第24話 破壊:目標達成
一時間が経った。
魔物との遭遇は、進むに連れて増えている。しかし増えた魔物は基本的にはまだ体が完全に育ちきっていないような魔物ばかりで、一匹一匹であれば取るに足らない。
ただ、それが他の魔物との戦闘中だったら話が変わってくる。今まではただの連戦で済んでいた。しかし魔物の数が増えれば、必然的に一度に闘う魔物の量も増えて来る。集中を一方向に向けてられないのは、それだけで精神的な疲労が激しい。
唯一の救いは、魔物との戦闘が完全に混戦状態だということ。
長く放置されていたが故なのか魔物の面積当たりの数は信じられない程に多い。そのために、魔物同士での戦闘が至る所で発生していた。したがって、魔物の目を逃れて一息つくことも、不意打ちに徹して体力を温存することも出来る。これが、もし注意が自分だけに向いていたらと思うとゾッとする話だった。
ただ結局、魔物との戦闘自体が増えたことには間違いないのだが。
帰り道にまた遭遇するかもしれないことを考えると、隠れてやり過ごすなどという気にもならない。純粋に自分の性格的に逃げるような行動は慎みたかったし、更に言えば、この一本道ではどうしようにも見つかって引きずり出されるのが関の山だろう。
諦めて混戦の中に飛び込んで行った方が、考え過ぎて変な行動を起こすよりは良いだろう。きっと。
体力の限界はとうに過ぎており、帰宅できるかどうかも怪しい所。そろそろ引き返さなければとも思うが、ここまで来たらとついつい前に進んでしまっていた。
足に力が入り難い。手の感覚は完全に麻痺している。酷使された全身の筋肉が悲鳴を上げている。頭の中でふざけたことを考える余裕もなくなって来た。
視界に入っていた魔物の軍団へと、走り出す。先ほど俺が戦っていた集団から、まだ数メートルも距離がない。初めてこの
飛び掛かって来た小型の魔物を足で蹴飛ばし、戦闘中の魔物の片方へとパイプを振り下ろす。目の前で崩れ落ちる死体に驚いたような表情をしたもう一方が走り出すよりも先に、その首筋へと打撃。一旦身を翻して魔物の集団から距離を取った。
こちらを敵だと判断したのか、残る数匹の魔物が此方へと視線を向けて、体勢を低くする。五匹いる内三匹は、体長が目測で二メートル近くある。
二匹が同時に飛び掛かってくる。それに遅れて、後ろから一匹が跳ぶ。右側にいる魔物へと距離を詰め、殴打。左の方がそれを見て、一瞬怖気づく。
後ろから勢いを付けて飛び込んできた魔物を避け、目の前で固まっている魔物を頭から叩き割る。残りの二匹の内一匹は
大きい方の魔物の方へと視線だけを向け、距離が遠いことを確認してから目の前の魔物を蹴り飛ばす。鈍い感覚を感じると同時に、体を翻してもう一匹の魔物へと意識を向けた。
視界の端で、蹴り飛ばした魔物が壁へと激突する。
低姿勢で駆けて来た魔物の顎先に向かって、掬い上げるようにパイプを叩き付ける。空中へと打ち上げられた魔物は、その場で身を捩って着地しようとする。ソレが落下する前に、右足を強く踏み出して、その勢いと共にパイプを振り下ろした。
空中で避ける術もなく、魔物は鈍い音と共に地面へと投げ出される。立ち上がろうと藻掻くも、足に力が入らないのか、魔物は弱々しく地面を蹴るだけで体は持ち上がらない。駆け寄って、止めを刺した。
その時、視界の端に青く淡い光が飛び込む。暗い
何が待っているかも分からないので、警戒態勢は解かないままに足音を潜めて近づく。近寄れば近寄るほどに、青い光が視界をちらつかせる。長時間暗がりの中にいたせいか、その光に慣れるまでに時間がかかった。
曲がり角を進んだ先に見えたのは、青白い光を柔く発する球体だった。ジジ、ジジ………と低い音を発しながら細かく震えているのが、遠くからでも見える。
球体が光っているというよりも、球体の内側に光る物質が蠢いているのか、時折光はふらつきながら強弱を繰り返している。
どこか茫然としながら、その光へと近付いて行った。近寄れば近寄るほどに、肌の表面が共鳴するように熱くなる。
人の頭部程の大きさの、この光一つが、巨大な
…………自分が戦って来た大量の魔物も、この小さな
数分は見つめた後、なぜか名残惜しさを感じながら、光球を叩き割った。甲高い音と共にそれが砕ける。
砕けると、放たれていた淡い青い光は、段々と弱くなり、最後に一度ちらついてから消え去った。急な暗闇に、喪失感のようなものに襲われる。
そのタイミングで、今まで自分を覆っていた衝動が一気に薄れた。いつの間にか力が入っていたらしい肩を下ろして、一つ深呼吸をする。
達成感と安息感に満たされたのは、その後だった。
二日間に渡る戦いが終わった。
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