第19話 年末休み突入

説明回が長くて申し訳ない。こういうの書いてると楽しくてですね、止まらなくなるんですね。いや本当に申し訳ない………。


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 年末休みに入った。


 数年前までは親戚同士で集まったりしていたのだが、移動が困難なこの時代、人と集まることも難しくなっており、最近では適当にメッセージか何かを送って終わらせてしまうことが殆どだった。そのため、年末休みのこの二十日程度、案外自由時間が割と多い。

 俺も、家族の繋がりなんてそんなものかとは思わなくもないけどね。結局自分の安全が大事ですから。工事現場でも良く言うしね。人命が最優先よ。

 それに母親のお陰で親戚半分減ったし。…………ヨシ!


 取り敢えずそれは良いとして、実はその空いた時間を活用して、普段かよっている例の迷宮ダンジョンに長期で潜ろうと考えている。迷宮ダンジョンの完全攻略に慣れるための前段階として、だ。

 標準的な迷宮ダンジョンのサイズを鑑みれば、どれだけ手早く処理をしたとしても、一日で迷宮ダンジョンから出て来れることは少ないだろう。また、コア付近では、迷宮ダンジョンの上層では中々に遭遇しないような事態が発生するらしい。魔力濃度の急激な上昇や、それに伴う魔物の大量発生、異常個体なんかがソレの代表格だ。それらに留意して対処する必要があることを考えると、やはり時間はかかるような気がする。


 急いては事を仕損じる、らしい。だから今回は気楽に迷宮ダンジョンを進んで行き、二日間程度でどれだけ進めるかを見るつもりだった。もしその二日間でコアに届くようであれば嬉しいものの。まぁ、そんなに簡単に話は進まないだろうということでして。


 ともかく、普段より念入りに準備して、普段より長く準備して、普段より更に先に進むだけの話だ。

 最近は精神安定剤を求めて迷宮ダンジョンの奥へ奥へと潜ることが増えたので、割と進行度は悪くはない。であれば、いくら少し大きめの迷宮ダンジョンであっても、あそこから先に二倍以上進むようなことはないだろう。だったら二日で行けるはず。そう信じたい。切実に。


 加えて、食事やらも考えなければならない。普段は昼食だけであったために適当に腰袋にぶち込んで運べば良かったが、今回は少なくとも三食程度は持って行かなければ、確実にどこかで空腹に斃れる。なんだかんだ言って動き続ける訳だし。

 となれば、もう少し大きな荷物入れが必要ということになる。ただ、持ち物の巨大さ故に可動領域が減るというのも嫌なので、出来れば腰元に引っかけるだけで落ち着くような物があれば欲しかった。

 どうだろう、家にあるだろうか。物置かどこかを探せば見つからなくもないような気がするが。まぁ最悪どこかに買いに行けば良いし、ね。


 ちなみに、睡眠については、前日に良く休んでから、本番は寝ずに進めるつもりだ。迷宮ダンジョンで居眠っている間にぽっくり孤独死なんてことがあったら本当にシャレにならないし。流石に魔物が大量に蔓延っている中で堂々と眠れるほどに精神が死んでないし。いつかはそうして夜を明かすことも必要になるのかもしれないけど…………。一先ず初回にすることではないからね。確実に。

 したがって実質、今回は時間的には一日半程度が目安になるだろう。それでも、一日夜明けから深夜まで潜ったような経験はないので、今までと比べると格段に長い時間なのだが。


 決行は明後日の朝からの予定だ。今日の内に必要な物を買い揃えて、明日は一日休養することに時間を使おうと思う。







 どうも、当日でございます。


 昨日一日はマジでずっと寝てたので、体力は余りに余っている。朝食も父親に引かれる程には食して来たので、空腹問題も特に起こらなさそう。しかし、だからと言って食事過多で気分が悪い訳でもない。

 ということで体調は完璧。流石に日を跨いで迷宮ダンジョンに籠もり続けた経験はないので、若干の緊張はあるのだが。まぁ、それでも、この位であれば高揚感で誤魔化せる程度ではある。


 そう、実は最近、迷宮ダンジョンを見るだけでテンションが上がってくるようになった。血が騒ぐというか、あげぽよ~というか、おらワクワクすっぞ! というか。

 なんかもうここまで来ると、自分の本来の性格がこっちだったような気さえしてくるよね。違うけどね。…………いや違いますけどね?


 何となくで体を伸ばしてから、迷宮ダンジョンの入り口へと足を踏み入れる。この日のために四日前に一旦魔物の数を減らしたので、入り口付近には魔物の陰一つなかった。


 何もいないというのも案外つまらないもので、気が付いたら走っていた。迷宮ダンジョンの洞穴に籠った苔臭い空気が、最早リラックス感があると言うか何と言うか。

 良く考えてみると、この迷宮ダンジョンに通い始めてから早くも半年が経とうとしている訳だ。実感して見れば、初めてここを訪れたのが随分と前の事のように感じた。だからまぁ、迷宮ダンジョンに溢れ出る実家感を覚えても仕方がないのだろう。多分。知らんけど。


 十分ほど走れば、ちらちらと魔物を見かけるようになってきた。出会い頭に、新たに調達してきた父親特製強化版金属パイプを振り下ろせば、魔物達は面白いように崩れ落ちて行く。


 いや、ね、そうなのよ。父親特製の、しかも強化版の金属パイプって何よって話よね。俺も初めて父親にそれ見せられたとき困惑したし。

 実はどうやらあの父親、俺が金属パイプを吹き飛ばしたときの話をしたら謎の悔しさを覚えたらしく、日曜大工根性を遺憾なく発揮して、ちょっと固めの金属で武器っぽい物を作って来たらしい。強度を増すめに中空ではなくなっているので最早パイプですらないのだが。


 まぁ、試しに試作品第一号を使ってみたら、案の定ひん曲がって父親泣いてたけど。ごめんよ、父さん。でもあれ、多分元のより弱かったし…………。

 そんなこんながあって、父親が適当に改善を加えた物を取り敢えず今日は持参している訳だ。確かに素手でも戦えたけどね。万全には万全を期すというのと、純粋に武器があった方が楽なのと、こっちで殴る方が感触が好きなのと。


 取り敢えず、もっと先へ進まないとね。本番はここからな訳ですから。


 

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