第27話 [無生物テイマー、怒りの拳を放つ]

「【泥弾マッド・ショット】!」

「【水弾アクア・ショット】ォ!」


 俺が泥の玉を放てば水の玉を放つ。あれを出せば有効なそれを出す。勝ち目なしの後だし虫拳をされている気分だ。

 だがこっちにはお前の持っていないのを持ってる。


「ニヤ!」

「りょ〜。【偽界フェイク・ザ・ワールド】」

「ッ!?」


 ニヤのスキルによってギルは臨戦体制を解き、地面にひれ伏している状態になっていた。

 すかさず【鋼糸吐き】で動きを止めて【響骨】を発動させた棒をぶん投げてギルにヒットさせる。


「ニヤ、チャンスだッ!!」

「っ……おっけっ!」


 少し頭を抑えながらもニヤは背中から降りてギルの方へ駆ける。


「グ……! こんな、ところで終わるとでもォ!? 増援だァ!!!」

『『『『『ヴァァアァ』』』』』


 地面から数百もの死体が生えて俺たちの道を阻む。その隙に死体たちに糸を解いてもらっていた。

 剣を構えて向かってくる死体たちに相手をしようと思っていたが、目の前にいたのは……。


「ガッ、ト……?」

『ヴ、ァア……!』


 こめかみに穴が空き、土で汚れて唾液を撒き散らすガットと、他の四人の姿があったのだ。

 なぜここに? いや、大体は予想がつく。あの紅蓮の拳のギルマスに命令でもされたんだろう。名誉回復とかのためにな。


 何はともあれ、コイツらは恨んでいる。だから関係がない。手加減とか、なんとかして助け出そうなんて微塵も思っちゃいない。

 ニヤを背負った後に剣を構えて、それを振るう。


『ァ、ゴ――ゴエ゛ン……ゴ、メ゛ン、アレン……!!』

「ッ!」


 ――ズバッ。


 流れるように、知人五人の首を刎ねた。少し俺の動きが止まり、ため息を吐く。


 ガット、最後の最後までお前はお前だと思ってたのに。本当のお終いに辿り着いたお前は、今までの悪行を鑑みて俺に罪悪感でも感じたのか? 気色が悪い。気色が悪いったらありゃしない。


 俺は剣を鞘に収めた。目の前から死体が迫ってくる。


 でもなぁ……はぁ。ガットども、お前らと過ごした日々は最悪そのものだった。けど、まぁ……。


『ガッハッハ! 今日の作戦大成功だったなァ!』

『(今回も俺は何もしてないし……給料も少ねぇ。またいびられるのか)』

『おいどこ行くんだよアレン。お前も飲め飲めェ!』

『いや、俺は何もしてないっすよ……』

『いんや! 今回はお前が活躍してたろ!? だからじゃんじゃん飲めや! 俺ん奢りだ! ダーッハッハ! 今回はテメェのおかげだぜ、ありがとなァ――』


 少しでも楽しいと思える時間があったのも確かだ。ほんのちょっとだけどな。

 俺は生涯お前らのことを恨むだろう。今までされた屈辱の全てを忘れずに呪い続ける。けど、この瞬間だけ……お前たちに優しくされて、楽しかったと思えた分の時間だけ――。


 俺は拳を振り上げる。


 ――お前たちのために、怒ってやるよ。


「【竜鱗纏い】、【月下解力げっかかいりき】!!!」


 思い切り拳を振り下ろすと轟音と共に大地が割れ、そこに死体たちが転げ落ちる。【スタミナ増強】で底上げした体力を持って走ると、金色の瞳からは残光が走った。


「早ェ――!」

「【鉄拳アイアン・ナックル】!!」

「【壁生成クリエイト・ウォール】!!」


 壁を生成するが御構い無しにそれを殴りぬける。間一髪で後ろに下がって躱されるが、ギルの背後から椅子がダッシュしていた。

 椅子はギルに突撃し、俺の拳に近づいてくる。


 この感情は長続きしない。ゆうてガットごときの怒りだ、すぐ治る。だから、ここで怒りの全てを出し切る。


《スキル【憤怒の炎拳ラース・ナックル】を獲得しました》


 無我夢中でただ右腕一点に力を込めた馬鹿正直な一つのことしか考えてない脳筋な一撃だ。赤黒い炎が右腕から吹き出し、髪の毛がチリチリと燃える感覚がする。


「クソッ、回避スキルを――」

「させない……! 【世界の強制順天ムンドゥス・ミア・エスト】!」


 無防備なギルに対して俺は左足を踏み込んで、渾身の一撃を放つ。


「【憤怒の炎拳ラース・ナックル】!!!」


 ――ッッドォォオオオオオオンッッ!!!!


 怒りの拳は、ギルの顔面に炸裂した。

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