3日目ーー手術
覗き込むような感じで
静かにカーテンが開けられる
「コンコンコン、やっぱり起きてたんですね(ちょっと心配そうに)」
「どうでしたか?」
「……うん! 手術は大成功でした!」
拍手の音
「体のつらさはどうですか? だるいとか重いとか」
「……眠れなくなりそう? そうですか……」
ベッドが軋む音
布団が擦れる音
「手を握っていてもいいですか? 体温は感じないと思いますけど、雰囲気だけでも」
「……(笑い声)もちろん手術中は最初から最後まで握ってましたよ。でも、手術室の看護師さんも麻酔が効くまで手を握ってくれてましたよね。あのとき、3人で手を握り合ってたことになるんですよ。(笑い声)」
「私、美人看護師じゃないですか。生身の体があれば手を握るだけじゃなくて頭を撫でたり、もしつらい痛みとかあればそこを触ったり、いろいろもっとできるのになあと思ってたんです」
「だけど、美人幽霊看護師の私にしかできないことがありまして。それは、こうして真夜中の時間ずっとあなたの側にいれること。これは、幽霊の私だけの特権なんです。本物の夜勤の看護師は何人もの患者さんを診ないといけなくて、昨日みたいに何度か安全確認に来ることしかできないんです」
「……手術の後ですから、本当はゆっくり眠ってほしい。ですけど、眠れない気持ちもよくわかります。今日はずっとお話しましょう」
「……話す元気がない、ですか? そしたら、昔話でもしましょうか。子どもの頃のように眠くなるかもしれません」
「……はい、それでは」
咳払いの音
「昔々、あるところに大きな夢を持っている女の子がいました。それはすごく可愛らしくて野原に咲いているどんなお花にも負けないような太陽みたいな明るい笑顔の女の子でした」
「……創作? いいじゃないですか、なんでも。女の子はみんな可愛いんです」
「女の子の夢は、誰かのお世話をする仕事をすること。昔から世話好きだった女の子は、いっつも絆創膏を持ち歩いていてケガする人がいたら、すかさずポケットから絆創膏を取り出して貼ってあげるような女の子でした」
「……もう、チャチャを入れないでください。そういう女の子だって世の中を探したらきっといるんです。優しい子がいないと看護師さんになる人もいないでしょう?」
「毎日、そんな風に過ごしていた女の子ですが、ある日自分にピッタリな職業があることに気がつきました。それはーー」
「あっ、辛そうな咳……大丈夫ですか? あっ、熱もあるんですね。私、体温感じられないから……(戸惑う感じで)ど、どうしよう……あっ、もしかしたらーー」
耳元で息を吹きかける
「……何してるのかって? あなたの耳に息を吹きかけてるんです。幽霊がくると室温が下がるって言うじゃないですか。直接息を吹きかけたら、もしかしたら涼しく感じられるんじゃないかって」
「……気持ちいいですか? よければこのまま朝までずっと……」
「あっ、目がトロンとしてきました。眠くなってきました? あっ、違う? 気持ちいいから?」
「……でも、眠くなってますよ。まぶたも落ちてきて、呼吸も穏やかになってきています。……眠ってもいいですよ。今日は朝までずっとこうしてますから。……どこかへ行ったりしないですから、ね」
「……寝ちゃいましたね。今日もおやすみなさい。ゆっくり休んでください。お話の続きはまた明日。……退院まで、あと2日ですね(少し哀しそうに)」
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