第41話 伝わらない
知らん人に遭遇して、出会い頭に撃たれたんだが。いや、普通はさぁ、例え魔物飼ってたとしてもちょっとは躊躇うでしょ。………そんなに怖いかなぁ、
信じられないわぁ。まじで。
めっちゃ痛いし。
理由は分からないが震えている柚餅子を踵で軽く蹴って落ち着かせ、その上から飛び降りる。腹部に刺さった銃弾を見てみれば、体表から三センチほどの深さにまでめり込んでいて、破裂した衝撃で周囲の肌が裂けていた。
銃弾を摘まみ出して、顔を近づけて良く眺めてみる。今までの人生、誰かに撃たれた経験は流石になかったので、ここまで近くで生の弾を見つめたのは初めてだった。と言っても、もう既に潰れている状態では感慨も何もないのだが。
手に持ったそれを投げ捨てる。そしてフリーになった右手でパイプを握り締めた。相手も厳戒態勢だし、何なら銃弾打って来たし良いよね。正当防衛とかそんなレベルじゃないでしょ。何せこちとら殺されかけてるんだから。
いや、腹立ててなんてないですけどね? 純粋に因果応報的なあれですよ。一応こちらにも手段があること見せとかないとまた撃たれるかもだし。
人の集団へと近寄る。
直ぐに反応して動き出した壮年の男に対して、銃を握っている若い男は動きすらしなかった。そして後ろで座ったままのプロテクターでガチガチに身を包んだ他二人は、顔を引き攣らせたまま動く気配がない。
にしても、初対面で人の事を撃っておいて、あたかも恐怖しているかのように顔面蒼白の状態で目をガン開きにしてるのは、一体どういった了見なんでしょうね。普通は謝るとか、そうでないにしてもせめて対話を試みるとかすると思うんですけど。
若い男の前に飛び出し、前に突き出されている銃口を右手で鷲掴みにする。微塵の抵抗もなく、彼は手を離した。そしてそのまま怖気付いたように後ずさりする。
「…………話を聞いてくれないか」
振り返ると、銃口をこちらに向けたまま壮年の男が言った。だったら武器を下ろせよとは思わなくもないものの。まぁ、空気感ヤバいし、仕方ないんだろうけど。
一旦無視して、地面に向かって引き金を引いてみる。良く聞くような銃声と共に、手に衝撃が掛かった。そして金属と岩がぶつかる衝撃音が響く。若い男は、その音で肩を震わせて、そして更に後退った。
人生で初めて手にした銃は想像していたものよりも貧相で、興醒めだった。銃を若い男へと投げ返す。最近特に魔物対策で銃火器の強化が進んでるという噂は何度か耳にしたので、もう少し迫力があるものを想像していたのだが。
銃を下ろさない壮年の男へと視線を戻し、右手の得物を彼へと向ける。腰が引けたように態勢を低くした男は、そのまま静かに両手を挙げた。
「闘う意図はない」
そのまま壮年の男が若い男の方へと目で合図すると、若い男も同様に銃を腰元へと仕舞い込む。そしてまた、両手を挙げた。
残りの二人も同じように戦闘の意思がないことを示す。
「こちらの者が攻撃して申し訳ない。今から荷物を纏めてこの場所から去ることを許してくれ」
少しの間呆けていた若い男も、それに従って準備を始める。手が震えているのか、リュックのジッパーを締めようとする右手の動きが覚束ない。続いて、もたもたと、他の二人も立ち上がり始めた。
別に最後まで見届ける義務もなかったので、四人が準備を終える前に、その場を離れた。静かにしていた柚餅子の上に飛び乗ると、柚餅子は足の下で一瞬躊躇いその場を一周した後、
初の銃声だったろうに落ち着いていてくれた柚餅子の首筋を撫でつつ、流れて行く景色を眺めた。
最早住み慣れてきたような気さえする部屋の中で、大きく息を吐き出しながら横になる。寝袋を用意してはいるが、中に入るのでさえ億劫で、その上に寝転がっていた。
今日は近くの川に行って水浴びをしてきた。昨日はボディーシートで体を拭いただけだったが、やはり水で洗うと随分と気分が変わる。今日は特に色々と有ったので、その分の疲労感も流れて行くような気がした。
後は服を脱いだお陰で、銃創の様子も良く分かった。少し深くはあるが、血もそこまで流れなずに止まったし、肉が裂けて見えていること以外に異常はない。触ったら少し痛いが、その程度だ。ただ一応救急キット的なものは持ってきていたので、取り合えず絆創膏を貼っておいた。
…………それにしても、やはり魔物を飼っているのは不味いのだろうか。魔物の飼育に関しては、インターネットで調べてみても特にそれらしい法律は出てこなかったし、過去に問題が起った事例などもなさそうだったのだが。
確かに見た目は怖いだろうが、ただそれだけだ。今回の件に関しても、誰かを襲ったわけでもなければ、直ぐに噛み付けるような距離にいたわけでもない。
別に人と慣れ合うために生きている訳ではない。放って置いてくれれば、こちらから何か干渉するつもりはないのだが。森の中で、しかも人がいないような奥地を選んでいるというのに、何故態々発砲されなければならないのだろうか。しかも俺が。
何も分からない。考えれば考えるほど思考の渦に嵌って行く。
諦めて、瞳を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます