工場跡地には砂が散歩していて

歩くたびにそれらの音がする

ここに来てからというもの

黒い海風が皮膚に触れては消えていき

打ち捨てられた鋼材が

砂まみれの姿を見せるので

一つそれを撫でてやった

尖った粒の向こうで

赤いペンキが不安定にたわんで

あるいは指にささくれ立って

剥がれ落ちる

思えば人間は鉄塊のようだ

心臓に打ち延ばされる身体が

少しずつ酸化していく様が

この鋼材には何もないけれど

錆と心臓の花がやたらと匂うので

私は金槌を振り上げた


赤茶色の粉末が静寂に跳ねて

焦げた金槌だけが手のひらから

腕に走る陰影へと響いていく

鉄塊と鉄塊の触れ合う音が

ようやくあたりに響いた時

その銀色の打撲痕から

あなたの目が覗いている

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る