第2回転
私、
カラカラカラ。
どれだけ回してもキミに伝えるべき言葉の一つすら見つからない。くだらない考えばかりがあふれては消えてゆく、この繰り返し。
そして今日も回り始める。
食堂にいるキミを見かけました。
「やぁやぁ、おはよう。一緒にご飯でもどう?」
そんな風に言えたらいいんですけど……
それをそのまま言えばいいじゃない?
そんな当たり前のことはわかっています。
ですが、いざ誘うつもりで口を開くと「や」のところで止まってしまいますし、その声すら裏返って、機械のような電子音になってしまうのが私です。
ピー!
おいおいスマホはサイレントモードにしとけよ。
いやどっかでお湯でも沸いてるんじゃないか?
そんな会話が繰り広げられたら、心に傷を負った私は引きこもりにクラスチェンジしてしまうことでしょう。
だから私でも言える言葉を探す必要があります。変にプレッシャーがかからず自然体で話せるようなちょうどいい言葉。そんな言葉を探して、今日も空回りする頭と戦っているのです。
弱気な思考なのはわかってるんですが……
キミの中の私が、ほんの少しでもステキな姿でいてほしい。
そう思ってしまうと止められません。
あ、券売機の前で悩んでますね。
生姜焼き定食に指が伸びています。
はい、安くておいしくていいですよね。
そうだ。私も同じメニューを注文してみるのはどうでしょう?
「あ、同じメニュー、奇遇ですね」
これなら私でも言えるのではないでしょうか?
さらには次の展開も見込めるかもしれません!
「奇遇ついでに、私と一緒にごはん食べませんか?」
この高難度コンボをつなげられるかは私次第。
まかせた二言目の私! 期待してます!
これしかありません!
そうと決まれば何を買うか見ておかないと!
キミの指が券売機をさまよっています。
カレーライス?
カレーも定番ですけどいいですよね。ちょっと甘口なのが実家のカレーみたいで安心する感じです。
サラダ?
え? ダイエットとかしてるんですか? キミは今のままでいいんですけど~! 好きな人にはご飯を笑顔で食べていて欲しいなぁって思います。
ラグビー部ご用達、超大盛カツ丼!?
ちょっとまってください!!
私のプラン、食堂から始まるラブラブ恋の予感大作戦には、同じメニューを頼まなくてはいけません!
いや、食べれますよ? 食べれますが?
回らない口ですが、食べるのは得意ですが何か?
でも嫌なんですー! いきなり大食いの女としてキミの記憶に残るなんて、イヤー! さっきは元気に食べるキミが見たいと言っておきながら、どの口でゆうとんのやこの女とか、自分でも思うけど許してー! 乙女心控除を申請しますー!
キミと二人でおいしいご飯を食べたいから、隠すつもりもないけど最初からはイヤー! こういうのは段階を踏んで打ち解けてから理解してもらいたいんですー!
何回目かのデートでおずおずと私が「私、ご飯たくさん食べるけど、そういう女の子、キライ?」って聞きます。そしたらキミが「ううん、そんなことないよ。おいしいご飯を食べて幸せそうな女の子好きだよ」なんて言うんですよー! バカな妄想入ってるけど、理想を目指す気持ちは諦めたくありませんー!
あああ、たとえば、もうちょっと左、ラーメンとかもおいしそうですよ?
半チャーハンセットもあるからお腹も満足なんじゃありませんか?
ラーメンだったらポピュラーですし、メニューが一緒でも自然です。
どんなラーメンが好きか、から話を広げることができるかもしれません。
キミはヤサイマシマシ。
私は固め濃いめ少なめ。
麺のように長い付き合いがはじまる予感!!
そう! もう少し左! 指を伸ばして!
勇気を出してゴー!
ポチ
『レバニラ炒め定食』
さすがの私も……ニラの匂いをまとってキミと話す勇気は……
「匂いが強いものを食べる時は牛乳を飲むといいですよ」
(
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