第4話 人質

 佐藤は入院している古田を見舞うため病院に向かっていた。


「先輩、あれで生きてるんだからすげえよなあ……」


 佐藤は古田の生命力に感心しながら、お土産のまんじゅうを片手に病院の自動ドアをくぐった。

 病院の受付では、全身包帯の古田が女性看護師を後から羽交い絞めにして頭に拳銃を突きつけている。


「せせせ先輩! 何やってんすか!」


 思わずお土産のまんじゅうを握りつぶした佐藤は古田に向かって叫んだ。

 古田は佐藤を見ると斜め上約30度を見上げながら話しだした。


「ここは……死の匂いがする……懐かしい……ベトナムの臭い……」

「先輩……ベトナムで何かあったんすか?」

「ベトナム……そう……それは……去年レンタルした映画で……筋肉が多い男が戦っていた……スタローン……万歳……」

「先輩それ映画じゃないっすか! なんで看護師さんを人質にとってるんすか! 全然わかんないっすよ!」

「ここは……生と死が……交差する場所……全ての命が……許しを乞う……しかし……飯が……まずい……」

「先輩! 飯がまずいから人質とるってそっちの方がまずいっすよ! とにかく落ち着いて、看護師さんを解放して拳銃をこっちに渡して……ってなんで拳銃もってるんすか!」

「この銃は……俺……もう一人の……俺……俺達は……常に……共にある……具体的にいうと……ロシアから……お手ごろ価格……十丁まとめて買うと……ポイント5倍……」

「先輩それ犯罪じゃないっすか! もうとにかく落ち着いて、看護師さんを解放してください!」


 古田はしばらく佐藤を見ていたが、ふっと息を吐くと羽交い絞めにしていた看護師を解放した。


「先輩……」

「成長したな……さ……さ……さ……」

「佐藤っす」

「そう……佐藤……もう……おまえに……教える事は……ない……」

「いや、あの、見舞いに来たんすけど」

「さらばだ……佐藤……お互い……生きていれば……また……会う事もあるだろう……」


 古田はそれだけ言うと、しっかりした足取りで玄関に向かい、閉じたままの自動ドアに強引に衝突、さらにそのまま無理矢理突破。

 きらきらと輝くガラスの破片をまとい、人々が呆然と見つめる中、己の信念を貫くようにどこまでも真直ぐ進み、病院前の道路で自らを玉に模したピンボールを披露して皆の度肝を抜いた。

 絶体絶命。

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