第7話
朝食が終わり、リトスと我とコキネリは連れ立って街の中心近くにある探索家協会へと向かっていた。目的は勿論、今朝方仕留めた銀毛イノシシの毛皮の換金。
探索家協会は迷宮産の素材から迷宮の外で狩られた生き物や薬草、鉱石などの資源の買い取り及び加工も行っている。
状態の良いこのイノシシ。高く売れると我よりリトスとコキネリの方がはしゃいでいた。
珍しく状態良いとはいえ、イノシシ。希望的推測で
迷宮産で無いので素材としては一手間かかり、加工料も入って金貨27枚でイノシシの毛皮は売れた。
毛皮の買付を担当していた協会職員はリトスの知り合いで今日、ここに彼女がいることに大層驚いていた。
「リトス!貴女生きてたの?貴女と一緒だったパーティから貴女は迷宮の深層ではぐれたからおそらく死亡してるだろうって」
自分らが殺そうとしてよくもこんな嘘を吐けたものだ。
「本当に本当に無事で良かった」
受付カウンターから身を乗り出し、受付嬢はリトスをぎゅっと抱きしめる。
腹立たしさで思わず握る拳がギリっと金属の擦れる音を立てるも、受付嬢の本気でリトスを心配している姿に怒りも鎮められた。
「実力は折り紙付きだったけど、あんまり評判の良い連中じゃなかったから、貴女が一緒に行くって言った時、気が気じゃなかったのよ」
心配げに語る受付嬢にリトスはごめんと一言謝り言葉を続ける。
「心配かけてごめん。でも、あたしにはお金が必要だったから」
「孤児院のことでしょ」
分かっているのかリトスにかける受付嬢の声は優しい。
探索には常に命の危険が伴う。前回は生きて帰れたものが次の回では全滅など良くある話だ。
まだ幼い子供を連れて探索に出るものは少ない。
探索から戻るまでの間に子供を預けるために出来た施設は自然と探索で親を無くした孤児たちを引き取る孤児院となっていった。
迷宮都市にはいくつも孤児院があるが迷宮で潤っている都市は良いが、寂れた迷宮都市では孤児院を維持していくのも難しい。
リトスのいた孤児院は傍目に見ても裕福に見えなかった。
恐らく彼女にお金が必要なのは孤児院を維持するためだろう。
理由は分かるがあのような素行が悪そうなものと探索は無茶がすぎる。
『命は一つしか無い。あまり無茶をするな』
心配がつい口から漏れていた。
はっとした顔をした後リトスは安心させるように微笑んだ。
「そうだね。大事にしないと」
そうだそうだと言いたげに肩に止まっているコキネリも肯定で何度も首を縦に振っている。
「そうよ、リトス。命は大事なんだから預ける相手も見定めないとね」
そう言い、受付嬢は我の方を見るとニッコリ微笑んだ。
「その点、今回のお仲間さんは大丈夫そうね。リトスのことお願いしますね。金色鎧のお兄さん」
お兄さん、確かに我の声は少年ほど高くもなく壮年ほど低くもない。顔の見えない、もとい目は有れど顔などない我。声だけなら青年と見られる。彼といた時もそうだったなぁと一人納得している我に受付嬢が尋ねた。
「お兄さんも探索家なら探索者証をお持ちですよね?どこの所属ですか?」
探索者証は勿論持っている。しかし、作ったのはリトスの高祖父の時代。有効か以前にそんな時間生きている人族はいない。見せれば一目で我が人でないとバレてしまう。ここは失くしたと言って再発行を希望するのが無難だろう。
『実は今日ここに来たのは毛皮を売るのと探索者証の再発行のためなのだ』
「そうだったんですか」
受付嬢は素直に信じ、笑顔で対応してくれた。
「冒険していれば失くなることもありますからね。あんまり頻繁には困りますけど、今回は再発行の件、了承しました。この用紙の空欄に氏名、職業を記入してください。書き終わりましたら登録料の銀貨三枚をお支払いください」
言い終えると受付嬢はカウンターテーブルの上に一枚の用紙とペンを置き、我に記入するようにと促した。
氏名:クリューソス
職業:槍士
記入を終え、受付嬢に用紙と銀貨3枚を渡す。彼女は書類と銀貨を受け取ると「暫くお待ち下さい」と言い残しカウンターテーブルから奥の事務室へと消えた。
数刻待っていると手のひらに乗る程度の銀製の板を片手に受付嬢が戻ってくる。彼女は「クリューソスさん」と呼ぶと、我に手に持っていた銀板を手渡した。
「それが新しい探索者証になります。所属はこのアイレア・イッラになります。等級は初期化され、一番下になりますので高難易度に挑む場合は等級を上げてから挑戦してくださいね。まあ、灰イノシシを一撃で仕留められる方ですからすぐに高難易度の迷宮にも挑戦できますよ。ご活躍期待してます。あ、勿論リトスもね」
期待に満ちた受付嬢の笑顔を背に受けながら用事の済んだ我らは探索家協会を後にした。
ついた当初は天頂近かった太陽も気づけば西の空に沈もうとしている。
「結構、時間かかっちゃったね。残念だけど今日は一旦戻ろうか」
リトスの言葉に我とコキネリは同意で頷き、子どもたちの待つ教会と足を進める彼女の後ろに続いた。
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