第23話

 序章

「なんで日記なのに、序章があるんだよ。小説家気取りか。調子に乗るな!」

 ……これを読んだあなたは今、そう思いましたね。確かに、あなたの言うことは一理あります。でもこれは、ただの日記ではありません。その話をするために、まずは自己紹介させてください。

 私の名前は天城真白、二十一歳。兵庫県一の偏差値を誇る神背大学に通う、大学三回生です(あ、関西以外の人のために念のために補足しておくと、この三回生というのは関西独特の言い回しで、三年生と同じ意味です)。

 私は子供のころから大のミステリー好きで、将来は推理小説家になりたいなんて思っています。だからこれは単なる日記ではなく、私にとって最初で最後になるかもしれない、創作活動なんです。

 日常を面白く書くことができれば、物書きとしての自信が少しはつくかもしれない……そう思ったんです。これがうまくいかなければ、私は夢を諦めるでしょう。

 いつかは私の自伝的なものが出版されて、この日記が掲載されればいいな。そんなことを考えながら書いているので、正直日記としては読みにくいものになっているかもしれませんが、読者の皆さんは寛大な心でお許しくださると信じています。

 長くなりましたが、もう少し自己紹介を。十年前、私は元々九州地方のとある県に住んでいましたが、両親が亡くなったことが原因で親戚に引き取られました。そこからは、今までずっと兵庫県に住んでいます。

 大学生になったことを機に一人暮らしを始めて、バイトを転々とし、半年前からカフェ『レストルーム』でウェイターとしてアルバイトしながら勉学に励んでいます。

 よく外国旅行者の方が、公衆トイレだと勘違いして入店するこの店で、何故アルバイトを始めたのか。それはここが、岡濱東警察署のほぼ隣に位置しているから。ここで働いて刑事さんたちと仲良くなれば、色々創作活動の参考になる話が聞けるかもしれないと思ったからです。

 今思えば、簡単に捜査情報なんて話してくれるわけないのに……我ながら、単純な思考回路をしているようです。

 でもなんとか、常連の刑事さんたちとは仲良くなって、色々な話をすることができました。事件の話をすることはほとんどないけど、他愛のない雑談をしていると、刑事さんたちも一人の人間だったんだと思い出させてくれます。

 事件や作品の構想を練るのに役立つ情報は少ないですが、登場人物の設定に生かせそうな話はよく聞きます。一口に刑事といっても、本当に色々な人がいます。優秀なのに地方に左遷された人、上司と揉めて首の皮一枚つながった状態で細々と刑事を続けている人、明らかに危ない宗教に関わってそうな人、私が近づくだけで悲鳴を上げるような臆病な人。ここには書き切れないほどの多様な人がいます。

 そういえば一人、なぜか私にずっと恋愛相談をしてくる三十路の刑事さんがいます。何故私にそんな相談をするのか全く分かりませんが……これは私が鈍いのでしょうか。その刑事さんの気持ちを汲んで、答えるべきなのでしょうか? 今の私には分かりません。

 答えは、読者の皆さんに任せることにします。

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