見習い忍者クルミちゃんはポンコツかわいい
久我拓人
~第1幕・自己紹介するでござる~
場所/部屋の中
SE・トントントン、と天井裏を歩く音
SE・シュタ、と着地する音。
(正面から)
「お初にお目に掛かります若様。このたび、若様の護衛とお世話と雑用とか、なんかそのあたりをお任せされましたクルミと申す者でござる。若様が立派な人になられるよう、影ながら支えていくので、よろしくでござります」
(小声で)
「よし、挨拶は完璧。練習通りにできたでござる……!」
「は……え? あ、はい。忍者らしく天井裏から参上してみたでござる! どうでござりました? カッコ良かったでござる? 忍者としてはやっぱり――え? 足音が聞こえてた!?」
(小声で)
「し、しまったでござる……初めての任務に若様のお世話を任せてもらえたという喜びのあまり浮かれてしまったでござるぅ……」
「ハッ! い、いえ、なんでもないでござる。さすが若様、拙者の気配を感知するとは、なかなかの危機管理能力でござります。拙者、感服いたしましたでござる」
「ほえ!? せ、拙者は本物でござるよ! 忍者の里で修行して、正式に若様のお世話係に任命されたでござる! れ、連絡いってるでござるよね? いや、く、曲者ではありません。ほ、ほら、もしも敵だったら、今ごろは若様に襲い掛かっているはずでござる。こ、このように頭を下げて無防備な姿をさらすなんて、そんな忍者はいないでござろう?」
SE・バタバタと体勢を変える音
「な、なんならこの通り、ワンコの服従のポーズも取れるでござる! 忍犬はこうやって躾けるでござるからな。若様もお腹を撫でていいでござ――」
SE・バタバタと体勢を変える音
「や、やっぱりダメでござる。若様に撫でてもらうなど、恐悦でござります! はぁはぁはぁ……」
「し、信じてもらえたようで一安心でござる。ふぅ~……また師範に怒られるところでした……あの師範怖いんでござるよねぇ……あ、若様も知っています? そうなんでござるよ、しょっちゅう叱られたでござる。ようやく一人前の忍者になれたかと思ったら『おまえなぞ半人前だ、見習いクルミ』なんて言われたんでござるよ。ひどいでござるよね」
「とと、失礼したでござる。改めまして、ご挨拶させてもらうでござります。若様のお世話をさせていただく忍者のクルミでござる。このように――」
SE・パンパンと手を二回叩く音
「手を鳴らして頂くと、若様がどこにいても参上するでござる。例え火の中、水の中、お風呂の中でも遠慮なくでござりますよ。試しに鳴らしてみてもらってもいいでござるか? ……いや、お試しにでござる。け、決して拙者が聞きたいだけ、とかそういうのではないので安心してくださいでござる」
少し間をあけて……
SE・パンパンと手を二回叩く音
「ハハッ! お呼びでござるか若様! なんなりとご命令を! ……こんな感じでござる。にへへ~」
「ほえ? 命令ですか? ほんとになんでもいいでござるよ? 肩こったから揉め~とか、お腹すいたから台所から何かおやつを盗んで来い~、とか。ヒマだから遊び相手になれ~、とかでも問題無しでござる。拙者に掛かれば朝飯前です。夕飯前のおやつはぷにってしまうので注意が必要でござるけど」
「お、さっそくの命令でござる? ――へ、拙者の得意忍術でござるか? ふっふっふ、お任せを! 得意技は風遁の術でござる!」
「忍法『風起こしの術』!」
SE・ゴオオオオオオオ! という暴風の音。バサバサと紙が舞う音が加わる。
「んふふ~、どうでござ――え、やり過ぎ? そ、そうでござるか……で、でも得意なのは本当でござるので、その、若様が風が必要な時には是非とも拙者を呼んで頂けると……」
「ほえ? 耳ふー? なんでござる、それ」
(顔を近づける)
「ほほ~、それは若様の好きなことなんでござるか? 拙者と同じで変わってるでござるね、若様。ふふふ、拙者に任せるでござるよ若様。若様のお願いは拙者が全部叶えるでござる」
(後ろへとまわり、耳をさわる)
「ふ~ん。若様の耳ってこんな形をしているんでござるね。特徴的というか、なんというか。拙者の耳と触り心地が違うでござるね。むふふ、それにしても若様。忍者に背後を取らせるなんて、若様は甘々でござるな」
(耳元でコソコソと)
「拙者が敵の忍者だったら、今ごろ若様は危なかったでござる。拙者が若様の味方で良かったでござるね」
(離れて、後ろから)
「んふふ~。若様、実は耳が弱点でござるね。ビクビク、と反応が見えたでござる。相手の弱点を攻めるのは忍者の基本。いくでござるよ~」
(右の耳に息を吹きかける。ちょっとうるさいぐらいに強め)
「んふ。ふふふ。ホントに好きなんでござるね若様。いいでござるよ、拙者は若様のお世話をするのが任務でござるから。つまり、若様を気持ちよくさせる義務があるのでござる。いくでござるよ~」
(右耳にふー、左耳にふー、と息を吹きかける)
「どうどうどう? どうでござる? 気持ちいいでござるか?」
「んふふ~。拙者も褒められて嬉しいでござる。耳ふーして欲しい時はいつでもパンパンって呼んでくださればいいでござるよ。若様のためならいつだって耳ふーしてあげるでござるよ」
「では、もう少しだけ」
(右耳、左耳に交互に息を吹きかける)
「ふ~……ふ~……ふふ、若様いちいち反応しちゃってるでござる」
(ふー、という単調な物からふっ、ふっ、と短く吹きかけて、ながーく吹きかける)
(最後に、はぁ~、と冬に手を温めるように吹きかける)
「ふぅ。ちょっとクラクラするでござるな……あ、大丈夫でござる。拙者、得意忍術を風遁の術から耳ふーの術に変えるでござるね! ――え、ひみつ? なんで?」
「は、はぁ、なるほど。確かに敵にこの情報が漏れたら若様の弱点がバレバレでござるよね。耳ふーが好きと分かれば、簡単に裏を取れてしまうでござる。若様の命が危ない」
「ほへっ、せ、拙者だからこんな情報を教えてくださったのですか!? あ、ありがとうござります!」
(正面へと移動)
「ありがたき幸せにござる若様! 拙者、誠心誠意こころを込めて若様に仕えさせていただくでござる」
「どうぞ、これからも末永く拙者をよろしくお願いするでござる」
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