第11話
二人がいるのは四層の中央付近。本来これをやると後で迷宮の創造主に怒られるのだが、今はそんな事は言ってられない。迷宮の岩壁をぶち破り最短コースで二人のいる中央を目指す。
最後の岩壁を盛大にぶち破ると根を足にしたハエトリ草にウツボカズラ、様々な傘を被った手足の付いた茸の群れの中央では奮戦しているリトスとコキネリの姿。コキネリの無事な姿を見た途端、心を覆っていた焦燥感は消えていた。
『コキネリ、リトス!』
「クー」
「クリューソス」
我の呼び声に未だ余力のある明るい二人の声が返ってくる。コキネリが無事で……いや、二人が無事で本当に良かった。
『我が前に出る。援護を頼む』
槍を手に茸と植物の群れの中央に自ら飛び込む。リトスと背を合わせ、肩にはコキネリが止まる。
「了解〜。炎を纏え、金色の槍」
コキネリが唱えると白い炎が我の槍の穂先でゴウゴウと燃え盛り、一振りするだけで4,5匹の茸や植物が消し炭になる。
あっという間に、茸とハエトリ草とウツボカズラに覆われていた部屋は、調理に失敗した厨房のような匂いを放つものへと変わっていた。
雑魚を倒しきったら現れるのが
我の倍ほどもある巨大茸は小さな茸達とは比べものにならないほど強靭な手足を持ち、にちゃーと粘液を含んだ口も備えていた。
「なんか、あの口臭そう」
眉をひそめるリトスにうんうんとコキネリも同意する。
巨大茸が大きく息を吸い込む。何かを口から排出するつもりだ。
『防護魔法を』
「了解」とコキネリが応え、彼女とリトスの周りを硝子のような半球の防護壁が包むのと同時に巨大茸の口から赤や紫、緑の混じった毒々しい霧が吐き出された。一目、誰が見ても毒霧だ。人族が吸い込めば一瞬で命を奪われるかもしれないが、無機物である我に毒は効かない。故に我は防護壁の外にいた。
コキネリからもらった炎はまだ槍の穂先で煌々と燃えている。
『生憎、茸料理はそれほどメニューの種類がなくてな』
振り下ろされる巨大茸の剛腕を横薙ぎに切り落とすも、切られた傍から菌糸が元通りに腕を修復していく。なるほど再生力が高めか。だとすれば、細かく切り刻み一気に焼き払うか、巨体の何処かにある核を砕くかのどちらかだな。
怪物の弱点でもある核は基本的に身体の奥に隠されているが、中には意図的に弱点である核を晒しているものもいる。この茸はありがたいことに後者だった。3つある傘の中央のてっぺんに宝石のように輝く赤い鉱石がある。あれを叩き割れば巨大茸は消滅する。
核を割ろうと迫る我を茸はその剛腕をめちゃくちゃに振って阻んでくる。右に左に躱し、少しずつ距離を詰める我に茸は腕を振り回しながらどろりとした液体を吐きつけてきた。溶解性があるのか石床の触れた部分から白い煙が立つ。厄介なものを吐き出してくるものだ。
なかなか後一足という距離に詰められない。
我の動きを止めようと巨大茸の左右の手が我を掴もうと迫る。両手の攻撃を躱し、飛び上がった眼の前には巨大茸の口腔があった。これは好機。そう思ったのはどちらだろうか?迫る粘液を槍を振り下ろし叩き切った先には無防備に晒された中央の傘の核。
『伸びろ』
命令と同時に槍の柄が伸び、下段から振り上げた穂先が茸の傘ごと核を真っ二つに叩き割った。
粒子になって消えていく巨大茸。消えた茸があった場所に大人の拳大の魔石と液体の詰まった硝子容器が数本、高級食材とされる茸が数個転がっていた。
「お疲れ様〜」
労いの言葉とともに防護壁を解いてコキネリが我の元に飛んでくる。
「クリューソスばっかりに戦わせてごめんね」
駆け寄ってきたリトスが申し訳無さそうに頭を垂れているが、こればかりは向き不向きもある。
『今回の怪物はリトスとは相性が悪すぎた。気にすることはない。それに我は前衛で戦うことしか出来ぬが、リトスは罠の察知や解除が出来るであろう。互いの短所を補い長所を活かせば良い』
我の言葉に「そうだね」とリトスは力強く頷き
「これからの階層のマッピングと罠解除はまかせてね」
と力瘤を作って笑ってみせた。
「しっかし、派手に壊してきたわね」
我が壊して大穴を開けた石壁をコキネリが呆れ顔で見ている。血の気などないのだが引くような思いがした。あぁ、後でここの迷宮の創造主に詫びねば。
「まあ、それだけ急いできてくれたって事だし。ありがとね、クー」
甘えるように我の頬に顔をこすりつけるコキネリ。感謝するのは我の方だ。無事でいてくれてありがとうコキネリ。
巨大茸と小さな茸とハエトリ草とウツボカズラだった消し炭の跡地から戦利品を回収し終えたリトスが扉を指差し我らに手を振る。
「こっちに扉あったよ。回収終わったから進もうか」
『分かった、今向かう』
少し早足で向かう我にリトスが尋ねた。
「ねえ、ここって何層?」
『四層だ』
「そっか、ここは十層までだから大体半分くらいだね。頑張って行こうー」
腕を振り上げるリトスに倣って「おー」とコキネリも前脚を上げ、扉をくぐり先に進むのだった。
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