交換 2
「人形って良いよなぁ、気楽で。息が詰まる思いも、痛みも、何もなく、ただ愛でられて」
事の発端は、私のこんな呟きだった。そんな私の弱音が、まさに奇跡を引き起こした。
「私と体、交換しない?」
大好きな人形からの、“救い”とも言える提案。今までずっと追い詰められていた私は、つい、すぐに頷いてしまった。
縋るような思いだった。学校での冷たい視線から逃げたい一心だった。大切だと言っておきながら、人形のことは何一つ考えてなかった。
私が私であることに変わりはない。
体が入れ替わっても、周りの人たちは変わらない。まさか、私が人形と入れ替わっている、なんて、誰も思わないだろう。そして、肉体を持ち、あらゆる感覚を得た以上、自身もまた、『自分は人形だった』なんて思わない。
だから、元は人形だったあの子は、何の罪もなく傷ついた。私のせいでつらい思いをさせてしまった。それはもう、死にたくなるほどに。
殴られ、蹴られ、暴言を吐かれ……。
始めは、自分が救われたことに喜んでいた。でも、途中からあの子の泣き顔を見ているのがつらくなった。私のせいだ、私のせいだ……。そんな思いが強くなり、私はついに勇気を振り絞り、言うことにした。
「私と体、交換しない?」
あの日と同じ言葉と笑顔。私が私である以上、きっと同じ選択をしてくれるはず。
案の定、彼女は虚ろな目をしながら頷いた。
ごめんね、つらかったよね。もう、大丈夫。私の痛みだから、ちゃんと私が受け止めるよ。
こうして、私たちはまた、体を交換することになった。
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