三話 高校生活

あの後は家族が来た。そして、今後について話された。俺の体はおかしいようで、あと一週間で体は完治するようだ。これも神の力なんだろうか。


記憶が消せるとか、運命触手で未来が見えるとか。非現実的な能力を持った俺は今、何でも出来る。でも、それは自分の力では無い。神に頼ったばかりの結果なのだ。結果なだけであって、自分が求めた過程はない。つまり、空っぽ。


あまり深く考えているのはよくない。それより、海波さんの記憶を消した時、まだ運命触手は海波さんに繋がっていた。これは、どういうことだ。


まさか、今後も関わることになるのか。いや、まさか。そんな、まさか。これが幻想であることを願うばかりだ。




全てが元に戻った。何事も無かったように、高校生活が始まる。だが、俺は盛大なミスを既におかしていた。


そう、友達が作れない状況にある。考えてみればそうだ。だって、俺は怪我をしたせいで入学式も自己紹介も遅れたわけだ。一週間もあれば、友達だって出来るし、そのグループだって生まれるわけだ。簡単な話、俺がどうこうではなく、時間が解決してくれる問題。それも、時間が無い俺には解決してくれそうにない。よって、人生詰みパターンが完成だ。


しかし、俺は今までこんな状況を何度も経験してきている。今更、気にすることでは無い。一つ、気になる点があるとすれば、海波さんと同じクラスになってしまったことだ。


多分、いや、確信に変わった。運命触手はこのことを示唆していた。''クラスメイト''っていう肩書きが関係しているだけで、深くは考えなくて良さそうだ。


お昼休憩の時間だ。お母さんに作ってもらった弁当でも食べるとしよう。教室で食うのは気が引けるが、もうその域を超えている。ガヤガヤとする中で食う弁当は格別に美味しい。


皮肉が効いていてな。


弁当を食べ終わった後は、寝たふりだ。これはぼっち共通の特技と言っても過言では無い。ぼっちはあるべきして生まれただけで、決してなるべくして生まれた訳では無い。それにしても、こんなつまらないやつになぜ、神は力を与えたんだ。優秀な人ほど、この世界では死にやすい。神は綺麗な花を見つけて取っている。俺はどちらかと言えばたんぽぽみたいな立場で、平凡で、見て、あーたんぽぽだなって思われるだけだ。


見方を変えれば、これを面白いやつだと思う奴もいるってことだ。なんだか、それだけで納得してしまう自分がいる。


「ねぇねぇ、二組の柳っていう人かっこよくない?」


「えっ分かる。」


寝たふりをしていると大抵、クラスの情報が聞ける。どうやら、イケメンの話をしているらしい。そのグループには海波さんもいた。興味は無いけど、話は勝手に聞き入ってしまう。


「バスケ部で超強いんだって。」


「えー。今度、見に行かない?」


「それはあり。明日放課後、部活見に行こ。」


「あっつーも来るよねっ!」


ちらっと、海波さんを見ると少し困っている顔をしていた。


「うん、行こうかな。」


やはり、美少女は面食いではないと俺の倫理観が壊れそうだ。このクラスの男子たちの殺意が込み上げてくるのが分かる。みんな、あのグループの女子達を狙っているっぽい。あれはなるべくして出来たようなグループだ。俺とはかけ離れている。


放課後、俺は何もすることは無い。先生に部活動とかの話を聞いたが、対して興味があるものはなかった。というより、運命触手のせいで戦略性もあったものでは無い。未来が分かってしまえば、相手の動きや勝ち負けが簡単に分かってしまう。


入る気は無いが、バスケ部はどうやら年々、人が少なくなっているらしい。勝てないことが多いのか、そもそも、人気が落ちていっているのか分からないが、なくなってしまうのも時間の問題だろう。その時は、考えなくもない。


帰り道、俺は少し気が引ける場所にいた。それは、鉄骨に下敷きにされた場所。いわゆる、トラウマってやつだ。自分からやられに行っといてトラウマになるなんて、ただの馬鹿でしかない。海波さんを助けられたのは良かったけど、よく思い出すと鳥肌が止まらない。海波さんが本当にトラウマにならなくてよかったと思う。天使から鳥になりかねない。


家に帰ると、妹がソファーに寝転んでいた。珍しいこともあるもんだな。なぜ珍しいかと言うと、妹の中学校は祖父母宅の方が近く、妹はそっちにしばらく住むことにしていた。だから、ここにいること自体あまりない。


「珍しいな。」


「ちょっと用事があっただけ。」


俺と妹の関係は、あまり好ましいものでは無い。俺の昔からの変な考えのせいで、家庭状況は悪い。それゆえ、妹との関係はピラミッドの底辺にいる。逆さまに出来たらと何回でも思った。土台がしっかりとしてなければ、崩れ落ちる。やはり、この関係がしっかりと来てしまうのだ。


「すぐに帰るのか?」


「うん。」


うんともすんとも言わない関係ではない。ただ家族なのに距離がある。反抗期よりも何か異質なものを感じる。




翌日も変わらず、俺は教室で一人で弁当を食っていた。運命触手が役に立つ場面なんて、そんなにあるわけじゃない。今までの生活が少し、楽になっただけだ。世界のことなんて知れないし、というか、知りたくもない。大予言なんてただの世界を面白くするスパイスだ。言ってしまえば、嘘も大事の方が信じやすい。


一人の人間に力を与えたところで、何も変わらないのが世界だ。俺が今、実感している。それにしても、ハスターという神をどこかで聞いたことがある。この世にいる神、なんだろうか。


放課後のこと。海波さんのグループはバスケ部の柳さんというイケメンを見に行った。そして、俺はなぜかそのバスケ部の見学にいる。なぜだ、どこで道を踏み外した。


家に帰ろうと廊下を歩いていたら、前からバスケ部の人が来て、断れず、見学しに来てしまった。何たる不覚。


「柳って言う奴、かっこいいよな。」


連れてきたやつの名前は山名合。俺よりはイケメンなことがムカつくのと強引にここに連れてきたことにムカついている。それ以外の印象は良いの称号が与えられるだろう。


「その人を見に来ている人も多いらしいですね。」


「あいつはバスケ部の栄光になるに違いない。」


あんな奴がいたら、誰でも入部するのが答えだ。吸い寄せるメンタルに驚きを隠せない。これが無自覚カリスマというものか。


バスケというのをあまりしたことがない。見てしまえば、高揚感が湧くのはどの部活においてもそうだ。シャトルランを短く往復する様は息が苦しくなるのが盲点だ。チームワークが大切で、どこにパスをするかが重要になる。


俺の運命触手はそのバスケットボールの軌道を描いていた。だから、どこに落ちて、誰にパスをするのか丸わかりだ。テストでカンニングしているかのような気分で罪悪感を感じる。


「きたっ!」


場の盛り上がりが頂点になる。一斉にワッとなり、柳さんから水に雫が垂れたように広がっていく。その波紋は止まることを知らない。


柳がゴールに入れる前に俺は運命触手に違和感を感じていた。ボールの軌道は、ゴールの方には行っていない。些細なことは分からないが、若干柳さんの手からボールが滑っているように感じる。


軌道は海波さんのグループに向かって描いている。体育館の二階は試合を見下ろせる場所があって、そこに海波さん達はいる。運命触手は完全にボールが当たると予測しているようだ。海波さんは以外にも不幸という体質があるのかもしれない。美少女にもこんな損があったなんて。


いや、そんなこと言っている場合では無い。海波さん以外にも人にも怪我をする場合がある。バスケットボールはかなり重い。当たってしまえば、骨折も有り得る。腕があらぬ方向に曲がってしまう前に俺があのボールを打ち返さなければ、バスケ部と柳さんの人生が終末を迎える。


「どこ行くの!?天宮君!」


すまない、山名さん。俺は走るしかない。力を得たものだけが見える世界で、走り抜け。神はこれを見据えていたんだろう。俺が人を助けるどうこうじゃない。


閉ざされた意味合いは常闇にまみれることは無い。いつしか、必ずしもその姿に騙される奴がいる。


走り出し、海波さん達の前に行く。ボールがもう目の上に来ている。手、足、腕、いや、頭で跳ね返すしかない。運命触手で、位置は完全に分かっている。位置は完全に理解している。


俺はボールを頭突きで跳ね返す。その瞬間、意識が朦朧として、何も考えられなくなる。


「えっちょっと!」


声が聞こえた途端、意識は消えていく。




目を覚ますと、見慣れた天井が迎えてくれていた。ゆっくりと身体を起こすと、頭に激痛が走る。思わず、体をビクつかせてしまった。


ここは保健室のようで、カーテンで周りが見えないようになっている。保健室には俺以外にも人が居るみたいだ。少し話し声が聞こえる。


「ごめん。俺、部活行かなきゃいけないんだ。あいつによろしく言っといてくれ。」


この声は多分、柳さんだろう。あまり心配はして欲しくない。自ら選んだ選択を蔑まれているような気がして、悲しくなる。


「分かった。頑張ってね。」


海波さんのグループの一人がそう言うと、柳さんは保健室から出ていった。人気者は忙しいな。


今回も記憶を消したかったが、あんなに大勢がいる中でしたせいで、全員の記憶を消さなければならない。つまり、不可能だ。しかし、このままだと図々しい奴だとか偽善者とか言われて、さらに居場所が無くなる。元から居場所なんてものは無いけど。


「貴方たちも帰りなさい。私が後で色々伝えておくから。」


あまり幼さを感じられない声の主は保健室の先生だろう。声の端々から優しさを感じる。


「分かりました。」


複数人でそう言うと、保健室から海波さんのグループは出ていったようだ。過度に心配されるよりはマシな状況になった。


「あら、もう起きてたのね。」


カーテンを開けて、保健室の先生だと思われる人に一礼をする。こういう時、気まずいのは何故だろうか。


「もう平気なんで帰りますね。」


「本当に?軽い脳震盪を起こしてたから気をつけて欲しい。」


「脳震盪で済んだなら大丈夫ですよ、では。」


「人を助けるのはいいことだけど、自分の身を守ることが最優先なの。今日は身を安全にしなさい。」


出来る限りそうさせてもらう。帰って寝たいのが本音ではある。こんなところでずっと寝られるわけない。俺はまた保健室の前で一礼して、家に帰った。

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