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「呪いをなんとかできそうな三人を招待したよ」
ある日、エヴァンが三人の客人を家に招いた。
「民俗学や民間信仰などを主に研究されている歴史家のジャービス卿」
「よろしく」
「社交界の生き字引、ミーガン嬢」
「よろしくお願いします」
「死者の声を聴くことができる霊媒師ウィザーズ女史」
「どうも」
てんでバラバラな三人の人物に、アデラとダリアはぽかんとする。
高そうな知性を感じさせる身形の紳士、ドレスで美しく着飾り化粧もぬかりない典型的な貴族のご令嬢、そして顔も見えないほど深く目元まで被ったフードに暗色の宝石の飾りが輝く年齢も不明な怪しげな女。
「では、まずはジャービス卿に呪いについて解説してもらいます。よろしくお願いします」
使用人が茶を注ぐ中、エヴァンに促されてジャービス卿が話し始めた。
「呪いとは、対象への害を与えるために、念を込めたものを言います。大抵、呪いを達成させるために道具を用意して手順を重ねます。そして、目的を達成させるために代償を求めることもしばしばです」
滔々と流れるような説明に、ハガード家の面々は黙ってうなずいて聞く。
「呪いに使われる道具は様々ですが、術者本人が念を込めやすいものが多いですね。人形や、櫛、鏡などが知られています。代償は、術者本人の血を使ったり、他人の命を使ったり、などが知られています。また、呪いには相手を特定するために、呪う対象の髪や爪などを用意することがあります」
「ジャービス卿は呪いそのものを信じているのですか」
「そういうわけではありません。ですが、呪いを信じた人がそれを実行したということは歴史上の事実なのです」
「なるほど。ありがとうございました」
ジャービス卿の講義は一旦終わった。
「ハガード家の醜聞が何代前から続いているのか、私の母、私の祖母の日記から読み解きました」
ミーガン嬢はお付きの従者から日記を受け取る。彼女は重量のあるかばんを複数個持って来ていた。
「そちらはすべて日記なのですか」
「はい。社交界での情報は生きた財産であるとの考えを私の女親側から受け継いでいるのです。そのため、私は母からこれらの日記を授かっているのです」
ミーガン嬢の生き字引という通り名は彼女が親から代々受け継いでいっているものである。
「祖母の日記によりますと、ハガード家の当主が愛人を伴って社交に出ているのは現ハガード卿から数えて4代前、ハガード卿のひいお爺様からになりますわ」
具体的な情報が提示される。
「当時の愛人の名前などはわかりますか」
「ええ。その方の名はクラリスだそうです」
「ありがとうございました」
発端の人物の名が判明した。
「では、私はこれよりクラリスさんと対話を試みます」
霊媒師ウィザーズ女史が儀式を開始した。
彼女は自身の身に着けていたネックレスの宝玉を握りしめながら何かをぶつぶつと呟いた。それを額に押し当て、しばし沈黙していた。
「誰がクラリスよ。私の名はクラリッサ。ネイト・ハガードの最愛は私よ」
唐突にウィザーズは顔を上げて腰に手を当てて立ち上がる。その声、口調はウィザーズのものとは全く別人のものであった。
「クラリッサさん。あなたは、ネイト氏を愛していた。そのネイト氏に共に暮らそうと誘われて、屋敷に招かれた」
「そうよ。なのに、その家に奥方がすでにいたのよ! 馬鹿にしてるわ!」
クラリッサは感情的になりながらも素直に情報を教えてくれる。
「あなたは、奥方と共に暮らすことに不満を抱いていた。なのに、共に過ごすことを受け入れた」
「しょうがないじゃない! だって子供ができたのよ!」
「ああ。それは、生活を安定させねばなりませんね」
「そうよ。だから、私はこの屋敷で過ごすことにしたのよ。住み込みのメイドとしてね!」
「なるほど……」
憤るクラリッサを見ながら、ハガード家の面々は違和感を覚えていた。これは、呪いのような陰湿なことをするような人柄だろうか、と。
彼女はとても素直に怒りを表現している。これができるのなら、自ら立ち向かうことを選択しそうなものだ。呪いのような回りくどい手段は選ばなそうである。
「クラリッサさんは、奥様にお怒りですか?」
「私が怒ってるのはあの馬鹿よ! ……奥様はお気の毒よね。あんなクソ野郎と政略結婚させられて!」
「クラリッサさんはネイト氏に愛想が尽きた?」
そう尋ねると、クラリッサは顔を歪めた。その表情から、愛憎入り乱れた複雑な感情を持っていると思わされた。
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