第44話 色々あったということで

 いやぁ、色々ありましたことで。


 早々に治りかけている腹部の傷を撫でながら、ぼんやりと天井を眺めた。腹を立てたり反省したりと色々忙しかったせいで、気が付けば既に日を跨いでいる。一応風呂に入り、適当に食事は澄ませたけれどもが、いつもと比べて全てが御座なりでいい加減だった。


 落ち着いて思考や感情を整理してみれば、自分が一番に感じていたのは、衝撃だった。今まで人と直接的な関わりを断った生活を送ってきたせいで、誰かの悪意や敵意を真正面から向けられた経験があまりにもない。というのに、初対面の人間からの発砲だ。

 恐怖、と称する程のものではなかった。どちらかというと落胆に近い感情だ。やはり人と関わるべきではないという思いが強くなる。


 ということで。

 修行タイムです。


 …………えぇ、私考えました。今回はハンドガンだったからいいものの、本格的な武装集団に囲まれて攻撃されたら流石に厳しいものが有るのではないかと。まさかそんな状況に陥ることはないだろうと思ったものの、突然銃撃を喰らうというまさか、、、に遭遇してしまったので。

 もしかしたら柚餅子ゆべしが撃たれることもあるかもしれないからね。というか実際そっちの方が可能性高いだろうし。そして私は実感した。銃、結構痛い。だから柚餅子の対応も色々と考えなくてはならない。


 したがっての、修行タイムでありまして。

 「流石に魔物をペットにするのは―――………」とか「そもそも森の中で一人で行動するのは―――………」とか色々とあるが、うるせえ黙れ俺は強くなるんだ、と。取り敢えず誰も文句言えねぇような存在になってやろうじゃないの、と。

 考えるのが面倒になったとも言う。


 ちなみに柚餅子も巻き添えにしようとは思っている。本当は父親も連れ出してきたいけど、一応彼は一般人だし。市街地で危険に陥るとしても、流石に銃で撃たれるとかいう常軌を逸した危険に遭遇することはないだろうし。

 柚餅子に関しては、純粋にもっと迷宮ダンジョンに潜ってもらうだけだ。特に奥地の方では戦闘経験が少ないからね。もう少し頑張っていただこうじゃないのということで。


 何せ、色々とズルをしている私でさえも、銃に対しての防御力は十分ではなかったのでね。柚餅子は魔物であるとはいえ、流石に死ぬ程堅い身体を持っている訳ではない。

 俺が迷宮ダンジョンで戦えてるから分かるだろうけどね。銃撃にも余裕で耐えられるような魔物で溢れてたら、流石に鉄パイプ一本では太刀打ちできない訳だし。殴って弾けてるんだからそこらへんの金属よりは柔らかい身体をしているということだ。


 あと一つ考えているのは、回復薬ポーションの存在だ。以前にも一度使用しようかと考えたが、想像以上に自分の体の回復が速くて有耶無耶になっていた。しかしやはり、自分の体で手に負えないような傷を負った際に、何か対応できるものが有った方が良い。柚餅子に関しても、怪我した際に黙って指を咥えて見ているしかないよりは、何かしら出来ることがあった方が良いだろう。


 そしてこの回復薬ポーション、買おうと思うと色々と手間だ。都市へと出て行かなければならない上に、ここ最近の世情的に品薄が続いている。それ故、大量購入して保存などということがしにくいのが現状だった。そして、一応父親が幾つかはどこかに隠し持っているようだが、それでも潤沢に使えるという訳ではない。金銭的だけではない希少性が理由で。

 ということで、何かできることはないかと思いまして。


 回復薬ポーションを構成しているのは、水と魔力。作り方は割と簡単で、水を蒸留、煮沸して精製水にした後、魔力を限界まで吸収させるだけ。しかし問題なのはその保存方法で、保存料などの不純物などを入れてしまうと魔力が上手く体内に馴染まず効果が出ず、そして保存料を入れない状態で保存していても、何か雑菌などが入り込んでしまうとこれまた同じ理由で効果が出なくなる。

 したがって、回復薬ポーションと言うのはその容器に工夫が必要で、そのために値段に見合わず生産に時間がかかるのだった。


 しかしこの保存云々、自分で作ろうとすれば割と困らずに済む。輸送時間やら保存時間などを考えるとどうしても気を遣って生産しなければならないが、生産して短期間で使用すればそこそこの丁寧さで作っても効果は発揮するためだ。

 問題は、水に魔力を吸収させる場が必要だということ。通常であれば、回復薬ポーションを作る会社と言うのは小さな迷宮ダンジョンか何かを保有していて、それを生かした状態で保持。そしてそこで発生した魔力を水に溶け込ませることで作成している。


 ただですね。わたくしの家の近くには、謎に魔力が高濃度で染み込んだ水が大量にありましてでね。いや、本当に何でだろうね。誰が何をしたのかは分からないけど、丁度良い感じの池が偶然あるんだよね。


 そしてその高濃度の魔力水を蒸留し煮沸すれば、逆の順で作成する場合に比べて格段に効率が下がるものの、回復薬ポーションを作ることができる。それをあまり日を開けずに柚餅子か自分に使えば良いわけで。


 直ぐに治るわけではないものの、少しは無茶が出来るようになる。今までは柚餅子が怪我をしないように色々と気を遣っていたが、怪我が治るのであれば話は別だ。


 楽しみになってきた。

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