5月3日

「こんにちは先輩。昨日ぶりですね。」


「お、おう。おかえり…」



―暇な時来るとか言ってすぐに来てしまった…なんか恥ずかしいな…。






◆◆◆




―4時間前―




「なあ周!学食行こうぜ。」


「いいよ。確か今日カレーだったよな。…って、あれ?」


「どうした?早く行こうぜ!席取られっから!」


「………財布無い。」






◆◆◆






「―って事があって、ここに来た訳ですよ。」



「え?財布が無いこととここに来た事になんの関係があるんだ?」



「俺の記憶の中で1番最後に財布を広げたのはここです!そして、俺は昨日先輩の隣に座りました!絶対にその時に落ちてるはずです!」



…と、ドヤ顔で推理を披露したものの、見た感じ財布は落ちていない。



「もしかして盗られちゃったんですかね…」


昨日と同じように堂々と胡座をかいていた先輩は、俯きながらゆっくりと立ち上がった。


そして、

「実は…君に返そうと思って私拾って持ってたんだ!あれ、でも1000円札が1枚減ってるなあ!私が拾う前に誰かが中身を盗んだのかもな!酷い奴だ!ハラキリハラキリ!」


と目をぐるぐるさせながらペラペラと喋った。

…絶対盗っただろこの人。



「ふーん。そうなんですね、ありがとうございます!」



「ど、どういたしまして!」



疑われなくてホッとしたのか、目はもうぐるぐるしていない。


「でも先輩。なんで1000円札が減ってる事に気づいたんですか?」




「え?」


『ギグッ』と音が聞こえてきそうな程カチコチに固まった先輩の目は、またぐるぐると動き出した。




「先輩、盗りましたよね?」



「…はい。」






◆◆◆





―どうやら俺の財布だと気づかず、ラッキーだと思って1000円だけ盗ったらしい。


「俺の財布じゃないにしてもそんな事しちゃだめですからね、普通。」


「す、すみません…」

堂々と胡座をかいていた先輩は、この時にはもう正座で縮こまっていた。



「で、その1000円は何に使ったんです?」






「…じはんき。」





「はあああ!?1日で1000円を全部自販機に使ったんですか?しかも盗んだ金で?」


「いやあ…お恥ずかしい…。」

先輩はニヤニヤとしながら頭を搔いた。



「…まあいいですよ。使ってしまった物は仕方ないですし。次からはしないで下さいよ?」



「分かってるって!まあ落とす君も悪いから仕方ないけどねー!」

先輩はいつの間にか胡座に戻っていた。







「あんまり調子乗ってると手出ますよ?分かってます?」



「ごめんなさい。」






◆◆◆






「そういえば先輩、まだ名前言ってなかったですね。俺は伊地知 周です。」


「私は冬海ふゆみ つゆ。改めてよろしくね、伊地知くん。」




「よろしく、露先輩。」






「えっ…」

先輩は、少しキョトンとした後、長い前髪で顔を隠しながら


「いきなり下の名前呼びは…なんか、よくないって。」

と、震え気味の声で言った。




…名前呼んだだけでそんな反応されるとなんかこっちまで恥ずかしくなるからやめて欲しい。




―毎回こんな反応されてたらキリ無いから、苗字で呼ぶことにしよう。






◆◆◆





―30分後―



「じゃあ俺時間なんで帰りますね。また今度。」



「うん。待ってる。」











…なんだか今日は妙に楽しかったな。




次はいつ行こうかな。









____________

◤余談◢


周くんはこの日から、冬海先輩にバレないようにナチュラルに下の名前呼びする遊びにハマったそうです。

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