第12話 ポーション

 さて、現在は大怪我をした翌日ですが。授業を聞き流しながら、頬に手を付いてぼんやりと黒板を見る。

 結局昨日の夜そのまま病院に連行されて、大仰な包帯を足に巻かれて、帰ってからも更に滅茶苦茶説教を食らった。


 説教を終えた後の父親の話によれば、俺が外出していたのは把握していたのだが、高校生特有の深夜徘徊だと思っていたらしい。金属パイプを持ってっていたのも、高校生らしく喧嘩に明け暮れていたと勘違いしていたと。

 父親の中で高校生のイメージがどうなっているのかは少し気になる所ではあるが、取り敢えず彼は俺が迷宮ダンジョンに通っているなぞは考え付きもしていなかった。


 最初は色々と誤魔化そうと思ったけど、嘘をいたらバレそうだったので結局全て自白した。裏山の迷宮ダンジョン然り、その影響然り。勿論迷宮ダンジョンに通ってた話も詳らかにね。それが主題だったし。


 父親は始終呆れた表情で、時折怒ってはいたけど、大抵は諦めた表情をしていた。聞けば俺も姉も性格がかなり自由だから、止めても仕方がないと思っている、と。確かに姉は自由だけどね。私はそこまでじゃないと思うんですがそれは。

 まぁ、ともかく、色々と出かけていることについての制止はなかった。もう一度動けなくなる程の大怪我をしたら二度と家から出れないようにすると息巻いてはいたけど、例えそうなったとしても結局諦めた表情かおをして許してくれるような気もする。まぁ、実際そうかは分からないけど。今回は父親の知らなかった一面を知った訳だし。


 まぁそんなこんな有って、絶賛大怪我で包帯ぐるぐるで足引き摺って学校来た訳なんですけど。


「…………────という、スタンピードの存在が知られます。このスタンピードという名は、牛や羊などの家畜が、夜中などにパニックで突然同じ方向に走り出す行動から名付けられたもので、魔物についても同様の行動が見られます。と言っても、迷宮ダンジョンの入り口付近に集まっている魔物が、群れを成して走り出すなど程度ですから、そこまで危険なものではありません」


 足引き摺ってると目立つんだよね、やっぱり。

 どうしてもこの頃魔物の勢力が強くなってきているということで世間の緊張が高まって来て、何処そこの誰それが怪我をしただのなんだのという噂が一瞬で広まって行く空気感が広がったせいで、誰もが誰かの体調に目を光らせている。そんな中でこれでもかってほど足引き摺ってたら、ねぇ。

 コミュ障道を行く人間にしてみると誰かに見られるだけで動悸がドゥキドゥキなのでちょっとめてほしいんですが。


「ただ、一度魔物の発生周期が偶然重なった際に、更に重ねてスタンピードが発生したことがありました。といっても二年前のことなので比較的最近ですけどね。この時に兵庫県の神戸市が大きな被害を受けて世間の不安を煽ることになるのですが、それを恐れた政府が魔力についての研究成果を急速に発表し初めましてね、その際の公表の一つに、魔力性復元薬────通称回復薬ポーションの存在がありましてねぇ」


 ………おぉ。回復薬ポーション


 そっか、怪我したら回復薬ポーション使えば良かったのか。

 確かに完全にタダで売られている訳ではないが、比較的安価に流通している。心配性であれば回復薬ポーションを買い溜めすると揶揄される程度には、二年前から回復薬ポーションの存在も世間に浸透してきた。ゲームなどでの回復薬と違い即効性の効果があるわけではないが、体の再構築を助ける役割があるため、大怪我などの際には服用が推奨されるらしい。

 完全に傷が治る訳じゃないってのは知ってるけど、効果はゼロじゃないだろうからね。迷宮ダンジョンの不思議パワーには色々とお世話になってるし。


「まだ具体的な理論は確立されていませんが、水が魔力への親和性が高いという事実が公式に発表されたのがこの時ですね。回復薬ポーションというのも、実質魔力を多分に含んだ水ですから、この分野に関する実質的な発表はこの水と魔力の性質のみでした」


 どこで回復薬ポーションは買えるのだろうか。幾ら流通しているとはいえども、こうも田舎であればそうした生活必需品でさえ物資が乏しくなってくる。

 物を運ぶためにも、町と街の間の無人地域を通らねばならない訳で。宅配業というのも色々と発達途上ではあるらしいのだが、どうしても物流には不安が残る。回復薬ポーション程度であれば作ることも出来なくはないのだが、やはり物量となると都会の整い切った設備には及ばないのでね。


 次の休日は久しぶりに迷宮ダンジョンじゃなくてホームセンターでも巡ろうかな。巡るほど店ないけど。怪我してるから外出は止められるかもしれないけど、店の方回るって言ば渋々でも認めてくれるような気がする。

 良く考えればショッピングなんていつぶりだろうか。裏山の迷宮ダンジョンを見つけてからずっとそれ関連で忙しかったし………。いや、最初の方はそうでもなかったけど。


 静かに息をく。


 また黙って黒板を眺めた。

 やたらとテンションの高い先生が、今如何に探索者シーカーが不足しているかを熱弁している。特に田舎で人手が不足して、人命に危機が迫っているのだと。


 それ、嬉しそうに言うことじゃないよ。先生。






────────────


煎餅噛もうとしたけど顎のアジリティが足りなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る