第28話 [聖騎士、暗黒騎士と戦う]

 ―エリサ視点―



 アレンに託された、同時に託した。勝たなきゃ。

 ……けれど、本当に勝てるのか。どんな壁も超えてみせ、どんな悪にも屈しず、ワタクシが目標としたお姉様に。

 剣を構え、目の前の圧倒的威圧感を放つお姉様に剣先を向ける。けれど、それだけで剣身が折れてしまうほどのプレッシャー。


『……【闇薙ダクネス・ブレード】』

「っ!! 【光薙シャイン・ブレード】!!」


 漆黒の剣で葉っぱでも切るかのように優しく薙ぐと、黒い斬撃がワタクシの方に飛んでくる。こちらもなんとか光の斬撃で抵抗し、相殺ができた。

 だが、すでに間合いに入られている。


 ――ガギンッ! ガギィィンッッ!!!


 剣術は今の所同レベル。全然捌ける程度だが、ワタクシが知らないスキルを内包し、それをいつ使ってるかわからない。

 故に安心できず、緊迫した剣の交わりあいが続く。


 光と闇。対極の存在で同等のレベルの戦い。

 だが、環境は違う。現在は夜中。闇の方が有利な状況だ。


『【影潜シャドウ・ダウン】……』

「っ!?」


 お姉様が地面に吸い込まれ、ワタカシの剣が空を斬る。

 影に潜り込み、繋がっている影ならどこへでも移動ができるスキル。今この状況だと有利すぎるスキル。

 周囲の気配を鋭敏に感知しながら警戒を怠らず、剣を構える。


 ――ズズ……。


「そこねっ!!!」


 気配と音がした方に向かい、【光脚】で移動をして横一閃。ワタクシは見事に斬り裂いた。

 ……いいや、おかしい。簡単に斬り裂けるわけがない。

 よく見てみると、斬り裂いたものはドロドロと溶けて影に沈み始めている。それはお姉様ではなく〝影〟だった。


「【影分身】……っ!?」


 四方八方、いつの間にやら大量のお姉様に囲まれていた。

 おそらく使用したスキルはその名の通りの効果を持つ【影分身】。影を媒体として地盤の分身を作り出すスキル。厄介なのは、どれも本物同様に動け、攻撃ができるということ。


「くっ! ワタクシは……ワタクシは……!」

『……【闇撃ダクネス・インパクト】』

「あ――」


 背中に衝撃が走る。もろに攻撃をくらい、自分の体は宙を待って吹き飛ばされた。木々を次々折り、地面に着く頃には全身に電流が走っているかのような痛みに襲われた。

 何か策を、策を考えなきゃ! お姉様みたいに、アレンみたいに……!!


『【闇脚】』

「うぅ……!!!」


 スキルを使用され、どのお姉様の姿も歪んで見えるようになってしまった。自己の位置を特定させずに行動できるスキル。


 どのスキルを持ってしてでもまだ敵わない。

 役職のクラスは同レベル。しかし、経験値が足りない、圧倒的に。姉と妹。その差を埋めるには何が足りないのか。


「敵わ、ないの……?」


 剣を地面に突き刺し膝をつく。目が熱くなり、一滴の涙が頬を伝って大地に落ちる。

 漆黒の剣が迫り来る中、過去の記憶に想いを馳せていた。


『フォルテおねーさま!』

『んー? なぁに、エリサ』

『わたくしもいつかおねえさまみたいにかっこよくつよくなりたいの!』

『あはは、嬉しいよ。そーねー、でも大変だし。……じゃあこれだけは教えてあげる。

 〝交わした約束を守ること〟。これが強さの秘訣だから。なんでかはまぁ、いずれわかるからね――』


 そんな走馬灯を見ていると、誰かの声が頭に響いてきていた。誰だっけ、確か、約束した……。


『エリサ、もし俺が道を踏み外しそうになったら、手ぇ引っ張ってぶん殴ってほしい。

 単純で馬鹿で、絶対折れない正義の芯を持ってるお前がいい』


 そうだ……ワタクシはアレンとそんな約束を交わしていたわね……。道を踏み外し時、いずれ来るかもしれない、未来の話の……。

 未来、を……。じゃあワタクシはなんでここで斬られるのを待っている? 死んだら誰がアレンを助ける? 交わした約束を破棄するつもり?


 否。


 ワタクシが、ワタクシの力で……! 未来を――!


『ありがとな、エリサ――』


 瞬間、瞳に光を取り戻し、剣を強く握った。立ちはだかる強靭を弾く一撃を放つ。


「【光芒一閃】ッッ!!!!」

『……!』


 一瞬お姉様が焦ったように見えた。

 ゆらゆらと立ち上がり、邪念を振り払うが如く剣を薙ぐ。


「ワタクシは……! こんなところで死ぬわけにはいかないの! 勝って、越えなきゃいけない理由わけがあるのよっ!!!」


 今ま、ワタクシはなんのために戦っていたのか曖昧だった。街のため? 市民のため? 団の仲間のため? お姉様のため? 両親のため?

 曖昧だったけれど、アレンと交わした約束をちゃんと守らなきゃって思うと、自然と力が湧いてくる。勇気が湧いてくる。


 制限リミッターを、壊してくれる。


「ふーー…………」


 お姉様はスキルを習得し、使いこなし、無双してきた。ワタクシもそれを真似て、〝技術〟の習得を怠ろうとしてきた。

 技術は面倒で、難しく、ワタクシには扱えないと思い込んでいたから。けど今ならいける気がする。


 この一撃で全てを断つ。

 後悔も、恨みも、憧れも、全てを!!!


 周囲から一斉にワタクシには襲いかかろうとしてくるお姉様達に対し、その場でしゃがみこんで剣を鞘に収める。瞳を閉じ、全身の筋細胞を活性化させ、一瞬に全力を込め、放つ!


空式くうしき――〝日輪転にちりんてん〟!!!!」


 自分の周りを薙ぐ抜剣の一撃。上から見るとまるで、日輪のように見えただろう。


『――――』


 分身はどろりと溶けるが、その中の一体だけ、上半身と下半身が真っ二つに割れて倒れこむ者がいた。


「う、うゔ……! 勝ったわ……勝ったわよワタクシぃ……!!」


 ぐちゃぐちゃな感情なまま、ワタクシは憧れのフォルテお姉様に勝ったのであった。

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