第9話 [無生物テイマー、依頼を受ける]
蒼黒の心臓に加入した翌朝。自分の体に羽毛が生えたかのように錯覚してしまうほどのベッドで眠っていた。
今俺がいる場所はギルドの空き部屋の一室だ。いかんせん人がいない、ただ広いだけの城内。ギルドメンバーだしタダで使ってくれても構わないということで、好意を受け入れた。
「う、うーん……」
どこからか視線を感じ、瞼をゆっくりと開ける。一人部屋というにはだだっ広いこの空間を見渡すと、
「うわぁあああああ!?!?」
「きゃああああああ!?!?」
寝起き一番に喉が潰れそうになる。眠気なんか吹き飛び、一気に覚醒した。
「なんで俺の部屋にいるんだ」
「だ、だって……初めてギルドメンバー来たし、お友達になったから……。顔が見たくなっちゃったの……」
「……はぁ。びっくりするからやめてくれ」
「じゃあこれからは事前に言っておくね!」
「そういう問題じゃねぇ!」
ソフィ、意外とあざとい女なのかもしれない。少しドキッとさせられたが、今までに出会った女が最低最悪すぎたからマシに見えるのかもそれない。
……まぁ、本人は嬉しくてやってるんだろうし別に気にしなくてもいいか。
ソフィを部屋から追放した後、パジャマから着替えて下の階に降りると、香ばしい香りが充満していた。どうやら朝食を作ってくれていたらしい。
ニコニコと明るい笑みで机に料理を運んでいるが、流石に量が尋常ではない気がする。
「アレンくんご飯できたよ!」
「え、あぁ、ありがとう」
椅子に座り、二人で朝食を食べ始める。
ここは鳥の囀りさえ聞こえず、カチャカチャとナイフとフォークが皿に当たる音と料理を咀嚼する音しか聞こえない。
そんな中、ソフィが俺に話しかけてきた。
「アレンくん、早速だけど何か依頼受ける?」
「あー、そうしようかな。金もあんま持ってねぇし」
「じゃあ一緒に依頼やろー! ……って思ってたけど、ギルマスとしてやらなきゃいけないのがアレなんだぁ……」
「あれ? ……うわっ……」
指差す方には標高約二メートルある紙の山。あれがギルマスとしての仕事らしいが、他メンバーや補佐さえいなかったらあれくらいあってもおかしくない。
これを一人でこなすとなると、やはりソフィは化け物らしい。
「うぇーん! アレンくんなでなでして……」
「いやなんでだよ」
「えっ、友達同士って撫であいっことかしないの!?」
俺も友達はいないからよくわからないが、男女で撫であいっことかは流石にしないとわかる。
駄々をこねようとするソフィを黙らせ、俺が今日やる依頼の内容を聞くことにした。
「えっとね、私とは真逆の方角の依頼をして欲しいの」
「いくつあるんだ?」
「四個だけど……えーっと、これだ!」
依頼が書かれた紙を渡される。それに目をやり内容を確かめた。
一枚目、イータ崖下の調査。
二枚目、泥魔棒5本(スワンプツリー)。
三枚目、明鏡草10本。
四枚目、道中の岩の撤去。
力を自覚する前だったら調査ですら危険でできなかった気がするが、今なら全部できると考えた。
問題はそこに行くまでの方法だ。まあまあ距離があるので、徒歩で行くのは無謀だろう。
「四つもあるけどできる……?」
「まぁ任せてくれ。あとちょっとしたお願いがあるんだが」
「! いいよ! アレンくんのためなら私なんでもするよっ!」
そういうのは気軽に言わないほうがいいと思ったが、話がややこしくなりそうだったから口には出さなかった。
朝食を食べたあと、ギルドの外に出て件のお願いをすることにした。
「ソフィ、この馬車借りてもいいか?」
指差す先には人が数人乗れそうな新品さながらの馬車だった。
「いいけど……お馬さんいないよ?」
「あぁ、そこは大丈夫。【
馬車をテイムすると、馬がいないはずなのに車輪が回り始め、俺たちの周りをぐるぐると始める。
ソフィは「お〜」と口を開けて驚いていた。
「これがアレンくんの力なんだぁ」
「んじゃあ依頼しに行ってくる」
「あ、アレンくん! 行ってらっしゃい!」
「……行ってくる。そっちもな」
「うん! 行ってきまぁす!」
馬車に乗り込み、目的地を伝えると勝手に走り出した。ソフィはバシュンッという音を立て、一瞬で姿を消していた。
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