~第2幕・若様を癒すでござる~

 場所/部屋の中


 SE・パンパンと手を二回叩く音

 SE・ガタッ、と床の一部が開く音


「お呼びでござるか、若様! ……よいしょっ、と」


 SE・バタンッ、と床が閉まる。


「え? ここでござるか? ふひひ~、天井裏からの登場ばっかりでは芸が無いので、新しく作ってみたでござ――嘘、ウソでござる! ほ、ホントは何か起こった時のための若様の脱出ルートでござる!」


「ホントでござるよ~、若様ぁ。信じてください。こ、このクルミのカワイイ瞳を見ても信じてもらえないでござる?」


(近寄る)

「じ~~~……」


(離れる)

「信じてもらえたようでなによりでござる。――ほえ? あ、はい」


(右側へ移動しながら)

「脱出の話はホントでござる。他にもこっちの掛け軸の後ろとか――」


(右から左へ移動しながら)

「更に、こちらの壁にも隠し扉が仕掛けてあるでござる。これでどこからでも、どのルートで襲われても若様は無事に脱出できるでござるよ。拙者、がんばった!」


(正面へ)

「んふふ~。褒めてもいいでござるよ? 拙者の頭を撫でる権利は、若様に与えられた特権です。さぁ、ワンコの頭をナデナデするように拙者の頭も撫でるでござる」


「…………ま、まだでござるか? え? 撫でない……?」


(プイ、と横を見ながら)

「若様のケチっ」


(正面を向いて)

「もう頼まれてもお茶やおかしを持って来てあげないでござる。いいんですか、夜中に甘味を食べたくなっても。拙者なら得意な忍術でこっそりと運ぶことも可能でござる。しょうがないので、今日から拙者だけで楽しむでござるよ~。……ちら? ちら?」


 SE・ワシャワシャと頭を撫でる音


「んふふ~。初めから素直に撫でていればいいのですよ若様。ついでに拙者のお腹も撫でるでござる? 拙者は若様のワンコでござるので、いつでも服従するでござるよ。――え、いらない? 残念だワン」


「それで、ご用件はなんでござりましょう? いつもの耳ふーでござるか? 耳のマッサージ? ヒマなので遊びます? それともおやつをいっしょに食べて欲しい、とかでござろうか?」


「んん? 良く見ればお疲れのご様子……あぁ~、分かったでござる。ずばり、按摩でござるね!」


「ふっふっふ。拙者、短いながらも若様のお世話をしてきたでござるからな。若様の状態など、一目見ただけで看破できるでござる。え? ……え~っと……さっきの質問というか提案というか、ちょっとした戯れ。あ、愛情表現でござる。ほ、ほら服従してるでござりましょう、拙者?」


「あ、はいはい。余計に疲れさせて申し訳ないでござる。さっそく肩をおもみするでござるよ!」


 SE・シュタタタタ、という素早い足音


(後ろへと移動)

「いつもどおり若様の後ろを取って……肩を、んっ、もんでっ、いくでござる」


 SE・肩を揉む衣擦れの音が続く


「ふっ、んっ……うわぁ、若様、ホントにお疲れみたいでござるね。カチカチでござるよ、肩。そんなに根を詰めても、良いことなんてあんまり無いでござる」


「んっ、ふっ、んぅ、ん~……確かに仕事や、んっ、作業は大事でござる。でも、それで体を壊してしまっては意味がないでござるから、ね。んっ、んっ、よっ、ほっ。なにごともホドホドに、力を入れるところと抜くところを見極めるのがコツでござる。拙者みたいに」


「んえ? んふふ~」


(右耳に口を寄せて、こそこそ)

「若様が優しいからでござる。拙者がサボってても若様は許してくださりますので。拙者も安心して若様のお世話ができるというもの。若様は拙者の癒しでござります。ふふ、いわゆる『抜きどころ』というやつでござるな。男の子が言っていた言葉でござるのだが、こういう意味だったでござるね」


(離れる)

「あれ? どうしたでござる? ほえ? なんでもない? はぁ……?」


「若様はときどき変でござるよね~。拙者はそんな若様が好きで――いや、なんでもないでござる。隙だらけでござるからね、若様。油断していたら若様なんて、すぐに敵に捕らわれてしまって、泣きながら拙者の助けを待つことになるんでござるよ」


 SE・肩を撫でる音


「そうならないためにも、疲れてヘトヘトになるまでの作業なんてしちゃダメでござる。余力を残してこそ、でござるよ」


「いつでも全力で動いていたら、いざという時に動けなくなってしまいます。おなかいっぱいになったのにデザートを持って来られたら困るでござろ? それとおんなじ」


「食事も仕事も、腹八分目が丁度いいのでござりますよ」


「んふふ。今の、拙者の名言にしてもらってもいいでござるよ」


「ふぅ。肩たたきもするでござりますね」


 SE・トントントン、と肩を叩く音。


「肩たたきって、実は意味がないっていうのを聞いたことがあるでござる。でもこれ、気持ちいでござるよね~。若様は好き?」


「んふふ~。拙者も好きなんでござる。え? そりゃ忍者だって肩はこるでござるよ。長い間、天井裏に張り付いたり床下に忍んだりして、狭いところにいるでござるからなぁ。肩も腰もコリコリなんでござるよ。今度、若様が肩を揉んでください」


「え~、いつも若様のお世話をしているのですから、それくらいやってくれてもいいでござるのに。若様はやっぱりケチでござる」


 SE・トントントンと肩を叩く音が少し強くなる。


「ふん、ふん、ふんっ、と。これぐらい強くしても平気そうでござるね。続けるでござるね」


「よ、ほ、ふ、ん、ほ、ん……ふぅ」


 SEストップ。


「いい感じにほぐれたでござるかな。次は、細かく叩いていくでござる。こう、手刀のように手のひらを伸ばして、両手で――」


 SE・トトトト、と軽い感じの肩へのチョップ音


「叩いていくでござる。トトトトト、トトトトトト。トントントトトト。ふふふ、忍者の連続技でござる。若様も一撃で気持ちよくなってしまうでござるな。んあ、連続技なので一撃とは違うか……ふへへへへ」


 SE・パン、と両肩を叩く


「はい、と。これでほぐれたでござるかな~」


 SE・肩を撫でる音


(左耳に近づいて、こそこそと)

「若様わかさま~。気持ちよかったでござる? んふっ。若様、やっぱり耳が弱いでござるね」


(左耳にふー、と息を吹きかける)


(こそこそ話で)

「ふふ。では、これで仕上げでござるな。ふ~、ふ~ぅ~……ふっ、ふっ、ふぅ~~~」


(右側へ)

「反対側も……ふ~、ふ~、ふっ、ふっ、ふぅ~~~……」


(後ろへ)

「はい、おしまい。どうでござる? 気持ちよかったでござる?」


「それはなによりでござります。えへへ~。若様のためなら、拙者いくらでも気持ちよくしてさしあげられますので、いつでもどんな時でもどんなことでも呼んでくださいでござる」


「んぇ? 誰にも言ってるわけないでござるよ。拙者は若様のお世話係なので。心配しなくても大丈夫でござる。んふふ~、拙者は若様専用でござりますよ」

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