晩夏に棄てる
十余一
一
夏は死に逝く季節だと、私は思うのです。苛烈な陽射しで干乾び、淀んだ
そして今、私の目の前にも物言わぬ方が横たわっております。
止めどなく溢れる鮮血もきっと程なくして渇き、指先から温度を失ってゆくのでしょう。生気を失った骸はやがて
死は、生きとし生けるものに平等に訪れます。どれだけ徳の高い立派な御方だったとしても、所詮は血と肉の詰まった袋でしかないのです。成した偉業や犯した悪行も時と共に薄れ、死してこの世に残るものなど何一つとしてありません。
煌々と輝く月が全てを
人が人を殺めてしまったとき、山育ちは海に流し海育ちは山に埋めると申します。ですが、山と海に囲まれたこの狭い地で育った私には
私はこうして
どれだけの時をそうして過ごしていたのでしょう。気付けば空が白み始めておりました。朝日が夜の
彼女がそこに居ることに。
流行りの杏色の着物に
幼少の頃より私のことをよく知る彼女は、この惨状の目撃者になってしまったのです。
凶行とその証人たる彼女を前にして、私にいったい何が言えましょう。釈明、弁解、
空気を震わせる朝の光と共に、彼女が足を踏み出しました。彼女の
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
彼女は
この根拠のない、ともすれば無責任な言葉が、どれほど私の救いになったことか。
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