きなだけじゃないだろうか。………いや、にしては魔物を殺すことに何の抵抗も抱いてなかったな。どちらかというと奨励していた方だし。
まぁ、柚餅子位のサイズの動物が居たら飛び込みたくなる気持ちは多分に分かる。俺が良く水浴びをするせいで柚餅子も魔物にしては頻繁に体を洗ってるから、獣臭もあんまりしないし。森暮らしが長いせいで私の鼻の嗅覚を感じる部分が摩耗している可能性はあるけれどもが。
突然ですが、そんな柚餅子愛好家の方々に朗報が。
丁度良く、
二匹は、じゃれ合いなのかも良く分からない絡まり方をして転がっていた。
紹介しましょう。黒い方が
事情の説明だが、まぁ、ここ最近取り組んでいたことの関連だ。
少し前に話したと思うが、大量に魔物で溢れ返っている世の中をどうにかしましょうというのが直近の目的だ。となると、取り敢えずは
ということで味方を探したかった訳だが、流石に人間に話しかけるというのは厳しいので、まぁ魔物に頼るしかないよねという話に落ち着きまして。
ということで柚餅子的な魔物のお仲間さんを増やしていこうかと思っている訳だが、その第一段階として捕まえて来たのが胡麻と餃子だった。他にも色々と捕まえて来た魔物はいるのだが、流石に何匹もいる魔物全て名前を付けていると管理が追い付かないため、名前が付いているのはこの二匹だけだ。
ちなみに大曾根さんをここに連れて来たのは、人間に攻撃してはいけないことを魔物に教えるための教材確保だ。自分の場合は魔物を捕まえて来たりする関係で、人間だとかそういうことに関係なく攻撃対象からは外れてしまう。そのため、魔物から見て明らかに非力な人間を用意する必要があった。そこで登場するのが、丁度良く名乗りを挙げてくれた大曾根さんと言う訳だ。自ら名乗り出てくれる人がいるのであれば、それを利用しない手はない。
取り敢えず最終目標は、適当に魔物を
胡麻さんと餃子さんは既にかなり懐いてくれたし、柚餅子同様に割とこちらの意図は組んでくれる。ただやはり言語を使って指示が出来ないというのは厳しいものが有り、どうすれば上手いこと事が運べるのかは未だに良く分かっていない。
まだ課題は多いが、完全に道が途絶えている訳ではない。出来ることから進めて行こうかと。
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