第52話 野生児爆誕、再起
二ヶ月が経った。色々と試していることはあるが、確りとした成果は何も出ていない。が、それ以外に一つ気が付いたことがありましてでね。
それは、例の破壊衝動について。魔物と長い間戦っていないと大変なことになる例のアレだが、実は発生原因が何となく分かってきましてね。
というのも、この二か月の間少し
それで色々と試してみたのだが、例の苦しめられていた衝動は、実際には絶対的に齎されるようなものではなく、俺自身の感情を増幅させられた結果がああなっていたようで。
まぁつまりは、特定の感情を引き起こされていた訳ではなく感情全体の感度を爆上げされていたらしい。
…………ということは、あそこまで苦しかった衝動は全て自分の深層心理ということでありましてでね。ちょっと所じゃなくめちゃくちゃ恥ずかしいんですが、それは。だって破壊衝動があるからこそ魔物と闘わなくてはならないとか思って
冗談抜きで蛮族。野生児爆誕としか言いようがない。
そんな訳で────自分の性格を直さない限り根本的な解決にならないことには目を瞑るとして────衝動に関しては問題がなくなった。そして更に、例の良く分からん人たちに銃撃された事件の際に無性に腹が立ったのも、これで理解できる。
確かに突然撃たれるのは衝撃だったけど、だからと言って丸一日それで悩み続ける程でもないからね。ま、結局怪我しなかったし。柚餅子も無事だったし。
しかも彼らのお陰で、今では柚餅子でも銃に撃たれてもしなないだろう訳で。流石に感謝はできないが、それでも良き切っ掛けになったのは事実。今では良い思い出と言うオハナシ。
んでもって、更に一つ問題も発覚した。久しぶりに帰省していた姉に言われて判明したのだが、「雰囲気が怖い」とのこと。そのときは丁度取り組んでいたことが上手く行かずむしゃくしゃしていた所だったので、そのせいかと思い一旦精神統一してからもう一度姉にご対面したのだが、その雰囲気の落差が想像以上でしたので。といっても俺自身では分からないから姉に聞いて確かめたんですが。
そして分かったのが、俺の機嫌が悪いと雰囲気がヤクザになるということ。割と普通に腹を立てているだけでも姉が凄い怖がっていたので、色々と気を付けなくてはならなそう。今まで父親に何かを言われたこともなかったし、誰かから指摘されたこともなかったので気が付かなかったが、今まで何もなかったということはないだろう。留意せねばですね、これは。
以上のことから、まず
何から取り組めばいいか何をすればいいか全くもって何も分からない五里霧中状態だが、行動を起こさないわけには行かない。幸い、基本的に幸せな気分で居れば良いという短絡的結果は得たので、不安が残る場面では自分の好きなことをして過ごそうという訳です。
──────
久方ぶりの日光に、彼は瞼を下ろした。少し前までは、外に出ることも精神的に辛い程、一瞬でも日の許へと出ると、あの時の事が脳裏に蘇っていた。辛い、という言葉ではあの惨状を言い表すことは出来ない。
ずっと、ある種防衛本能のような思考停止のせいで、何も考えられなかった。ただその試みも上手く行かず、頭の奥底にこびり付く恐怖だけが感情を支配していて、何をしても真面に
ただそれも、最近になって漸く回復の兆しを見せていた。
研究だと言い張って、彼の所へと通う研究所の女性がいた。例の研究所で働いている女性というのは、あの時共に洞窟を下った彼女だけではなく、他にもいたらしい。
彼女という人間と関わることが、両手で砂を掬い上げるように、彼の生命を繋ぎ留めていた。
頭を支配して離れなかったあの青年の姿は、今でも克明に思い出す事ができる。それでも、恐怖に体を抱え込んでその場に蹲りたくなるような衝動は、以前よりも格段に弱まっていた。
今ならば、耐えられる。
以前共に活動していた先輩が、未だに彼を待ち続けてくれていることを彼は知っている。以前研究所の彼女と共に来たもう一人の研究員が伝えてくれたのだ。
彼は進まなくてはならない。
不思議と、以前よりも足が軽いような気がする。体重が軽くなったのか、心が削ぎ落されたような身軽さのお陰か。前者であるような気がしなくもないが、心機一転だと思った方が気分は良かった。
幾らか肯定的な感情が胸の底に生まれるのを感じながら、彼は瞼を持ち上げる。
一度は折れかけた心も、今では新しい光を取り戻しつつある。一度は地獄を体験したのだ。これから先の人生、何を怖がることがある。
胸に大きく息を吸い込む。肺の中に入った空気は、静かに有るべき場所へと流れ込み、心臓の奥に空いた空間を柔らかに埋めた。
静かに息を吐き出す。
進まなければ。
──────
随分と前の事態の状況解説。
巨大な魔物に苦手意識のあった肇、柚餅子に向かって反射的に銃を構える。
→柚餅子を撃たれると思った淳介が瞬間的に怒りを抱く。
→魔力の作用で増幅させられた怒りにより発生られた威圧感が、魔力を比較的多く保有している肇と茂樹の感情に干渉。
→肇を含めた一行があまりの恐怖に心理的ショックを受ける。
→自分が撃たれたことにより淳介が更に激怒。
→肇壊れる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます