第2話 轢殺

 古田と新人の佐藤は車で証人の家へ向かっていた。

 配属されたばかりの新人である佐藤は、やや興奮した面持ちでハンドルを握っていた。


「古田先輩、俺覆面パトカー運転するの初めてなんすよ。なんか緊張するっすね」

「……」

「早くサイレン鳴らしてそこらの車蹴散らしていってみたいっすね。あれ? 先輩どうしたんすか?」

「……」


 古田は前方にある交差点近くの道路を、その鋭くも虚無をたたえた瞳で凝視していた。


「路上駐車……秩序に牙剥く鋼のフレーム……永遠……そして偽りの栄光……許されざる者……」

「あ、本当だ。でも交通課の仕事っすよ。俺らは聞き込みに行かなきゃいけないし」

「決まりきった世の中に……反抗を……そして……俺の前で……悪は……存在出来ない……たとえ……この命……尽きるとも……」

「時間も無いししょうがないっすよ。ここは交通課に任せて僕らは聞き込みっす」

「さあ……狩りの……時間だ」

「いやいや、それは無理っすよ先輩」


 古田は佐藤の声を無視してドアに手をかけた。


「って先輩! 走ってる車から降りるのは危な……先輩! 先輩ー!!」


 佐藤の声を背後に聞きながらドアを蹴り飛ばし迷うこと無く飛び出した古田。

 格好良く道路に降り立とうとするが慣性の法則に従い豪快に倒れて繊細に転がりアスファルトを削り削られる古田。

 さらにそこへたまたま通りかかった大きめのトラック三台が、その大きなタイヤを存分に発揮して古田。いい感じで全身まんべんなく古田。

 絶体絶命。

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