残念な子の「花」

花は動画投稿者になる

　花はいたずらとか思い付くとやりたくなっちゃうタイプなのですよ。

ちょうど探偵推理モノの漫画を読んでいたのですね。

花の視界の端で犬ころが寝てたのですよ。

それはそれは見事にあられもない格好で。

もう閃いてしまったから止められなかったですね。

梱包用のビニール紐を用意。

四角に切った紙に数字を記入。

果物ナイフを床に置きました。

犬ころ殺人事件現場の完成でしたね。

直ぐに猫たちがビニール紐で遊びだして、犬ころも起きてしまったので一瞬でしたが。

最近で一番くだらなかったですね。

　とある日。

花はスマホで動画を流し観ておりました。

自動再生ってあるじゃないですか？

そこで再生された動画に花は釘付けになりましたです。

おいおい。

花にそっくりではないか。

マスクで隠れている以外の部分。

目元も眉も髪型も。

何なら服装の趣味までそっくりやんね。

もう花にしか見えなかったですね。

　花はピコーン

　ってしてしまったのですよ。

　「動画投稿始めたから観てね！」

身内を含めて数名にURL付きで送りましたよ。

　花は

　「むふふふふ、一人くらい引っかかるかな？」

なんて思っていたですよ。

　返信

　「えー、なに？めっちゃ再生すれば良い？」

　「花さんっぽくて素敵ですね！」

　「凄い！協力出来ること有ったら言ってね！」

　「再生して応援するよ！」

…

一人くらいどころか、全員引っかかったのですよ。

本人が喋らなくてテロップタイプの動画だとはいえ。

　花は思いました

　「おい、お前ら正気か？」

だって花ですよ。

コミュ障拗らせのこの花が動画投稿なんて、疑問に思え。

なのですよ。

どいつもこいつも純粋なのですよ。

君たちのピュアな目が眩しいぜっ。

　だから花はこうしました

　「よし、少し泳がせよう」

今思えばこれがいけなかったのですよ。

これから時間を程無くして、動画の感想やアドバイスが送られてくる様になったのですよ。

　テロップの色が背景に混ざって見にくかった

　とか

　何分何秒の所が分かりにくかった

　とか

花は観てないから知らんのに。

だから花は動画のコメント欄にそのまま転送することにしたのですよ。

送られてくるアドバイス。

転送する花。

コメントに付くイイネ。

主さまからくる返信。

アドバイスさんとして少し有名になる花のアカウント。

出口の見えなさに怯える花。

これ、結構しばらく続いたのですよ。

それでもちらほら違和感に気付く人達。

　花は

　「やっと気付いたかー(笑)」

でやり過ごしましたです。

　そしてまたとある日。

会社で二十歳以上も離れているおじさまから手帳を渡されたですよ。

花は不思議な顔をしました。

おじさまは「しっ」ってジェスチャーをして去って行きました。

中を見ますとね。

何かの型番号。

値段。

最安のECサイト。

沢山書いてありましたね。

あっこれおすすめの撮影機材じゃね？

って花は気付きましたよ。

このおじさまにも動画投稿始めたって送ってたのですよ。

普通に仲良かったから。

反応無かったから忘れてたのですよ。

　花は思いました

　「もう、なんもかんも怖いっ知ーらねっ」

花の悪いところなのですよ。

物事の後始末をキチンとしないところが。

どう本当の事を切り出せば良いか分かんなかったのですよ。

しかし、意外な形で花の壮絶ないたずらはやっとこさ出口を迎える事になるのですよ。

　数カ月後。

花は件（くだん）のおじさまに小声で話しかけられましたですよ。

　「オフ会のイベント、神戸で遠いけど前乗りとか休み取らなくて大丈夫？」

はっ？なのですよ。

何言ってるのか全然分かんなかったです。

どうやら動画主さまがオフ会の告知をされていたそうですね。

　花は今しか無いと思って正直に言いましたです。

　おじさまは

　「なーんだっすっかり信じ込んでたよー」

と笑って許してくれたのですよ。

本当に良かったと肩を撫で下ろす花なのです。

真面目な人を騙すような真似をしてはイケないと肝に銘じた花なのでした。