真夜中のメールボックス~えんじぇるママのメッセージ~

夢月みつき

第1話「Re:えんじぇるママ」

俺は、田中勝利たなかしょうり。高校一年だ。母親の佐千子さちこが去年に亡くなり、現在は父の勝智かつとしと妹のまりあの三人で、暮らしている。



父さんが仕事に行くと、夕食とまりあの面倒は、俺の担当となる。

父さんは、休日は昼食と夕食の担当をしてくれているし、まりあも小学生になってからは、手伝いもしてくれるようになった。


でも、あの日から俺の胸にぽっかりあいた、この穴は、未だふさがる事なく。

夜中、部屋の中に一人でいると、涙が自然に溢れて来る。

母さんの事を無意識に考えてしまう。

俺はベッドに横になり、天井を見上げた。


涙が頬を伝い、耳の中に入る。それをティッシュで拭いて溜め息を吐く。


「弱いなぁ…俺。ガキかよ。」


自分に悪態あくたいをつき、独りごちる。

その時、深夜の十二時だと言うのにスマホの着信音がなった。

「んだよ。こんな夜中に」

スマホの画面を見ると、メールボックスに通知が来ていた。


何気なく件名を見ると、「久しぶり」と表示されている。

「ひさしぶり?なんだ。これ」

俺は、しばらく会っていない友人かと思い。メールを開いてみた。

すると、そこにはこう、文章がつづられていた。


(こんにちは。ひさしぶり!元気でやってる?)


「誰だ?」

差出人名に目をやると、えんじぇるママと書いてあった。

「なんだ。これ…イタズラにも程がある。」

削除しようと考える。しかし、差出人のメールアドレスには見覚えがあった。

「これ、母さんのじゃないか!」


母さんのスマホは、解約をしていなくてリビングのタンスの引き出しにずっと、しまってある。俺は、気になってリビングに行って、引き出しの中のスマホを取り出した。



充電はたまにしているので、すぐにでも使える。

電源を入れ、母さんのスマホのメールボックスを開くと送信タスクに俺に来た。

あのメールが、入っていた。


「嘘だろ? 父さんか、まりあが俺にイタズラでもしてるのか。」

一瞬そう思ったが、二人とも母さんを大切にしていたし、冗談でもそんな悪戯をする人間じゃないと言う事は、俺が一番よく知ってる。それにしても、おかしな事ばかりだ。


試しに、そのスマホをテーブルの上に置き、アドレス宛にメールを打ってみた。

「えっと、“あんたは誰だ?俺の事を何で知ってるんだ。”送信っと」


俺は、送信ボタンを押すとテーブルの上のスマホを見た。

すると…信じられない事が起こった。


(返信ありがとう。私は貴方のことを知ってます。私は、貴方の母親の佐千子さちこです。)


メールがひとりでに作成され、俺のスマホに送信されて来たのだ。

「俺は夢でも、見てるのか?こんな事が起こるなんて…この令和の時代に」


変な霊でもいるのか?この部屋に。

まりあと父さんを守りたい俺は、震えをこらえて。質問を繰り返した。

何よりも、母さんのスマホで成りすまして、返信して来るのが許せない。


俺は、メールをそいつと繰り返し、でも、そいつの送ってくる答えは母さんしか、知り得ない事ばかりだった。


俺は、警戒心むき出しの文章から、打って変わって。心を込めて文章を打ち、返信してみた。本当に母さんなのかと。

すると、(そうだよ。驚かせちゃって。ごめんね。ショウくん。)と母さんが良く俺を呼んでいた愛称あいしょうで送って来た。



「…母さんだ。本当に母さんが。」

俺は涙が、溢れて止まらなくなった。すると、突然、背中の辺りが温かくなった。

まるで、誰かに抱きしめられているような感触まである。しかし、周りには誰もいない。

「母さんなの?」

俺は、声に出してつぶやく。すると、何とも言えない優しい声音こわねが耳元で聴こえた。


『ショウくん。いつも、まりあとお父さんを大切にしてくれて。ありがとう。いつも見てるからね。』

「かあさっ!」俺が振り向こうとすると、背中の温もりがスッと消えた。


「ありがとう…母さん。」

俺は、スマホを抱きしめて嗚咽おえつを漏らして泣いた。

俺達家族は、母さんが、大事な人がいなくなっても変わらず、生きなくてはならない。



でも、肉体は滅びても魂はずっと、俺達と共にある。

これからも、母さんの思い出を胸に三人で生きてゆく。

この先に何があっても、俺達ならきっと、大丈夫だ。

見ててくれよ。母さん…。




-了-       


🌛・・・・・・・・・・・・・・・・・・・🌛

最後までお読みいただきありがとうございます。

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