第8話

 教会に着くとなにやら騒がしい。


『何かあったのか?』


 一番近くにいた少女に尋ねると子供3人が昼に遊びに出かけてまだ戻らないと言うではないか。どこに遊びに行ったか尋ねると3人は教会裏手の森に遊びに行くと。

 あの森は手前付近であれば小動物が戯れるのどかな場所で子供達の格好の遊び場。しかし、奥に入れば我に襲いかかってきたような大型の猛獣が蠢く危険な森でもある。


「どうしよう、見つからない」


 浅いところを探していたであろうピリアが涙目で教会に戻ってきた。


『ピリアは残った子供達を、森にいる子供は我が探してくる』


 座り込んだピリアは縋るような目で我を見上げながら「お願いします」と今にも泣き出しそうな瞳で頼む。


『承知した。コキネリ!』


 ピリアを安心させるように力強く頷きコキネリを呼ぶと彼女は全てを察し、すぐさま我の肩に飛び乗った。

 教会を飛び出そうとする我の背中にリトスの「あたしも行くわ」という声が刺さる。一瞬振り返り首肯すると次の瞬間にはリトスは我の横に並び立っていた。


「あたしの方が森は詳しいわ。案内は任せて」


『頼んだ』


 リトスを先頭に我らは森の奥に迷い込んだ子供達の捜索へ向かった。




 念のため、森の手前あたりでコキネリに探知魔法で子供達を探してもらったが、結果は予想通りのもので彼女は首を横に振る。しかし、話はそこで終わらず


「やっぱり、この辺りに子供の気配はないわ。代わりに今朝方、森に入ったときは感じなかった大人の気配がするの。

 もしかしたらその人達が子供達を見かけてるかもしれないわ。先ずはそこを当たってみましょ」


 コキネリの提案に我とリトスは頷くと気配のある方へと足を進めた。


 大人の気配のする方へ向かうと森の中の開けた場所で4,5人のパーティーが6組ほど野営の準備をしている。何かの捜索隊だろうか?


『いつも、この森はこんな人数で野営をしているのか?』


 リトスに尋ねれば首を横にふる。彼女も疑問に思ったのか近くの気立ての良さそうな女性探索家に声をかけた。


「すいません。皆さんはなんの目的で集まっているんですか?」


 やましい事でなければ答えてくれるだろうし、そうでなければ襲ってくるだろう。幸い今回は前者だった。リトスが尋ねた女性は少しばかり驚いた様子だったが、気さくに答えてくれた。


「あら、貴女も探索家なのに知らなかったの?特別に教えてあげる。最近この近くに迷宮が誕生したらしんだけど、まだ入口が見つからないのよ。私達はそれを探しているの。そう言う貴女達は何しに来たの?」


『森の奥に迷い込んだ子供を探している。男児が二人に女児が一人。見かけなかっただろうか?』


 我の問に女性の目が大きく見開かれる。


「それって、一大事じゃないの。ちょっとまってて聞いてくるから」


 リトスが声をかけた女性は人の良い女性だった。彼女は野営をしている他のパーティーに子供達の目撃情報を尋ねてくれた。

 彼女が聞いて回る中、一人の角刈りの体格のいい男性が手を挙げる。


「少年二人に少女一人のことか?」


 行方知れずの子供達の性別と人数が一致している。


『そうだ。いつ頃見かけただろうか?』


「日暮れ前頃だったかな。日が暮れると危ないから帰れと注意はしたんだがな」


 ちっ、ちゃんと森の外まで送っていくんだったな。小声でぼやく男性は見かけによらず子供想いの良い大人だった。


『どのあたりで見かけたか覚えているか?』


「あぁ、東側を探している時に見かけたよ。まだ、そのへんにいると良いんだがな」


 そう言う男性の顔は渋面に近かった。日暮れからだいぶ時間が経っている。その場にいる可能性は確かに低いが、未だいることに掛けるしかない。


『情報、感謝する』


 我が謝意を述べ、後ろでリトスが「ありがとうございます」と深く頭を下げる。すぐにでも東側に移動しようとする我らに「ちょっと待て」と男性が引き止めた。


「これを持っていけ」


 投げ渡されたのは2本の発煙筒。片方には赤、もう片方には白と表記されている。


「子供らが見つかったのに探し続けるのは2度手間だ。お前さん方が見つけたなら白い発煙筒を焚いてくれ。そうしたら俺たちは捜索を止める。で、赤い方は子供を探している間に迷宮の入口を見つけたら焚いてくれ」


 こっちも探してやるから、そっちも見つけたら教えろと。何かをしてほしければその対価を支払えと。もっともな話だ。


『承知した』


 頷き野営地を後にする我らの背中に大勢の「無事に見つかると良いな」という祈りの声が投げかけられる。

 皆が子供たちの無事を祈ってる。我もそうだ。皆無事でいてくれ。東に向かう足に自然と力がこもった。

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