5日目ーー急変
「コンコンコン、お邪魔します。今日も美人幽霊看護師がやってくる深夜を迎えました。特別回診ですよ~」
シャッとカーテンを開ける音
「……あれ? どうしたんですか?」
ベッドが軋む音
布団を擦る音
「……退院が伸びた!? え? いったいどうして!? あの、熱とか咳とかーーああ、はい落ち着きます、一旦落ち着きます」
「……はい。ちょっと、微熱……それに伸びたのは1日だけ」
「あー、はい。念のためにというやつですね。すみません、ちょっと焦ってしまいました」
「……なんでそんなに焦るのかって? それはだって、あなたが心配だからですよ。退院が伸びるっていうことは、病状が悪化したんじゃないかとか、手術が上手くいかなかったんじゃないかって、いろいろ考えるじゃないですか」
「でも、よかったです。入院予定はあくまでも予定ですから、1日、2日伸びたり縮んだりしますよね」
「……そっか、でも1日伸びたということは、(嬉しそうに)また明日会えるんですね」
「……いえいえ、全然嬉しくないですよ。患者さんには早く元気になって退院してもらわないといけないですからね。そう、それが一番ですよ」
沈黙が続く
「……あっ。本当は今日、会えるのが最後だと思ってお伝えしたいことがあったんです。でも……」
戸惑うような声
「やっぱりやめておきます。昔話、昔話の続きをしましょう」
「……だって、昨日先に寝ちゃったじゃないですか? 私が話してる途中だったのに」
「……いいですよ。すみません、ちょっとわがままみたいな言い方でした」
「それじゃあ続きから。夜の病院が暗すぎて怖くなってしまった女の子のところへ、一人の看護師さんがやってきました。天使みたいな看護師さんでした。毛布の上から女の子の頭を撫でてくれて、大丈夫だよ、って横に座ってくれたんです」
「(記憶を辿るような感じで)女の子と看護師さんは小さな声でゆっくりとお話をしました。それは、本当に他愛もないお話だったと思います。だけどそのお話が女の子の緊張と不安を取り除いてくれたんです。女の子は全く怖くなんてなくなって、それから毎日ゆっくり眠れるようになりました」
「女の子は不思議でした。注射も薬もされていないのに自分の中にあった怖いものが全部なくなってしまったことに。女の子は自分でもそんな力がほしい。絆創膏がなくても治せる力がほしいと思って、看護師さんになりたいと思ったんです」
「(小さな笑い声)……また寝ちゃった。続きはまた明日。本当に明日。私の思い、伝えられますように」
耳元に移動する
「おやすみなさい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます