第47話 巨大迷宮
さて今日は、完全趣味の方の
柚餅子の背中に跨り、森の中を走ること十数分。安全地帯の縁が見えて来た。
安全地域というのは、自分が機能を停止した
そして今向かっている
柚餅子がスピードを落とし始め、木々のカーテンを通り抜けると、視界が急に開けて巨大な縦穴が眼前に広がった。
目測では、大体直径が数十メートル程度。周囲の魔物は数日前に間引いたので、特に目立って魔物が
取り敢えず柚餅子から飛び降り、体を伸ばす。長時間前傾姿勢で保っていたおかげで、腰を含めた全身の関節が凝り固まっている。
最近では、どうも前に比べて運動する量が格段に増えたために、こうした細かい点がやけに気になるようになって来た。なにせ今まで体を動かしやすくするためのストレッチなぞ思考の隅にも浮かばないような人生を送ってきましたので。
恥の多い人生を送ってきましただよマジで。
身体が丁度良く温まってきた所で、まだ春の陽気と呼ぶには程遠い冷たい空気を深く吸い込んで、肺の奥底まで染み込ませる。少し痛いほどの乾いた空気の冷えた感触が、気分を一新した。
最初の方は大した魔物もいないだろうから、取り合えず柚餅子と共に走る。魔物を見かけたら蹴り飛ばすか踏み潰すか噛み千切るか殴り殺すかして、走りざまに命を奪って行く。少し前までは時間を節約するためにこうして走っていたが、今では体力温存の意味も兼ねて強行軍をすることが多かった。
長時間の間集中力を保つというのはそれだけ疲労感を催すもので、更に言えば一々魔物と戦闘態勢に入るというのも気疲れがする。ということで、相手がまだ面食らっている内に片を付けてしまおうじゃないのと始まったのがこの戦法。最早戦法って言うかモノグサを煮詰めて固めましたみたいな感じだけど。
最初の数十分程度はそうして走りながら前へ前へと進んで行った。この時間で目が暗闇へと慣れ、体も十分に温まって、
さぁ、この辺りからが本番。
柚餅子がもう少し戦えるようになりますように、という御祈りも込めて、少し前までは魔物を集めてその中に柚餅子を投げ込むという儀式を行っていたのだが、最近ではあまり苦しんでいる様子を見ないので、面白みがなくなって辞めた。
普通の魔物であれば一体多数で戦っていても引けを取る様子がないし、例え囲んでいる魔物が専ら強力な固体だったとしてもそつなく戦い抜く。柚餅子の成長が嬉しいというか、子離れが近そうで悲しいというか。
最早野生に戻したら社会問題になりそうなサイズだけど。殺処分しようと思ったら自衛隊出動する羽目になりそうだし。人の飼い犬殺すために自衛隊が大勢連なって飛び掛かって来るってどんなコメディだよっていう話じゃんか。
適当にサンドイッチを詰め込んで、ペットボトルに入ったお手製砂糖水を流し込む。流石に長期で家に帰らない時にデイリーでボトル飲料を消費するのは厳しいからね。箱で持って来ようとすると凄い重いし。食パンに関しては炭水化物源が他になかったから気合で持ってきてるけど。
ちなみに野菜は豆苗とモヤシと適当に持ってきた緑黄色野菜系で何とか凌いでいる状態。流石にこの付近で農業を嗜めるほどではないので、健康上はあまりよろしくない生活が続いている。
まぁそんなことはどうでも良くてですね。私は今目の前の魔物達と宜しくしなきゃいけないので。
駆け寄ってきた魔物を素手で叩き潰す。鉄パイプが懐かしいよ。この付近の魔物だと鉄程度じゃ真面な攻撃にはならないっぽくて役に立たないとはいえ、やはり素手で戦うのは色々と不便がありまして。
全身の膂力をフル活用して、魔物が此方へと迫る。右足に体重をかけ、体勢を整えて、正面から魔物の眉間を殴り付ける。鈍い感触と共に、赤黒い血が噴き出る。数メートル吹き飛んで地に伏した魔物を飛び越えて、次の魔物が迫って来た。
姿勢を低くして、上から襲い掛かってくる形の魔物の首を力任せに横から左手で払う。気の毒な角度に首が圧し折れた魔物は、そのまま崩れ落ちて動かなくなった。
少し離れた隣では、柚餅子がその体格と力に任せて魔物を蹴散らす。
…………流石に飼い主として負けられないのでね。少し頑張りますか。
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