第5話
その日の夜。私と妹は同じ布団の中に入っていた。いやもちろん私は拒否したんだよ? でもお母さんたちの了承を先に取ってしまった妹に押し切られてしまった。おのれ。
「お姉ちゃーんっ。えへへっ」
「はいはい。お姉ちゃんですよ……」
妹の嬉しそうな顔が私に向けられる。せめてこのまま眠ってしまいたい、そうすれば大学生にもなって妹と一緒に寝ているなんてことを忘れることはできるのにね。でも今のこいつの前で目を閉じるとか怖くてできないよ。何されるか分かんないんだし!
こうなったら、思い切って聞いてみよう。
「ねぇ」
「うん? どうしたのっ?」
「変わったよね」
妹の顔が固まった。私を抱きしめている腕が解かれて、スッと大人しくなった。
「……やっぱり、分かるよね」
「誰だって分かるってそんなの。数か月ぶりに会った妹が襲いかかってきたんだから」
「おっ襲ってなんかいないもん!」
「キスしてきたくせに、あちこち触ったくせに」
「あんなのは襲うのカテゴリには入らないんだよっ? 私だってそれくらいは抑えるんだから」
あれで抑えていたのかよ。つまりこいつが遠慮しなくなったら私はあれ以上すごい目に遇わされていたと。やはり今からでも逃げるべきなのかもしれない。ちなみに私の言葉にすっかり大人しくなったとはいえ、妹は私の手を掴んでいる。畜生また逃げ場ないじゃんか。
「それはともかく……教えてよ。高校生の頃まではこんなことしなかったじゃん。告白も……」
「うん……」
「私はあんたのお姉ちゃんなんだから。あんたに悩みとかあるなら聞いてあげたいんだよ。こんなんでも、私の大事な妹なんだから……さ」
「お姉ちゃん……分かった。話すよ……」
「ありがとう」
少し近づいたらまた唇と唇がくっつきそうな距離の妹の頭に手を回して、優しく撫でてやる。妹は嬉しそうに喉を鳴らしてから、少しずつ話し始めた。
「寂しかったんだ。お姉ちゃんがいなくて」
「寂しかった?」
「うん。今までずっと一緒だったのに、大学に入ってから急にお姉ちゃんと一緒に居られなくなったよね。それが寂しかったの」
「……そっか」
私は妹の身体に腕を回して、そっと抱きしめた。それがこの子の劣情を煽る行動だとしてもそうしてやりたくなったんだ。
「授業も、バイトも、サークルも、みんな楽しいよ。でもお姉ちゃんがいないことの寂しさは埋まらなかったの……それで気付いたの。私、お姉ちゃんのことが好きなんだって。お姉ちゃんのことを考えると切なくなるのっ。本気で恋をしていると思わなかったけど、今朝お姉ちゃんの姿を見たときに確信したんだ。私は、お姉ちゃんの恋人になりたいんだって」
「ほっ……本気で言ってるの?」
妹は頬を膨らませた。怒らせちゃったかな。でも信じられないんだって、あまり思い出したくないけど、この子が帰ってきて最初に見た私の姿ってくたびれただらしない姿だったはずだよ。
「本気だよぉ。私、お姉ちゃんが欲しいってずっと思ってたって知ったの。高校生の頃から私はずっとお姉ちゃんと一緒にいたでしょ? あれは単純な姉への愛情じゃなくて、恋をしていたからなんだよ……」
「そうだったんだ……」
少し目に涙をためて、妹はそう言った。私は知らない間に妹を恋に落としていたんだ。子どもだと思っていた妹はいつの間にか大人になっていたらしい。私の想像していた大人とはかなり違うけどね!
「それで、帰ってから私相手に色々としてきた訳か……」
「うん……その、嫌だった?」
そんなこと上目遣いで言わないでよ。
「……びっくりしたけど、嫌じゃないよ。むしろ嬉しいよ。私も一人じゃ寂しかったというのはあるし」
「えへへ……両想いだね」
「それとは違うと思います」
へへへとお互いに笑いあう。しばらく笑いあった後、妹は頬を染めて私をまっすぐに見た。
「もう一度言うよ。大好き、お姉ちゃん」
「それは、性的に。だよね?」
「もちろん。結婚しようねっ」
「おい昼間よりも進展してるじゃないか」
昼間の話じゃ確か恋人止まりだったはずだ。妹と2人でウェディングドレスを着て結婚式をあげる様子を想像してみる。うん、ぜんっぜん想像できないわ。
「ねぇせめて恋人からにしない? そもそも私恋人になるとも言ってないんだけど……」
「へへへっ。都会で始めたバイトでね? 社員さんから卒業後はウチで働かないかって誘われているんだっ。大企業だから安泰だよ! だから卒業後は私がお姉ちゃんを養うから心配する必要は何もないんだよ?」
「わ、私だってちゃんと働くよぉ!」
くっ……働く必要がないならそれも良いかもって思ってしまった自分が情けない……! この子と結婚すれば一生ぬくぬくできるってか……
「お姉ちゃん。揺らいでるでしょ?」
「それはもちろんだけど……はぁ」
私は雑念を振り払って、妹をじっと見た。
「本当に恋人になるかどうかは知らないけど……でも、あんたがそう言うなら、なんとか前向きに向き合うようにするよ。今はそれが限界だからっ」
「何で?」
「何でって……そりゃあ、私だってあんたのことが好きだから……だよ」
「えへへっ。えへへへへっ。お姉ちゃんっ!」
「頬を染めるなキスしようとするなっ! あんたのとは違って私は妹を心配する姉としての健全な感情だからっ」
熱い吐息を浴びせながら近づいてくる妹の顔を、手でつかんで押し戻す。
少し抵抗した後、キスを諦めた妹は。私の胸に顔をうずめながら言った
「私、夏休みはずっと実家にいるんだ。だからね、あっちに戻るまでに絶対お姉ちゃんを落とすから。だから……覚悟してよね」
「うぅ……何する気なのさぁ……?」
「へへへっ。それは言えないよぉ。でも、私はお姉ちゃんを落とすためならなんだってするんだからねっ」
「ひぃぃっ……」
私はいよいよ身の危険を感じて布団から出ようとしたけど、妹にがっちりと抱きしめられて、そのままキスされた。
「これはお姉ちゃんが私の恋人になるための最初のステップ。だからね」
「これが最初のステップって、この後どんなことしでかす気なのっ」
「んっ……」
「っ……」
答えはキスで返された。今までのキスとは違って妹に舌を入れられて、そのまま私の舌を容赦なく舐めまわす激しいキス。仕方ないなぁ。
「分かったよ……っ……私、頑張ってあんたの愛を受け止めてみせるから……」
これから私は何をされるのか、想像するだけで怖いけど、でもちゃんと受け止めてあげたい。だってこの子は大切な妹だもん。
そう覚悟を決めた私は、自分からも積極的に妹と舌を絡めた。
都会から帰省してきた妹の様子がおかしい件 畳アンダーレ @ojiandare
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます