第4話 フラッシュバック②

 見えたのは、子供部屋の間取り図だった。


 二階廊下の風景に重なる形で、視界に図面が映し出されている。

 その図面を確認して、視点の人物はナイフを握り直した。ごく普通のスーツの袖から、不自然な黒手袋が覗いている。


 犯人はどうやら、うちの構造やセキュリティを事前に調べていたらしい。視界の間取り図を消すと迷いなく廊下を進み、子供部屋のドアに手をかけた。


 ナイフを構え、ドアを開く。

 その瞬間──プシッ、と放射音がした。


 悲鳴を上げる。眼球が焼け付く激しい痛み。目が開かない。涙があふれ、咳が止まらない。うめき声を上げ、咄嗟にナイフを振り回す。


 どっ、と腕になにか重いものがぶつかった。やわらかい、人間の胴体の感触。

 重みが飛びついてくる。振り払おうとして二人して床に転がり、激しい揉み合い。


 腹にしがみつく重みを蹴り飛ばした。きゃっ、と少女の悲鳴。

 舌打ちして、尻もちをついたままナイフを振り上げる。


 振り下ろしたナイフは、肉とは違う、やわらかな手応えにぼすりと遮られた。びりっ、と布の裂ける音。


「くそッ、枕か!」


 荒い声で叫ぶ。スプリングの効いたベッドらしき場所に手を付き、立ち上がる。

 よろめきながら目をこすった。まだ目は開かない。

 舌打ちしたとき、ヒステリックな声が聞こえてきた。


「あ、あなたの狙いは弟でしょ⁉ ユーリならクローゼットに隠れてる! だから私だけは助けてよ‼」


 身勝手で無様な懇願に、口元が嘲笑で歪む。

 はっ、と侮蔑めいた吐息が吐き出された。


 電脳内に間取り図を立ち上げ、手探りで壁に手をつく。クローゼットを目指して歩を進めると、壁紙が途切れ、つるりとした感触が現れた。


 引き戸タイプのそれに手をかける。がらりとクローゼットを開き、中に足を踏み入れた、瞬間。


 どんっ、と誰かに突き飛ばされた。

 反射的に、突き飛ばした人物の腕をつかむ。奥の壁にぶつかる感触。

 人間の重量がもつれあうように倒れ込んでゆき、そして──

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