花を遮るものは何も無い

 花は狭いところがどうにも苦手です。

閉所恐怖症とまではいかないと思うんですけどね。

我慢して入ってろって言われれば、何とか居れるとは思うのですよ。


でもどうにも息苦しくて、居心地がわるくて、そわそわもじもじしてしまうのですよ。


ですので花は出来ればカーテンも閉めたくないのですね。

閉めると自室がたちまち居心地が悪い場所になってしまうのですよ。

でも我慢は出来るので誰かに言われれば閉めますですよ。


 花の現在の住んでいるアパートは高台の上に建っておりますよ。

ベランダからは街を見下ろせる立地なのです。

ベランダの向こう側も砕石が敷かれてすぐに柵になっていますね。

人が通れる作りではありますけど、わざわざ通る感じにはなってないのですよ。


アパートの作りがちょっと変わっているのですよ。

一階には二つのスペースだけ有って、一つは大家さんのお仕事の事務所なのです。

そしてもう一つが入居者用のワンエルディーケーなのですよ。

上の階から本格的なアパートの作りになっているそうで、ワンケーらしいのですよ。


花のお部屋は一階です。

大家さんはお仕事が終わればおウチに帰るので、実質一階には花しか居ないのですよ。


ここの良い所は一階なのに一階とは全く感じないところなのです。

窓からの眺めは高層のそれですし、人が通る事も無いので他人の気配も感じないのです。


昔、違うアパートの一階に住んでたいた時は下着を盗まれた事もありましたが、そんな心配もほとんどないのですよ。


花はこのアパートに住んでからカーテンを閉めない生活をしてるです。

その位の開放感と安心感。

スバライシ。

スバライシよムスカくん。


そして花は若干裸族の気質がありましてね。

基本的には下着で過ごしますです。

締め付けキライ。


 とある日の事なのですよ。

時間はもう深夜だったと思うのですよ。

花はほっそーいながーいグラスにカクテルを作りましてね、ストローでちうちう飲んでおりました。

洒落込みたい気分だったのでしょう。


ちうちうしていると視界の端に白い影が移動したのです。


花は立ち上がってベランダの窓まで移動しました。


外を覗くと、白っぽい服の青年が腰を屈めながらテケテケと歩いていたです。

そして花の部屋から死角になるかならないかの場所までテケテケテケ。


立ち上がる青年。

目で追う花。

振り向く青年。

ちうちうしてる花。

目が合う二人。

驚く青年。

ちうちうしてる花。

慌てて逃げて行く青年。

それを見送る花。


 花はちうちうしながら青年の背中を見て思いました


 「よかよ、よかよ、見んしゃいね」


十代の頃に痴漢にあった花は、驚きと恐怖のあまり一言も発せられなかったです。

そんな花も随分と大人になったものなのですよ。


ちうちうしながら暗闇へ消えて行く青年を眺めて花はハッとしました。

慌ててパンツを確認しましたね。

黒と紫でしたね。

テカテカした。


 花は思いました


 「まぁ良い方のパンツだな、セーフやね」


ベージュのやつじゃ無くてホッとする花なのでしたよ。


 そして青年に思いますよ


 「次は黒っぽい服で来たほうが良いと思うよ」

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