第7話 俺と真夏のサードミッション〜遊園地でダブルデート編〜
セカンドミッション──通称、羽春さんとお近付きになりたい作戦から二週間あまりが過ぎて。
俺と羽春さん、そして真夏と秋人の交流は、目立った進展こそないものの、そこそこ順調に進んでいた。
で、だ。
それなりに親交も深まってきたところで、そろそろ次なる一手を考えなければならない時期なのだが──
「冬樹ー。光と闇、どっちにクラスチェンジするか決めたかー?」
「うーん。ケヴィンは闇でシャルロットは光にしようかと思ってる」
「なるほろ。じゃあ、あたしが使ってるデュランは闇にしようかね。シャルロットが回復役に回るなら別にいいだろ?」
「ああ。攻撃特化型が二人いた方が心強いしな」
土曜の昼下がりだった。
俺は今、真夏と肩を合わせながら自室でゲームをしていた。
ちなみに『聖剣伝説3』。
例によってSFC版。
最近リメイク版が出たらしいが、個人的にはリメイク前の方が好きだ。
聖剣3と言えば、やっぱクラスチェンジが一番の醍醐味だろう。ドラクエ3にも転職システムはあるが、ワクワク感が違うというか、元には戻せないという後には引けないという緊張感と面白さがあるのだ。
成長とした証とも言うべきか。
そういう達成感がある。
とまあ、ゲームの話はこれくらいにしておいて。
「なあ真夏。秋人とはその後、どんな感じなんだ?」
フィールド上を走っていた最中、なにげなく水を向けてみた。
なんか最近思春期に入り始めた自分の子供に気まずく話しかける父親みたいな言動になってしまったが、対する真夏はというと「ふぁっ!?」と素っ頓狂な声を上げてこっちを見てきた。
「な、なんだよ急に?」
「いや、あれから秋人とどうなったか、結局聞かないままでいたから、ちょっと気になって」
「……どうもこうも、まあ、普通に? いい感じだけど?」
「そうか。でも普段、どんな話をしてるんだ? お前ら二人、そんなに趣味が合いそうな感じでもないし」
「いや? 割と趣味合うぞ? だって秋人君、マンガも読むし」
「マンガ? 進研ゼミ的なものじゃなく?」
「うんにゃ。ジャンプとかマガジンとかの方の。どっちかって言うと小説の方が好きらしいけどな」
「へえ。よかったな、それなら上手くやっていけそうで」
まあなー、とコントローラーをいじりながら答える真夏。
「そういう冬樹はどうなんだよ? ちゃんと羽ちゃんとやっていけてんのか?」
羽ちゃん。
言わずもがな、羽春さんのニックネームだ。
セカンドミッション以来、真夏は羽春さんの事を愛称で呼ぶようになっていた(逆に羽春さんは真夏の事を「夏さん」と呼んでいる)。
俺と同様、羽春さんと連絡先を交換していた真夏ではあるが、その後も三人でグループLINEを作って交流を続けていたのだ。
実のところ、俺よりも真夏の方と交流があるみたいで、そこはかとなく複雑な気分ではあるのだが。
「俺も無難といったところだな。少なくともお互い友達と言えるくらいの間柄にはなれたと思う」
「おー、そーか。まあ最初の頃に比べれば大進歩だよな。あたしと二人で羽ちゃんに会いに行った時とか、まさかのムーンウォークだったもんな。薬でもキメてきたのかと正気を疑ったもんだぜ」
「それを言うな……。自分でも今思い出しても『やっちまった』と後悔する事が多いんだから……」
弁解するわけではないが、あれは決してウケを狙ってやったのではない。極度に緊張し過ぎて、自分でもよくわからない行動を取ってしまったのだ。
だからと言って、さすがにムーンウォークはないと思うが。なぜにムーンウォークだったのだ、あの時の自分よ。
「ていうか真夏こそ人の事言えないだろうが。なんだったんだよ、あのわけのわからん顔文字みたいな笑顔は。ねらーかお前は」
「うっせ。あの時は会心の笑みを浮かべていたつもりだったんだよ。鏡の前にいたわけじゃねぇんだし、自分じゃ見えなかったんだからしょうがねえだろ」
「ま、逆にそれで興味を持ってもらったんだから、ある意味怪我の功名だったよな」
「お前もだけどな。怪我って意味じゃ、あたしと同じくらい重傷案件だろ。でもまあ──」
一緒に森林フィールドを駆けながら、真夏は心なしか嘆息混じりの声音でこう続けた。
「どっちも面白枠としか見られていないってのが、なにげにキツいよなー」
面白枠。
言うなれば道化者。
別段そうなりたくてなったわけではないし、結果だけ見れば想い人と親しくなれたのだから、決して悪いわけではない。
悪いわけではないが、異性として見られているかどうかで言えば、その線は限りなく薄いだろう。
俺も真夏も、たぶん相手から面白い人としか見られていない。
今後好きな人──俺だと羽春さんと付き合いたいと思うのならば、今の関係のままではおそらくダメだ。
恋人同士になるなんて、夢のまた夢に違いない。
「そろそろ、次の作戦に移るべきなのかもしれないな──」
次の作戦? と横目でこっちを見る真夏に、俺はゲーム画面から視線を逸らさず首肯する。
「ああ。お互い、好きな人と親しくなるという最初の目標はクリアしている。次は相手に意識してもらえるようなシチュエーションを作るべきだと思う」
「シチュエーション、かあ」
と、話している間にモンスターと遭遇した。
それぞれ別々のモンスターと対峙しつつ、真夏は巧みに敵の攻撃をさばいて反撃していく。
「それってやっぱ、デート……とか?」
「まあ、そうなるな」
「そうか……」
その後、どちらからともなく無言になった。
ゲーム画面から流れる軽快なBGMとコントローラーをいじる音がしばし鳴り続ける。
そうして沈黙を保ったまま十分以上経ったあたりだろうか、
「──なあ、冬樹」
と、不意に真夏が声を掛けてきた。
「なんだ?」
「デートって事は、もちろんこっちから誘わなきゃいけないんだよな?」
「まあ、当然そうなるな」
「どうやって誘うんだ……?」
「どうやってって……そりゃあ、直接会うなりスマホを使うなり、色々あるだろ」
「いや、そういう具体論じゃなくてさ」
ふるふると首を横に振りつつ、真夏は言葉を紡いだ。
「お前、羽ちゃんをデートに誘う勇気なんてあんの?」
「……………………」
「……………………」
ガガッ! というモンスターから攻撃を受ける音が響いた。
すぐさま距離を取って応戦に転じつつ、俺は質問に答える。
「どうしよう……?」
「ノープランかよ!」
脳天をチョップされた。少し痛い。
そんな中でも真夏はモンスターに遅れを取らず、溜まったゲージでクリティカル技をヒットさせていた。
「まったく、作戦どうこう以前の問題が発生してんじゃねえか」
「その件に関しては返す言葉もないが、そういうお前は秋人を誘えそうなのか?」
「誘えそうにないから冬樹に訊いたんじゃねえか」
「それもそうか……」
我ながら無意味な質問してしまった。
「あ。でも、おつゆなら良い方法を考えてくれるかも……?」
「おっ。それはいいな」
成り行きで恋愛初心者である俺達のアドバイザーになってくれた柚木さんであるが、真夏いわく相当な数の恋愛経験を積んでいるらしいし、きっと彼女なら良い案を提供してくれるはずだ。
「しかし、デートかあ」
モンスターを倒し終えて、再びフィールドを駆けながら、真夏はどこか物思いに耽ったような面持ちで後を継いだ。
「ついにここまで来たって感じだなあ」
「その言い方だと、まるで結婚前夜みたいだぞ」
実際はまだ友達以上の関係にもなれていないのに。
「でもさ、最初はまともに話せなかったあたしらが、好きな人をデートを誘えるところまで来たんだぜ? なにげにすごくね?」
「まあ、そう考えたらな」
そういう意味では、俺達も聖剣3みたいにクラスチェンジできたのかもしれない。
遠くから好きな人を密かに想うだけの自分から、積極的に好きな人と関わるようになった自分へと──。
「こうなったら絶対成功させようぜ、あたし達のデート」
言いながら、拳を突き出してきた真夏に、
「……まだ誘えてもないけどな」
と苦笑しつつ、俺も拳を出して軽く小突き合った。
☆ ☆ ☆
真夏との作戦会議(ほぼほぼゲームをしていただけで、大した事は何もしていないが)から一週間ほど過ぎて、とある土曜日。
「わー。遊園地なんて久しぶりですー」
「僕も。たぶん小学生の時以来かな」
市外にある大型の遊園地を前にして、笑顔で感想を述べる羽春さんと秋人。
そんな二人を横目に、俺と真夏は声を潜めて、
「ついにこの日が来ちまったな、冬樹……」
「ああ。ここまで来たからには、もうあとには引けない……!」
意図せず握った拳に自然と力が入る。
そりゃそうだ。今日はいつもと気合いの入れ方が違うのだから。
なにせ今日は俺と羽春さん──そして真夏と秋人とのダブルデート。
人生初となるデートなのだから。
「やばい。めちゃくちゃドキドキしてきた。今朝、待ち合わせ場所で羽春さんと会った時よりも緊張しているかもしれん……」
「おいやめろよ。そんな事言われたら、あたしまで緊張してくるだろうが……!」
「あれ? 二人共、離れたところでどうしたの?」
「笹峰君の言う通りですよー。早く並ばないと長い行列が出来てしまいますよー」
と。
二人して情けない事を口にしていた中、秋人と羽春さんが不思議そうな顔をしてこっちに近寄ってきた。
「あ、いや、なんでもない。ちょっと真夏に伝え忘れた事があっただけだから」
「ん? あ、あー。あれなー。そういえばあれがあれしてあれだったなー。うん。マジであれだったわー」
「成瀬さん、さっきから『あれ』しか言ってないよ?」
「まるで熟年夫婦の会話みたいですねー。ツーカーの仲と言いましょうかー」
「そうそう! ピーターの仲ってやつ!」
「ツーカーだっつーの」
なんて話をしつつ、俺達四人は券売所へと向かう。
さて。
少し唐突ではあるが、なぜダブルデートを決行する事になったのか、その経緯を説明したいと思う──。
『デートに誘いたい、ねえ……』
真夏のスマホ(スピーカーモード)から響く、柚木さんの若干呆れたような声。
柚木さんに相談しようと決めたものの、前に土曜日は部活のある日だと聞いていたので、ひとまず夕方になってから電話をかけてみようという話になったのだが──
『練習が終わった途端にすぐこれとはね。相談に乗るって言っちゃった手前、別に文句はつけないけれど、せめてシャワーを浴びる時間くらいは欲しかったわ』
「それは申しわけない……。また頃合いを見て電話を掛け直した方がいいだろうか……?」
『えっ!? 進藤君いたの!? ごめんなさい! 決して進藤君の事を悪く言うつもりはなかったの!』
「えー? あたしはー? あたしには謝ってくんないのー?」
『あんたはいいのよ。だってナッツだもの』
「そんなの不公平だ〜! ぶ〜ぶ〜!」
「真夏、ちょっと静かにしていろ」
子供みたいに唇を尖らせて不満をこぼす真夏を押し退けて、電話の向こうにいる柚木さんに話しかける。
「柚木さん。あとで掛け直すよ。忙しい時に電話を掛けてすまなかった」
『あ、待って。ちょっとだけなら大丈夫だから』
ゴソゴソと電話の奥で物音が聞こえた。どこかに座ろうとしているのかもしれない。
『えっと、デートの話よね? さっきの話を聞くに進藤君もナッツもデートに誘う勇気がないんだっけ? それならいっそ、ダブルデートにしてみたら?』
「「ダブルデート?」」
オウム返しに聞き返す俺達に、柚木さんは『ダブルデートっていうのはあくまでも名目上の話ね』と補足を入れる。
『要は、二人きりでいるのがダメならみんなで遊びに行けばいいのよ。もちろんあんまり数が多過ぎたり、関係の浅い人ばかりと行くのは論外だけど、進藤君と野中さん、ナッツと笹峰君の四人なら大丈夫でしょ。初対面の人もいるけど、話を聞く限り野中さんも笹峰君もコミュ力ありそうだし、気まずい空気にはならないでしょ』
「いやいや、それじゃ意味なくね? だってあたしも冬樹も、そもそもデートそのものに誘えなくて悩んでんだから。デートがダブルデートになったところで、やる事何も変わんねぇじゃん。どのみちデートに誘わなきゃじゃん」
『バカね。別に「デートに行こう」ってわざわざ正直に言う必要なんてないの。「友達と一緒に今度遊びに行かない?」でも十分なのよ。肝心なのは好きな人と出掛ける事なんだから』
お〜、と二人して感嘆の声を上げた。
なるほど。言われてもみれば、確かに「デート」という言葉に捉われ過ぎていたのかもしれない。
「俺も真夏も変に難しく考え過ぎたのかもな。最初から一緒に遊びに行こうと気軽に誘えばよかったんだ」
「それでも緊張はするけどなー。今まで一緒に遊びに行った事なんてないし」
まあ、それは一理ある。
『そこはもう、二人に頑張ってもらうしかないわ。私が一緒に行くのは野暮な気がするし、そもそも遊びに誘うくらい普通にやってくれないと、この先進むものも進まなくなっちゃうわよ』
うっ。ごもっともな意見にぐうの音も出ない……。
「そっかー。あとはあたしら次第って事かー」
「そうだな」
とはいえ、悩み始めた頃に比べれば、だいぶ気も楽になった。
これも柚木さんのアドバイスのおかげだ。
『ま、あとは二人でどうにかしなさい。できたら直接か電話の方がいいけれど、それが無理ならメールとかでもいいし』
「ありがとう柚木さん。とても参考になった」
「あたしもありがとなー、おつゆ。すげえ助かった。シャワー前に悪かったな」
『ほんとよ。まあちゃんと前もって言っておかなかった私も悪いけど、これから時間に気を付けて電話しなさいよ?』
「あいよー。あ、それはそうと、おつゆって今から学校のシャワー室を使うつもりだったんだよな?」
『? そうだけど、それがなに?』
「ちゃんと毛の処理はしとけよー。いくら女同士でも無駄毛を見られるのは恥ずかしいぞー?」
『んな!? あ、あんた、さも私が無駄毛を処理していないみたいに言うじゃないわよおおおおおっ!! しかも進藤君のそばでえええええええっ!!』
真夏の余計な一言に、スマホから柚木さんの怒号が響き渡る。
真夏め、今は能天気に口笛なんて吹いているが、あとでどうなっても知らないぞ……。
──以上、回想終了。
その後真夏がどうなったかなんて語るまでもないので、あえて詳細は省くとして。
柚木さんの助言通り、明確にデートとは言わずになけなしの勇気を振り絞って遊びに行こうと誘ってみたら、思っていたよりあっさり遊園地に行ける運びと相成った。
これもそれも、すべて柚木さんのおかげだ。
しかもデートプランや遊園地デートにおける諸注意まで指南してくれて、今後柚木さんの前では下がった頭が上がりそうにない。
閑話休題。
なんだかんだでどうにかこうしてダブルデートまで漕ぎ着けたが、今のところ特に目立った問題はない。
秋人とは初対面だったが、向こうは爽やかに対応してくれたし(お互いに最初から名前で呼び合うくらいに)、羽春さんと会った時も互いに笑顔で挨拶を交わしていた。
柚木さんも言ってくれていたが、二人のコミュ力が高くて本当によかった。
で。
そんな俺達四人ではあるが、入場券を買ったあと、少しの間ぶらぶらと園内を歩いていた。
いきなりアトラクションに向かうのではなく、少し園内を散策しつつ会話を楽しみながら何に乗るかを決めようという話になったのだ。
これも柚木さんのアドバイスである。
まさに柚木さん様々だ。
はてさて。
ここからはダイジェストで各アトラクションに乗った反応をお送りしたいと思う。
ミラーハウス──
「わー。わたしの顔がたくさん映ってますー。なんかちょっと不気味で怖い感じもしますねー」
「そ、そうかな? 俺的には眼福だけど……」
「はいー? 何か仰りましたー?」
「い、いやなんでもない! 気にしないでくれ!」
「うわー。あたしの顔だらけ。なんかテントウムシに見つめられてるみたいだ」
「あ、言われてもみればそうかも。成瀬さんってけっこう想像力豊かだよね」
「えっ。ま、マジ? えへへ、秋人君に褒められちった。あとで百八回は脳内再生しよ……」
「まんま煩悩の数じゃねえか」
機関車──
「懐かしいなあ。僕が小さい頃の話だけど、遊園地の中で機関車が一番お気に入りだったんだよねえ」
「わかる。俺も親にねだって何度も乗ってた」
「男の子は機関車好きですよねー。わたしのお父さんもよく鉄道の写真を撮ったりしてますよー」
「あー、撮り鉄ってやつ? あたし、鉄道はあんま興味ないから、そういうのはよくわかんねえなあ」
「どちらかと言うと男の子の趣味ですからねー。わたしも鉄道関係はよくわかりませんしー。駅弁なら好きなんですけれどー」
「それわかる。あたしも駅弁なら好き。あくまでも願望だけど、オリエント急行限定弁当みたいなやつがあったらめちゃくちゃ食べてみたいわあ〜」
「名称が不穏過ぎるわ」
お化け屋敷──
「おい見ろ冬樹。『THIS MAN』がいるぞ。まさかこんなところで見られるなんてなあ。驚きだぜ」
「あ、本当だ。でも『THIS MAN』ってお化けカテゴリーでいいのか? 確かアメリカの都市伝説のはずだろ?」
「ある意味お化けでいいんじゃね? 夢の中にしか出ない不気味な男って扱いだし。『地獄先生ぬ〜べ〜』でもいたじゃん。ブキミちゃんっていう夢の中にしか出てこないお化けが」
「ああ。それ僕も子供の頃に近所のお兄さんに借りて読んだ事があるよ。あくまでもマンガなのに、夢の中に出てきても大丈夫なように、必死になって道順を覚えたなあ」
「なんの話をしているのかはわかりませんが、夢の中に出てくるお化けっていうのもあるんですねー。わたし、今でこそ割と平気になりましたけれど、小さい頃はお化けは苦手で心霊番組とか一切見ない方だったので、ちょっと新鮮ですー」
「その心霊番組も、今じゃあんまりテレビでやらなくなっちゃったけどなー。昔は『本当にあった怖い話』も週一でやってたのに。ま、あたしはTVタックル派だけどな。特にUFO特集は毎回笑わせてもらってるぜ」
「全然信じてねぇだろ、それ」
と。
こんな感じでアトラクションを堪能し、最後にお化け屋敷を出たところで、
「そろそろ、ここらで二手に別れてみないか?」
と俺の方から切り出してみた。
「二手に? 僕はいいけれど、どうしてまた?」
「このまま四人で遊ぶのもいいが、それだと一緒に遊べないアトラクションもあるだろうし。羽春さんは絶叫系が苦手じゃなかった?」
「あ、はいー。昔から本当に苦手でー。進藤君、ちゃんと覚えていてくれたんですねー」
当然だ。遊園地に行く前に、そういった情報はちゃんと耳に入れてある。
もっとも、前もって苦手な乗り物を聞いたのも、こうして二手に別れようと提案したのも、例によって柚木さんのアドバイス通りに行動しただけなのだが。
柚木さんいわく、好きな人に意識されたいのなら、あとで二手に別れた方がいいと言われたのだ。
四人で遊んだあとなら、いくらか緊張も和らいでいるだろうし、何より二人きりでいた方が、よりお互いの存在を意識するようになるからだとか。
なるほど。至言である。
確かに今なら、羽春さんと二人になってもいくらか落ち着いて話せそうだ。
「でも、どうやって二手に分けようか? 僕は別に誰でもいいけれど」
「はいはい! それならあたしと秋人君、冬樹と羽ちゃんのペアでいいと思います!」
ここぞとばかりに挙手する真夏。
いいぞ真夏。今のところ打ち合わせ通りだ。
「あらー。ジャンケンとかではないのですかー?」
「ジャンケンでもいいけど、ほら、やっぱ遊園地だし同性同士よりは男女で分けた方が人目も気にならないじゃん? あたしと冬樹は幼なじみ同士だから新鮮味がないし、だからさっきのペアでどうかなって思ったわけ」
「そっか。まあ確かに、男二人で遊園地を歩き回るのはキツいものがあるしね」
女の子同士なら気にしないかもしれないけど、と秋人。まったくもって同意見である。
「じゃあ早速二人に別れようか。また集まるのは閉園する一時間前でどうかな?」
「異議なーし!」
「わたしもそれで構いませんよー」
「僕も同じく」
俺の言葉に首肯する三人。
そうして俺達はそれぞれのペアに別れて、お化け屋敷をあとにするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます