第29話 [無生物テイマー、爆散する]
「はぁ……はぁ……」
ギルを殴り飛ばすと、俺の体力を限界がきたようで膝から崩れ落ちる。ガクガクと生まれたての子鹿のように震えていた。
「痛っ……終わったのかな?」
「はぁ……どう、だかな……」
念には念を、だ。確認して逃げられぬよう、そして死体に指示ができぬようにしなければならない。
背中から降りたニヤの肩を貸してもらい、ギルが吹き飛んだ方にゆっくり足を進めた。
数メートル歩くとそこには、虫の息のギルの姿があった。
「く、くひ、クヒヒっ……。ゼェ、この俺が、やられる、なんてなァ……ゼェ」
「そうだ、テメェは負けたんだ。さっさと身柄を確保され……」
「切り札は、何枚あってもいいんだぜ……。最低でも、三つは用意しとかねぇとなァ……」
「何、言ってる」
嫌な予感がする。早く、早くコイツを黙らせて何もできなくしなければ。俺の中で誰かが訴えかけている。
とにかくヤバイ気配がする。
「一つ目の切り札ぁあの暗黒騎士……ゼェ、二つ目も、ちゃぁんとあるぜェ……」
「まずい……! 【
「【
大地が揺れ出す。
大量の何かが地中を泳いでいるように地面が隆起する。そして、大量の人間の死体や狼、魔物、魔獣といった、大中小問わずのものが集合し、どんどん合体してゆく。
「うわ……」
「こりゃあやばいな……」
先ほどのドラゴンや俺の作ったゴーレムを一回りも二回りも上回る、超巨大な死体たちの塊が出来上がった。
四肢はあるが顔がない。神の悪戯でもこんな悪趣味な物は作らないだろうといった具合の代物だ。
ドラゴンより、もっと恐ろしい異形の怪物が爆誕してしまった。
「クヒヒ、俺が操る全死体を集結させ、合体させた無敵の兵器……! 俺に敵意あるもの全てを殺し尽くす……テメェら逃げれねェよ、だが俺ァ逃げれるぜ……!!」
フラフラとしながらもギルは立ち上がり、俺たちに背を向けて森の奥へと逃げ始めている。
ニヤが追おうとするも、あいつが残したモノが行く手を阻んでくる。
使いたくなかったが、致し方がない。アレをしよう。
「どうする、ご主人さま」
「考えがある……。ニヤ、俺がコイツを殺すから、ギルを倒してきてくれ」
「? 倒すなら、一緒に行けばいい」
「ダメだ、ダメなんだ。お前の復讐劇だ、決着を決めてくるためだ……俺が、やってやる。【
俺は羽を召喚し、ニヤに引っ付けて空へ逃がす。何かを察したニヤは、いつものポーカーフェイスを破って俺を止めようとする。
その顔に込められてるのは怒りや焦燥、色々混じってて面白い顔だ。最後かもしれないし、目に焼き付けてやろう。
「待って……待って! なに、するつもりなのご主人さま! スキル使ってでも止めるよ!!? やめて!!!」
「これは命令だ。俺を無視して、ギルを……倒してこい。気張ってけ」
「っ!!」
ニヤ、お前は俺がテイムしている。だから命令させることだってできるんだよ。
ニヤが安全なところまで飛んだのを確認した後、俺は仕上げ作業に移ることにした。収納袋から調理などで使う粉を取り出し、怪物の周りを駆け回りながらそれをばら撒く。
『グ、オオオオオオ!!!!』
「ちょっとノロマなのがまだ助かるなぁ!」
周囲に粉塵がまかれた状態。
次に
「【
そう、俺は空気のテイムに成功をしていたのだ。だが、これは数十センチ程度の立方体空間しかテイムができない。謎だが、今はこれでいい。
イグニとアクアを混ぜ、アリアはどんどん圧縮させる。
俺は自分に力がないと思っていた時も、諦めはしなかった。スキルができないなら、自然現象や化学と呼ばれる類のもので対応しようと考えていた。何千もの本を読んだ。
だから、知っている。
「〝粉塵爆発〟。〝水蒸気爆発〟。〝空気圧縮爆発〟…….。この三つを同時にぶつけてやるよ……!!」
手のひらには今にも爆発しそうになる真っ白に輝く球体と、バチバチとプラズマが発生している立方体がある。
死なないための措置はもちろんとるが、絶対に生き残れるという保証はない。
ほんと、賭け絡みの戦いが好きなんだな。
「じゃあな、怪物。俺もそっちに――逝けたら逝く」
次の瞬間、夜が明けたかと思えるほどの光が森を照らす。強すぎる光で白黒になった世界で、もがき苦しむ怪物の姿があった。
音だけで空間が割れそうなほどな轟音、大地が抉られるほどの衝撃。
アレンは……無残な姿となって項垂れていた。
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