愛の重い聖女が俺を「セックスしないと出られない部屋」に閉じ込めてきた

やまなみ

聖女さん、想い人を力ずくで夫にする

「こんばんは、ライルさん。

今日も月が綺麗ですね」


聖女レイナが俺に声をかけてきた。

今は深夜の2時を回っている。


いつもは人通りが激しい魔術学院の門だが、この深夜の時間になると俺とレイナの二人しかいない。


「……ああ。

そうだな」

俺は最低限の返事だけをした。

レイナが俺に近づきすぎないように警戒しているのだ。


レイナは以前から、俺のことを好きだと告白してきた女だ。

俺は聖女と恋愛関係になりたくはないから、何度も断ってきた。

それでもレイナは諦めずに、何度も関係を迫ってきたのだ。


そして今も、レイナは俺を諦めていない。

だから、今日は余計な会話をして隙を見せるわけにはいかない。


かといって、レイナとは仕事仲間ではあるから、無視する訳にもいかない。


今日は最低限、仕事の話だけで乗り切らないと。


「……どうしましたか?

元気がないようですが」


「そう見えるのか?」


「ええ、見えますよ。

いつものライルさんらしくないです。

私には分かります」


俺は極力レイナに目を合わせないように話を続けた。

「少し眠いだけだよ。

任務には影響はないから、気にしないでくれ」


「そうですか……

それなら良いのですが…」


「ああ、大丈夫だ。

それより、こんな時間に立ち話をしていたら風邪をひいてしまう。


さっさと任務を終わらせよう」


そのとき、レイナは寂しそうに微笑んだ。

「……そうですね。

今日もよろしくお願いします、ライルさん…」


そうして、俺とレイナは学院の門から出ていった。


ーーーーーーーーー


「…ふう。

これが最後の一体のようですね、ライルさん。


討伐依頼は成功です。

今夜もお疲れ様でした」


「ああ、お疲れさま。

倒した魔物の素材を回収しよう。


レイナは屋内の素材を回収してきてくれ。

俺は外の分を集めておくから」


「わかりました」


学院の門を出た後、俺とレイナは二人で協力して、学院から20キロほど離れた廃墟にいる死霊を倒した。


この廃墟は魔術学院の所有している建物だ。

ここには死霊が住み着きやすくなるように、様々な魔術的な仕掛けを施している。

その仕掛けに誘われて、定期的に強力な死霊が呼び寄せられる。



死霊は影があるところにはどこにでも発生しうる性質があり、いつどこで人々を襲撃するか予測が困難だ。


だから、わざと死霊を集めるような環境をつくって、そこに呼び寄せられた死霊を討伐することで、効率よく街の安全を守ることができるというわけだ。



俺とレイナは、そういった死霊を討伐するために魔術学院から派遣された魔術師だ。


…本当は二人きりで任務に出たくはなかったが、今回の死霊はとびきり強力な個体たちだった。

手が空いている魔術師の中で、対応できるのが俺とレイナしかいなかったのだ。



「よし、これで俺の分は終わりかな。

レイナを呼ばないと…」


俺は荷物袋の中に死霊の残留物の一部を入れ、独り言をこぼす。

死霊を討伐した証拠として、学院に提出するためだ。



俺は廃墟の外の死霊の素材回収を担当した。

レイナはその反対に、屋内の素材回収を担当してもらった。


まだレイナが俺を呼んで来ないということは、俺の方が早く作業が終わったということだろう。


だから、俺がレイナの方へ向かわなければならない。

しかし…


「あれ? レイナはどこだ?」


俺は廃墟の中でレイナを探したが、見当たらない。


まさか、魔物に襲われたのか?



俺たちがまだ見つけていない魔物にレイナが不意打ちされて、危険な目に遭っているかもしれない。

そんなことを考えながら、俺は廃墟の中を走り回る。


すると、廊下の突き当たりの部屋の中から声が聞こえてきた。


「……ライルさん!!

助けてください……!」


レイナの声だ!

俺は急いで部屋の扉を開け、中に入る。



そこには、床と壁全体にびっしりと魔方陣が描かれた部屋があった。


しかし、レイナの姿がない。

代わりに彼女の服が、部屋の隅のベッドに無造作に落ちていた。


まずい。

レイナの身に危険が迫っている。

彼女はさらわれたのかもしれない…!



俺がそう思った瞬間、後ろからガチャリとドアが閉まる。

振り返ると、下着姿のレイナがいた。


俺はその豊満で美しい姿を見て一瞬ドキリとしたが、頭の雑念を振り払い、すぐに彼女のもとへ駆け寄った。


「レイナ!

無事か!?」


「はい……

なんとか……」


「よかった……」


レイナの顔を見ると、目に涙を浮かべていることに気づいた。

よほど怖い思いをしたらしい。


「……何が起きたんだ?」

俺はレイナに起きたことを聞き出そうとした。


だが、彼女の回答は予想とは全く異なっていた。



「いえ、なにも。

何もありませんでした」



「え?」


俺はレイナの言葉が理解できなかった。



「どういうことだ?

レイナが俺を読んだんだろう?

『助けて』って」


「そうですね。

私が呼びました。


でも、何もなかったんです」


レイナは何を言っているんだ?

表情を見ても、何をしたいのか分からない。


「…ええっと。

じゃあ、危険な目に遭ってはいないのか?」


「はい」


「……なんだそりゃ……。


…それじゃあ、なんで泣いていたんだ?

目元のそれ、涙だろう?

怖い思いをしたんじゃないかって心配したんだぞ」



俺がそう訊くと、レイナはにっこりと微笑んだ。

「やっぱり、ライルさんは優しいですね。

私のことを心配して駆けつけてくれるなんて。


最近は私に素っ気ないから、嫌われちゃったのかと思って悲しかったんですよ」


俺はレイナの言葉を聞いて、少しの罪悪感を感じてしまう。

「…いや、嫌いってわけじゃ…」


「ふふ。

別にいいんですよ。

もう、悲しむことはなくなりました。


あなたが私を嫌っていても、私はあなたと結ばれる運命なんですから。

たった今、そう決まったんです」


レイナが嬉しそうな顔で話す。



「はい?」

俺はレイナの言葉の意味が分からなかった。

だが、レイナがなにか恐ろしいことを言っているのだけは分かった。


「ね、ライルさん。

さっき私が泣いていたの、どうしてなのかわかりますか?」


「………レイナが怖い思いをしていたから?」

正直全く分からなかったが、とりあえず最初に思っていたことを答えておく。


「違います。

嬉しかったんですよ。


嬉しすぎて、涙が出てしまったんです。


…だって、今からあなたが私を抱いてくださるのですから」


「はぁ?」


頭が痛い。

さっきからレイナの言動が意味不明だ。

困惑する俺に構わず、レイナはさらに恐ろしいことを言う。



「分かりませんか?

あなたが私を抱くんです。


つまり、今から私とあなたがセックスするんですよ」


俺はレイナの言葉を疑った。

この女、気が狂っているのか?


「セッ……クス?


…レイナ、さっきから何を言って……」


「ほら、早く服を脱いでください。

もう待ちきれません。

今すぐ繋がりましょう」


レイナが俺の手を取って、自分の胸に当ててくる。

柔らかくて大きな膨らみが、俺の手に伝わってきた。


「うわっ! ちょっと待て!

お前正気か?

こんなところでできるわけないだろう!」


俺は慌てて手を離そうとするが、レイナがしっかりと掴んでいて離れない。


彼女は怪力の呪いを持っている。

俺の力では、振り払えない。


「大丈夫ですよ。

ここは結界を張ってありますから、誰も入ってこれません。

安心して愛し合うことができるんですよ」


「そういう問題じゃない!

そもそも、俺たちは恋人でもないだろ!

こんなことをするわけが…」


俺がそう言うと、レイナが恍惚とした表情で、俺を抱きしめてきた。


「うふふ。

本当にあなたは何も分かっていませんね。

あなたが私を好きかどうかなんて、もう関係ないんです。


あなたは私と結婚する。

そして、これから毎日私達の子供を作る。

それが天命です。神の意志なのです」


レイナの汗ばんだ身体が、ぎゅっと俺を包み込んで離さない。

柔らかく豊満な身体の感触に欲望が呼び起こされそうになるが、なんとか否定の声を上げて流されまいとする。


「なに馬鹿なこと言ってんだ!


俺は誰とも結婚なんかしないし、レイナとそんな関係になるつもりもない!

だからこんなことは止めろ!」


俺はレイナを突き放そうと抵抗するが、彼女の力は恐ろしく強くてビクともしなかった。


「嫌です。

ライルさんは今から私の夫です。

妻と夫が愛し合うのは当然のことでしょう?」


レイナが俺に抱きついたまま、ベッドに俺を押し倒す。

そして、抵抗する俺の服をビリビリと破いて上裸にする。


「まあ、素敵。

あなたの身体はこんなふうになっているのですね…。


これから毎日交われると思うと…!」

レイナが非常に興奮した様子で、俺の上半身を舐めるように見つめる。


「…ぐっ!

止めてくれ!」


「うるさいですね。

あなたは黙って私の身体に溺れてればいいんです。

さあ、始めましょう」

レイナはそう言って、俺のズボンにも手をかける。


やばい。

このままだと犯される。

この頭のおかしい性女の夫にされてしまう!

こうなったら…!


「くそっ!お前が悪いんだからな!」

俺は右腕に魔力を込め、至近距離でレイナに魔術を放った。


「きゃあっっ!!」

レイナが吹っ飛び、勢いよく壁に叩きつけられた。

殺傷能力はないが、強く相手を押し出す魔術を使ったのだ。


俺はすぐに起き上がり、部屋の外に通じる扉に急いで駆け寄る。


レイナは強い。

今の魔術程度では、すぐに起き上がって追ってくるだろう。


俺は扉に手をかけて、廊下に飛び出ようとする。

しかし…。


「くそっ!」

扉がびくともしない。

まずい予感がする。


俺は間髪入れず、扉にありったけの攻撃魔術をぶち込む。

だが、やはり扉には傷一つつかない。


「あははっ。

無駄ですよ。

私がこの部屋に魔法陣を書いて、結界を作りました。

この結界は、あらゆる攻撃を無効化します。


ライルさんが私を犯してくれるまで、絶対に開きませんよ」


レイナが起き上がったらしい。

背後から声が聞こえた。


俺はすぐに振り返り、レイナに向けて魔術の構えをする。

「来るな!

それ以上近寄ったら、今度は吹き飛ばすどころじゃ済まないぞ!」


俺の言葉を聞いても、レイナは余裕の笑みを浮かべている。


「ふふふ。

撃てばいいじゃないですか。

あなたになら、傷つけられても構いませんから」


レイナが一歩ずつ近づいてくる。


まずい。

逃げ場がない。



レイナの結界術は他に類を見ないほどに頑丈だ。

その上、わざと「抜け道」を用意することで、その対価としてさらに物理的な強度を上げている。



力ずくでこの部屋から出ることは不可能だ。


この部屋から脱術するには、レイナが設定した「抜け道」を使うしかない。



その「抜け道」の条件とは……

レイナの話から察するに、俺とレイナの性行為だろう。



俺とレイナがこの部屋で性行為に及び、レイナが満足したらこの部屋の結界が解除される。

そんな仕組みのようだ。



つまり…この部屋は「俺とレイナがセックスするまで出られない部屋」なのだ…!



あまりにバカらしくて鼻で笑うような話だが、今の俺にとっては笑い事ではない。



力技で解決することはできず、この頭のおかしい聖女を説得することでしか、セックスを避ける方法はないからだ。


いや、他にもう一つ方法はあるが…しかしそれはさすがに…。



「あれ、撃たないんですか?

撃たないなら、私のものにしちゃいますよ」


「くっ…」

じりじりと獲物を追い込むように、レイナは俺に近づいてくる。



こいつは正気じゃない。

どうすればこいつを止められる?

俺が必死に考えていると、レイナの方から口を開いた。


「あ、そうだ。

忘れていました。

あなたにはもう一つ選択肢があります。


私を殺せばいいんですよ。


この結界は、術者である私と強く結びついています。

私を殺せば、この部屋の結界は跡形もなく消え去るんです。


私を殺すくらい、あなたには簡単なことでしょう?


私はどちらでもいいんですよ。

あなたの手にかかるなら、死ぬことだって怖くない。


私を犯すか、殺すか。

どちらを選びますか?」

レイナが妖艶な微笑みを俺に向ける。



「…………」


俺はレイナの目を見つめたまま、動けなくなった。

彼女の瞳は、本気だ。



「すべて覚悟の上、か…」


「ええ。

あなたに拒絶されてこの先をのうのうと生きるくらいなら、今ここで死ぬほうを選びます」

レイナはまっすぐに俺を見据えている。


中途半端な優しさは無意味だ。

俺はその瞳を見て、説得は不可能だと理解した。



俺は腕を下ろした。



「……分かった。

俺が悪かったよ。

お前の言う通り、抱いてやる。


だから無理やり迫るのは止めてくれ」


俺はレイナの要求を受け入れた。

俺にはレイナを殺すことは出来ない。


俺の言葉を聞いたレイナの顔は、今まで見たことがないほど嬉しそうな表情をしていた。


「うふふ。嬉しい。

ようやく分かってくれましたね。

さあ、早く愛し合いましょう、あ・な・た♡」


レイナは俺の手を引いて、ベッドに誘い込む。


「…はあ。

もう好きにしてくれ……」


俺は諦めてベッドに腰掛けた。


「うふふ。

では、始めましょうか」

レイナが俺の隣に座って、身体を寄せてくる。

そして、俺の背に手を回して抱きついてきた。


「ねえ、キスしてくださいな。

今度はあなたの方から私を求めて欲しいのです」


そう言って、レイナは上目で俺を見つめてくる。

瞳が潤んで、俺の反応を待っている。


「………」

この先に進んでしまえば、もう絶対に引き返せない。


俺と関係を持ったレイナは、どんな手を使ってでも俺を繋ぎ止めようとするだろう。


やるだけやって、部屋を脱出できたらさようなら、という訳にはいかない。

間違いなく結婚まで一直線だ。



だが、他に道はない。

たぶん、この聖女に愛された時点で、俺の運命は決まっていたのだろう。



「…しょうがねえな…」

俺はため息をついて、彼女の唇に自分のそれを重ねた。

レイナは目を閉じて、満足げに受け入れてくれた。



あとは流れ落ちるだけだった。

そうして、俺はレイナのものになった。



ーーーーーー


「ライルさん、愛しています。

だから、もう私から離れないでくださいね」


情事が終わったあと、ベッドでレイナが俺を上から抱きしめている。

二人共汗だくになって、裸で身体を密着させている状態だ。


「ああ、分かったよ」

俺は投げやりに答えた。


正直言って、かなり疲れた。

途中からはレイナのペースに飲まれて、ほとんどされるがままだった。

しかも、一度で終わらずに何度も求められたのだ。


おかげで今は体力の限界に達していて、これから先の憂鬱な未来のことは、何も考えたくない。


「うふふ。良かったです。

これで私たちの間に子供が出来れば、ライルさんは完全に私のものになります。

楽しみですね」


「ああ、そうだな」

俺は適当に相槌を打つ。

レイナは幸せそうだ。


俺はレイナの笑顔を見て、さらに気分が落ち込んでしまう。


これから先の未来は、すでにレイナの中では決まっているのだろう。

俺の意思など関係なく、彼女は自分の幸せな世界を築いていくのだ。


「そうそう、ライルさん。

最初の子供は男の子と女の子、どちらがいいですか?」


ほら。

もう子供ができる前提で話が進んでいる。


「……どっちでもいいよ」

俺はもう考えることを放棄した。

レイナが幸せならそれでいいや。


「分かりました。

私は男の子がいいと思います。

名前は何にしましょうか?

ルークなどはどうでしょう?

それとも…」


…こんな調子で、どんどん話が進んでいく。

俺はもう、レイナの話を半分以上聞き流していた。


どう反応しても、俺の未来はレイナのものなのだから。


「ライルさん。

あなたは私のものです。

死んでも絶対に離しませんからね」


レイナが俺の胸に顔を埋めて、甘えるようにすり寄ってくる。

「はいはい」


俺はそんな彼女を抱きしめながら、この先の未来を想像して大きな溜息をつきながらも、ほんの少しの居心地の良さを感じつつあった。

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愛の重い聖女が俺を「セックスしないと出られない部屋」に閉じ込めてきた やまなみ @yamanami_yandere

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