第4話 会社の後輩小悪魔彼女はデザートになる

「はぁ〜もうすぐアパート着いちゃいますね」


「まあ先輩からしたらようやくアパートに着くって感じでしょうけど」


「最初は申し訳ないって気持ちが強かったんですけど、もうすぐ降ろされちゃうって考えると名残惜しくなっちゃいます」


「……」

//寂しそうに


「え、名残惜しいならもうちょっと歩くかって?」


「ふふっ。今日だけで何回先輩の優しさを実感させられるのやら」


「わざとらしい優しさがわざとらしくないっていうのが先輩のすごいところですね」


「ただでさえ仕事で心身共に疲弊してるっていうのに、そんなこと言ってくれる人普通いませんよ」


「そう言ってくれただけで十分嬉しいです」


「ここまでおんぶしてくれただけでもかなりお疲れだと思うのでこのまま帰りましょう」


「おんぶして歩き回ってくれるのも嬉しいですけど……家でしかできないこともありますしね」

//耳元で囁くように


「先輩って先輩なのに反応が面白いからからかいがいあるんですよね〜」


「……私やっぱり、先輩と付き合ってよかったです」

//耳元で囁くように


「先輩以上の人なんて、この先どれだけ探しても現れないでしょうから」


「大袈裟だろって、大袈裟でも何でもありませんよ」


「まあ大袈裟にいうとしたら、先輩くらい優しさ人間はツチノコくらい希少だーって言いますかね」


「そこはペガサスだろって、先輩もいい感じにノッてきましたね」


「……先輩、私がなんで先輩のこと好きになったか知ってますか?」


「まあ鈍感な先輩のことなので、絶対知りませんよね」


「私としては先輩が鈍感なのは嬉しいことですけど」


「あ、でもその鈍感さのせいで付き合う前かなり苦労させられたの思い出しました。謝ってください」


「ふふっ。冗談ですよ」


「私、今の会社に入社したばかりの頃、どの階にどの部署があるとか全然分からなくて迷子になってた時があったんです」


「その時に先輩が、どうしたんだ? って声かけてくれて私を目的地まで案内してくれたんですよ」


「しかも、まだ入社したばかりで緊張してテンパってた私のために、自販機で缶コーヒーを買って投げ渡してくれたんです」


「社会人になりたてだった私は会社って怖い人しかいないところなのかなーって思ってたんで、その時はびっくりしましたよ。会社にこんなに優しい人がいるんだなーって」


「それからはもう沼でしたね。先輩沼」


「先輩のこと会社で見かけると絶対目で追っちゃってましたし、会議の連絡がメールで回ってきた時は宛先に先輩が入ってるかどうか毎回確認したりしてました」


「仕事に集中しろよって、それ言われちゃうとぐぅのねも出ませんけど……」


「まあ確かに先輩は私と違ってほんっと真面目でしたよね。まだ私たちが付き合う前、会社No.1と呼び声の高い美少女の私がどれだけ目を合わせようとしても全くこっちに視線送ってくれませんでしたもん」


「仕事中なんだから当たり前だろって、そりゃそうなんですけど……」


「あ、もしかして目を合わせるのが恥ずかしくて私の方に視線送ってこなかっただけなんじゃないですか?」


「……」

//先輩が無言になる


「え、ちょ、何なんですかその反応、まさか本当に……?」


「そんなわけないだろって、そ、そうですよね!  先輩に限って私と目を合わせるのが恥ずかしくて一度も目を合わせてくれなかったなんてあるわけないですよね!」


「……」

//気まずい空気


「と、とにかく! そんな先輩だったからこそ余計驚いたんですよ。勤務時間外とはいえ、まだ会社の中にいるのに急におんぶするって言い出すから」


「え、私が知らないだけで俺もこっそり私を見てた?」


「おいおい〜。仕事に集中しろよ」

//耳元で囁くように


「ふふっ。でも先輩も私と同じ気持ちで仕事してくれてたのは嬉しいです」


「こんなに優しい先輩に好きになってもらえた私は幸せ者ですね」


「え、こんなに可愛い後輩に好きになってもらえた俺も幸せ?者?」


「や、やめてください。そんなこと言われたら恥ずかしくて顔が爆発しそうになっちゃうじゃないですか」


「今がおんぶされた状態でよかったです。じゃないと真っ赤になってる顔をまじまじとみられちゃうところだったので」


「着きましたね。アパート」


「よっと。先輩、おんぶありがとうございました」


「わ、私、重いから疲れましたよね……?」


「次までにはその、ダイエットして体重軽くしておきます」


「そもそもおんぶされるような状況を作るなよって、その通りすぎますね」


「え、足はもう大丈夫なのか?」


「先輩におんぶしてもらってる間に少し痛みが引いたみたいなので、もう普通に歩くくらいは問題なさそうです」


「足の痛みも引いたので、今からご飯作りますね。何が食べたいですか?」


「え、俺が作るから大丈夫?」


「はぁ……。先輩が優しすぎて私そのうちダメ人間になっちゃいそうです」


「じゃあ今日はお言葉に甘えさせていただきますね」


「ご飯はお願いしますけど、食後のデザートに精一杯ご奉仕させていただくので、覚悟しておいてくださいっ♪」

//イタズラするように


「先輩っ」


「今日はありがとうございました。」


「今日もこれまでもこれからも、ずーっと先輩のこと、大好きですよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

足を挫いた会社の後輩小悪魔系彼女をおんぶしたら、耳元がとにかくやばい 穂村大樹(ほむら だいじゅ) @homhom_d

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ